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背景の役割と扱い方

背景の役割は、雰囲気作りと主役の強調

 写真における背景は、主役や脇役の後ろにあって、残りの面積を占めている要素です。前景が外せず、脇役にもなり得ない場合は、前景も背景の一部として考えます。そんな背景ですが、写真の中での主な役割は、次の3点です。

・写真の雰囲気を作る(占める面積が広いほど効果大)
・主役や脇役を強調する(明るさや色の違いで浮き出させる)
・場所や状況の説明(場所や状況が伝わる要素を入れて)

 写真の雰囲気には、背景だけでなく、主役や脇役も関係します。背景の面積が広いほど、背景の影響が大きくなり、背景によって写真の雰囲気が決まります。背景の持つ雰囲気が表現意図に合っているほど、背景を多く入れて、狙った雰囲気を作り出します。

 主役や脇役を浮きだたせて強調するのも、背景の役割です。ただし、脇役を強調するのは、脇役が表現意図に役立つ場合だけです。通常は、主役の強調だけを考え、脇役の強調はまず考えないで下さい。主役が強調されるのは、背景と比べて明るさや色が違うときです。違いが大きいほど、主役の形がハッキリ見え、強調する効果があります。

 場所や状況の説明に背景を用いるのは、説明が必要なときだけです。主役がどんな場所にいるのか、どのような状況なのか、背景を利用して伝えます。説明が目的なので、説明に役立つ要素を背景に入れます。

 以上の3つの使い方は、どれか1つだけを選ぶのではありません。2つ以上を組み合わせて使うことも可能です。その場合でも、どれか1つを中心に設定し、それを優先して背景を選びます。

 背景に関して特別なのは、風景写真でしょう。風景写真の中には、背景自体が主役となるものがあり、これは背景がない状態ともいえます。しかし、主役が背景としての役目も担うので、背景の扱い方を主役にも適用する形で考えます。背景自体が主役だと、主役の強調は無理なので、残りの2つ(写真の雰囲気を作る役目と、場所や状況を説明する役目)の方だけを担います。

 風景写真以外でも、背景のない写真があります。花などをアップで撮影し、背景が写ってない写真です。実は、この場合も背景があるといえます。花をアップにした場合、花全体が主役ではなく、花の中心部が主役だとしたら、残りの花びらが背景としての役目を担うからです。このように、写真表現から見た背景は、後ろの景色とは限りません。真の主役の周囲にある、いろいろなものが背景として捉えられ、表現する上で背景のように扱う必要があります。

背景が使い方と合うかどうか確かめる

 背景選びで一番考慮すべきなのは、背景の持つ特徴が、狙っている表現意図と合うかどうかです。純粋に背景だけ見て、その特徴を判断しなければなりません。撮影者が見ている被写体は、主役や脇役まで含んだ状態です。そのため、頭の中に背景だけの状態を思い浮かべ、どんな特徴かを判断します。背景には主に3つの使い方があるので、一番重視している使い方での特徴を明らかにします。

 まずは、雰囲気を作る目的の使い方です。背景に限らず、雰囲気に関しては、大まかな法則があります。それを知っていると、適切に判断できて便利です。代表的なものを紹介しましょう。

・含まれる要素の数
  ・多い:ぎやかで、ごちゃごちゃ、不安定
  ・少ない:静か、落ち着いている、安定
・背景全体のシャープさ
  ・シャープ:元気、力強い
  ・ぼけている:のどか、ほのぼの、ゆったり
・背景全体の色
  ・暖色系:暖かい、うるさい、活発
  ・寒色系:寒い、おとなしい、静か
・写っているモノ(一例)
  ・非常に整頓された部屋:真面目、信頼、堅い
  ・レースのカーテン:柔らかい、ふんわか、優しい

 挙げ続けるとキリがないため、この辺にしておきましょう。多くの皆さんの直感と違わないので、特殊な背景でない限り、よく考えれば分かると思います。背景の雰囲気が、表現意図と合っているかを確かめてください。

 主役の強調で用いる背景なら、雰囲気よりも明るさと色に注目します。主役と重ねたとき、主役が浮き上がってハッキリ見えるのが理想です。明るさと色のどちらか片方だけでも大きく違っていれば、主役を強調できます。背景の上に主役を重ねたとき、どれだけ浮き上がるかを確かめましょう。

 場所や状況の説明で用いる背景は、説明が伝わるかどうかを見ます。背景の中で、どの要素が場所や状況を説明できるか選びます。それを含む形で背景を利用すれば、目的を達成できるからです。説明に役立つ要素があるかどうかを確かめます。

主役のアングルも考慮して、背景を選ぶ

 以上の話は、あくまで理想です。実際の撮影では、背景だけ独立して考え、好きな背景を組み合わせることができません。写真の表現では、背景の自由な選択より、主役のアングルの方を優先することが多いからです。現実的には、次のような手順になります。

