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単写真の組合せと組写真との違い

単写真の集まりが組写真ではない

 写真を趣味にしている人のほとんどは、写真を単写真として撮影しています。1枚ごとの出来だけに集中し、他の写真との関連を考えることはまずありません。

 写真愛好家の中では少数派ですが、組写真をやっている人もいます。そのほとんどは、撮影の際の考え方が単写真と同じです。組写真に使う写真であっても、単写真とまったく同じ気持ちで撮影しています。そして、撮影した写真の中から何枚かを選び、組写真として構成するのです。組写真の表現意図を事前に設定したり、表現意図を伝えるための要素を考えたりしません。当然、表現意図が不明確なので、何を伝えたいのか分からない写真になりがちです。

 それどころか、単写真として撮影した写真を、何枚か集めて組写真に仕上げる人もいます。「単写真としては魅力がないから、組写真にでもするか」などと言いながら。こちらも、表現意図が不明確になりがちです。

 こうした方法で構成された写真は、組写真と呼べるのでしょうか。呼ぶ人もいるでしょうが、私の場合は、組写真ではなく「単写真の集まり」と位置付けています。本サイトで解説している組写真の作り方とは、まったく異なっているからです。

 単写真の集まりでも組写真と呼んでいたのは、組写真に関して深く考えていなかったことが原因だと思います。組写真はどのように考えて構成するのか、組写真の写真はどのように撮影するのかなど、あまり考えずに。その結果、数枚の写真で構成すれば何でも組写真と、疑問を持たずに考えていたのではないでしょうか。

全体での表現意図を伝えるのが組写真

 組写真として写真を仕上げるには、考え方を大きく変える必要があります。本サイトで解説しているように、組写真の表現意図を最初に決め、それを複数に要素に分解してから、必要な写真を明らかにする、という考え方に。

 とくに大事なのは、撮影時の意識です。撮影する時点になると、組写真の表現意図や分解要素のことなど忘れて、単写真と同じように撮ってしまいがちです。そうならないように、要素ごとで写真の条件を細かく決めることが大切です。写真の条件を細かく決めると、何を被写体(主役や背景)にするか、どこで撮影したらよいのかが明らかになり、それに沿って撮影できますから。

 こうした方法は、後から組写真に仕上げる既存のやり方と、根本的に異なります。写真を構成した状態で、狙った表現意図を伝えるのが、組写真なのです。個々の写真は、その目的を達成するための部品でしかありません。部品なので、部品に適した作り方(撮り方)をするということです。

 以上のような内容が理解でき、実際に行動できれば、組写真を身に付けたことになります。今までのように、単写真として撮影し、後から組写真に仕上げるなんてしなくなるでしょう。そうではなく、表現意図を最初に考え、組写真に適した形で撮影するはずです。組写真に関して、写真の撮り方が明らかに変わってしまいます。

組写真コンテストの枚数制限は、組写真の根本と矛盾

 雑誌を含む写真コンテストの中には、組写真の部門もあります。組写真とは何かを知れば、組写真コンテストの方法に疑問を持つようになるでしょう。

 もっとも疑問なのは、写真の枚数を指定されることです。よくあるのが3枚という指定で、表現意図に関係なく必ず3枚で構成しなければなりません。2枚が最適だと思う表現意図でも、絶対に4枚で構成したい表現意図であっても、3枚で構成するのです。

 このような枚数制限は、組写真について深く考えて決められた結果ではないでしょう。そもそも、組写真に詳しいなら、特定の枚数に限定することなど、絶対にしないはずです。おそらく、組写真に詳しくない人が、深く考えずに決めたのでしょう。次のように考えて。

 枚数を限定しないと、審査が大変になります。2枚で構成した組写真から、何十枚で構成した組写真まで、いろいろな枚数で送られてきます。枚数が大きく異なる組写真を一緒にして比較するのは、結構大変なことです。また、雑誌の場合、枚数が多いと、全部を掲載するのが大変になります。雑誌で一番ありがたいのは、枚数が固定されている状態でしょう。誌面レイアウトをほとんど変更せず、入賞した全写真が掲載できるわけですから。こうした事情を考慮し、3枚といった固定枚数に落ち着いたと思われます。

 だとしても、枚数を限定することは中止するべきです。表現意図に最適な枚数を選ぶという、組写真の基本を無視しているのは、組写真のコンテストとして非常にまずいでしょう。

 以上のような現状の方法ですが、現実的な改善は可能です。枚数制限を少し緩め、2~5枚にするのです。上限を5枚に設定したのは、雑誌で掲載する点も考慮した結果です。5枚ぐらいであれば、何とか誌面に収められます。レイアウトは今よりも大変になるものの、組写真の根本部分である枚数を固定するよりは、はるかに良い方法です。

組写真の初歩でも、数枚程度の制限は有効

 組写真コンテストの枚数制限を2~5枚に設定したのには、もう1つの理由があります。これぐらいの枚数だと、組写真を始めたときの練習に最適だからです。組写真を作ったことがないのに、一気に数十枚から始めるのは無謀です。結果として、典型的な“単写真の集まり”になるでしょう。

 枚数を2~5枚ぐらいに制限する考え方は、これから組写真を始める人にも適しています。これぐらいの枚数なら、比較的簡単な表現意図を用意し、狙いを絞り込んで作れますから。ただし、上限を必ず5枚にする必要はありません。数枚程度と考えて練習しましょう。

 具体的な手順は、次のようになります。まず最初は、簡単な表現意図を設定します。続けて、その表現意図を伝えるための要素を考えてみます。10個以上の要素が挙がるかも知れません。その中から、本当に必要な数個だけを選びます。単純に選ぶだけでなく、複数の要素を1つにまとめたりしながら整理することも大切です。数個の要素が決まったら、それを伝えるための写真を考えます。「個々の要素をそれぞれ1枚の写真で表現するには、どんな写真が最適だろうか。要素ごとに考えてみよう」と。それが決まったら、実際に撮影するだけです。

 以上のような練習を繰り返すと、組写真の基本や手順が分かってきます。そして、単写真の集まりが組写真でないことも、表現意図の伝え方によって枚数が決まることも、自然と理解するようになるでしょう。

(作成:2003年8月22日)
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