Studio KenKen

私のウィンド・シンセ遍歴(98.03)

初めの一歩

ウィンド・シンセの存在を知ったのは、日本の多くのユーザーがそうであったように、SQUARE(現在はT-Squareだが、当時はThe SQUAREだった)のサックス奏者、伊東たけしを通じてでした。

テレビのCMで、銀色に光る妙な管楽器を吹いており、それが時々耳にする爽やかなサウンドであることを知ったのは、確か1983,4年くらいだったはずです。Lyriconを知ったのも、その頃です。ただ、私自身は、カラフルな音を出せるはずのLyriconで、なぜほんの少しの音色にこだわるのかが、よくわからなかったです。

それからしばらくして就職し、最初にウィンド・シンセを買う段階になり、弱りました。Lyriconはなにしろ、50万円を突破するのです。当時のSQUARE人気に目をつけた開発者が、様々なウィンド・コントローラーを出し始めた頃にあたっており(1985年くらいかな)、イシバシ楽器の子会社が作った、ちょっと安いMIDIのウィンドコントーラーを買ってみました。

ところが、全然使い物にならない・・・音量変化も音色変化も、非常にぎこちないし、なによりコントローラーが異常に吹きにくい。
思いあまって、結局ローンを組んでLyriconを購入してしまいました。そして、Lyriconのコピー楽器を作っていたD&Kという会社の出していた、アナログ音源を同時に購入しました。

Lyriconでの試行錯誤

しかし、このD&Kの音源は、ややパラメーターが少ないのと、音がやや細いのとで、あまり満足がいかない日々が続き、ついに中古楽器のMiniMoogを掘り出します。
さすがに名器、それはすばらしい音色でした。ただ、可搬性の悪さはいかんともしがたく、しかも、トランスをかましてやらないとひどくチューニングが不安定になることもあって、実用性は今一つでした。

前述のD&Kですが、Lyriconの生産が中止されたのを受けて、唯一の吹きやすい楽器として有名になっていく中、それまでのTypeIIを改めて、TypeIIIという楽器を出します。
この音源は、TypeIIよりなぜかいい音がして(開発者に言わせると、さほど変わらないはずらしいが)、その実用性の高さから、これを買うことにしました。

D&KのType III

この楽器はすばらしかったです。コントローラーはLyriconよりもやや安定性が高かったようですし、薄くて軽い音源にコントローラーを接続すれば、すぐに音が出せました。

アナログ音源とはいえ、ちょっとつけておけばそこそこの安定性が得られ、私としては、実にいい買い物を初めてできたと、ずいぶん満足していました。実際に、これでオーケストラにのって、代用楽器として吹いたこともあります。それほど違和感のないものになっていたようです。

ただ、吹いていると、せっかくいい音がするのに、音域が3オクターブくらいになるため、クラリネットの名曲を吹けないことがあるのです。そう、クラリネットは音域が広いため、時々吹けないパートが出てくるのです。
それが、不満でしたが、オーボエやフルートの曲を持ってきては、指の練習も兼ねて楽しく吹いていました。

ところが、その平和な日々の中に、噂が流れ始めます。YAMAHAが新規開発中の黒いLyriconがあり、これはMIDI制御ができるものだとかいう噂。実際に、プロトタイプをSQUAREのコンサートで見た人もいたようです。
しかし、それとは比べ物にならない衝撃が、いきなり流れました。

EWI/EVIのデビューと、購入

イシバシ楽器に何気なく入ると、どうもMichael Breckerの吹いている、Steiner Hornの、一般販売版が出るという。会社は、サンプラーのS900で時めいていたAKAI professional。しかも、ラフォーレ原宿のホールで、Brecker本人を呼んで、イベントをうつという。

招待券をもらって、いってきました。至近距離で見るBreckerの、超絶技巧。いやー、すごかった。音域が7オクターブを越え、コントローラーは木管タイプのEWIと、金管タイプのEVIがあって、同じ音源を使うことができる。音源はアナログシンセだが、最新技術で安定性が高いもの。MIDI出力があるので、いままではなかなか難しかった、MIDI制御も可能。

AKAIは本気で普及にかけ、ミニセミナーをあちこちの楽器店で開催し、私も出てみました。そして、やはり7オクターブの魅力に負け、多少吹きにくいコントローラーに賭けて、購入に踏み切りました。
WX7ともくらべてみて、明らかにEWIの性能が上回っていたからです。

しかも、WX7の開発に協力していたはずの、SQUAREの伊東たけしが、EWIで演奏を始める始末。これで、完全にYAMAHAの新しいウィンドMIDIコントローラーWX7は、吹っ飛んでしまった印象でした。

EWIとともに、今に至る

正直いうと、最初にEWIを買ってきたときは、

吹きにくい楽器だなぁ

という印象でした。何しろ、通常の管楽器のように呼吸を管の中にそのまま流すことができず、唇の両端から抜かなければなりません。

さらに、タッチセンサーを採用しているため、ほんのわずかなタッチミスも許されません。最初の1ヶ月くらいは、本当に苦労しました。

しかし、徐々に慣れるに従って、自分の楽器になり始めるのです。タッチセンサーによるダイレクトな操作、息への敏感な反応が、楽器としての表現力の高さと完成度の高さを物語っていることが、わかってきました。

AKAIも普及に向けて、設計者のNyle Steiner自身が出演した操作ビデオを作ったこともあり、みながすがるように見ていました。こうしたことも、普及に役立ったのでしょう。しっかりとファンが根付いていきました。

私は、その後もEWIできています。いまのところ、これを簡単に上回ることのできる電子管楽器はないようです。


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