 背景を探す前に、主役を撮影するためのアングルに、どれだけ自由度があるか見極めます。表現意図にもよりますが、銅像のようなものは、一定方向からしか撮影しないとダメでしょう。もし自由度があっても、許されるアングルは狭いはずです。逆に、葉のない一輪の単純な花なら、水平方向は360度のアングルが大丈夫でしょう(もちろん例外もあります)。どちらの場合でも、許されるアングルの範囲から、背景の候補を選ぶしかないのです。

 こうした手順で選んだ背景が、あまりにもひどい場合もあります。そんなときは、主役のアングルを少し広げて、何とかならないか考えます。どうにもならないときは、表現意図に適さない背景として、後述する方法で対処するしかありません。

使い方に合う背景なら、上手に生かす

 狙った使い方に合う背景が見付かったら、背景の選択は終了です。後は、背景をどのように使うのか考えます。

 背景の入れ方は、何も考えないと全体的に入れるでしょう。しかし、表現を重視するなら、もっと違った入れ方も知るべきです。その中から適した入れ方を選ぶと、表現の幅を広げられます。入れ方の代表的なパターンは、次の3つです。

・全体的に入れる:写真の外側の多くが背景
・両端だけ背景:上下のみや左右のみが背景(斜めも可)
・片側だけ背景:上下左右の1つだけが背景(斜めも可)

 全体的に入れるのは、普通のパターンです。中央近くに主役があり、その周囲が背景となります。一般的な傾向として、落ち着いて安定した写真になります。

 両端だけに背景を入れるパターンは、主役と大きく写し、主役で背景を分断する使い方です。当然ながら、主役自体も上下または左右を切られます。主役の大きさにも関係しますが、全体的に入れるのと比べて、主役に力強さや迫力が出ます。

 片側だけに背景を入れるパターンは、上下左右のどれか一辺だけに背景を入れ、それ以外は主役と脇役で占めます。背景の占める割合は、多ければ2/3や1/2、少なければ1/3や1/4です。写真全体を、主役と背景で区切る傾向があります。被写体にもよりますが、主役と背景の対比や、主役から背景への流れといった印象を与えます。

 背景の利用では、別な注意点があります。主役を変に邪魔しないことです。たとえば、主役が人物で、首の所の背景が水平線だと、首を切っているような写真になり、気持ちが悪いでしょう。見る人に、別な意味を与えるからです。同様に、頭のてっぺんから縦に伸びる垂直線も、背景の使い方としてはダメです。このような邪魔は、背景の雰囲気が表現意図に合っていても起こります。もし起こったら、アングルを変えるなどして、変な邪魔が発生しないように修正してください。

 首の所に水平線が来る背景ですが、絶対に悪いとはいえません。たとえば、主役の人物を悪者として表現したいなら、首を横切る水平線もありです。このように、何が正しいかは表現意図によって変わるのです。だからこそ、表現意図を意識して使わなければなりません。背景だけに限らず、主役にも構図にもいえることですが。

表現意図に合わない背景なら、影響を減らす

 表現意図に合わない背景しかなかったら、それで何とかするしかありません。大事なのは、背景の影響をできる限り減らすことです。代表的なのは、以下のような対処方法です。

・背景をぼかす
・背景を入れないか、背景の面積を減らす
・前景などを入れて、背景の面積を減らす

 背景をぼかす方法では、背景だけぼかして、何が写っているのか分からなくします。そのためには、かなりぼけないとダメです。主役との距離にもよりますが、一般の広角レンズでは難しいでしょう。通常は、望遠レンズで絞りを開けて実現します。

 背景を入れない方法では、写真全体に主役を写し込み、背景が写らなくします。主役をアップで写すため、表現意図によっては適さないでしょう。そんなときは、背景の面積をできるだけ減らして、背景の影響を少しでも減らすしかありません。いろいろなアングルを試して、影響の度合いが小さい条件を見付けます。

 いつも使えるとは限りませんが、背景に前景をかぶせて、背景の影響を減らす方法もあります。前景の入れ方ですが、主役に重ならないようにしながら、背景をできるだけ多く隠します。もちろん、表現意図に適さない前景ではダメです。ただし、前景をぼかす方法が使えるので(前景はぼけやすいので)、悪い背景よりも悪影響が小さいなら有効です。

背景と脇役のトレードオフ

 実際に考えながら撮影してみると分かりますが、主役はそのままで背景を変えると、脇役まで変わることがあります。主役へのアングルが変わるので、脇役の位置によってはそうなるでしょう。この状況では、脇役か背景かという選択を迫られます。

 こうした判断も、表現意図を重視して考えます。脇役を主役と対比させるなど、脇役に重要な役割があれば、脇役を選びます。逆に、背景が主役の状況を説明するなど、背景の方が重要だと思えば、背景を選ぶべきです。表現意図の達成にとって、どちらが重要かで決まります。

(作成:2003年5月13日)
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