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歪曲収差の補正に関して

最広角で撮影すると、樽型の歪曲収差が目立つ

 撮影で使用しているDiMAGE 7iのレンズは、7倍という高倍率ズームに加え、広角側が35mm版換算で28mmなので、歪曲収差がどうしても残っています。このクラスのレンズにしては小さい方(最広角での歪曲収差は、同じ28mmから始まる3倍ズームのCOOLPIX 5000が1.2%なのと比べ、7倍ズームなのに1.3%と優秀)ですが、歪曲の現れ方はズーム比の大きさには関係ありません。歪曲の絶対値どおりに(つまり、1.2%よりも1.3%の方が大きく)、写真には出てしまいます。

 当然ながら、すべての被写体で歪曲が目立つわけではありません。画面の四辺に近いところで、垂直または水平の直線が含まれるとき、大きく目立ちます。通常は、1本の線ではなく、2本以上の線とか長方形という形で線があり、全体として目立つ結果になります。

 高倍率ズームの広角側では、樽型の歪曲収差が多いようで、DiMAGE 7iも樽型です。実際には、単純な樽型ではなく、少し波形が含まれています。波形が含まれているのは、レンズの設計者が頑張って補正した結果なのです。

球面フィルタで歪曲収差を減らす

 写真の表現意図によっては、歪曲収差が邪魔になります。被写体が樽型に見えると、何か変だという雰囲気が生じて現実感が低下したり、樽型が気になって狙いに集中できにくくなるからです。

 歪曲収差が表現意図の邪魔になる場合は、歪曲を減らすしかありません。完全に消すれば良いのですが、波形が含まれていると極めて困難です。仕方がないので、波形の部分は無視し、全体の樽型を補正するのが現実的となります。

 歪曲収差の補正には、Photoshopのような画像処理ソフトを用います。具体的な機能としては、画像変形用の「球面」フィルタです。そのままだと補正できないので、カンバス・サイズを広げてから、球面フィルタを適用します。作業手順としては、次のとおりです。

・カンバス・サイズを、縦横とも2倍(面積で4倍)に広げる
  ・もとの画像が中央に配置されるように広げる
  ・普通に操作すれば、中央に配置される
・球面フィルタで歪曲を補正する
  ・樽型の歪曲なので、マイナス値を指定して補正
  ・補正後の画像は、糸巻き形の長方形に変わる
・カンバス・サイズを変更して、余白を削る
  ・糸巻き形なので、上下左右の一番短い箇所で切り取る
  ・補正前のカンバス・サイズよりも少し小さくなる

 球面フィルタで糸巻き形に変形するため、補正後の画像は糸巻き形に変わります。余白の部分を全部削るので、もと画像と比べてサイズが少し小さくなります。仕方がないでしょう。

補正の様子を画像で見ると

 上記の補正作業は、言葉だけだと理解しづらい面があるでしょう。そこで、写真がどのように変化するのか、途中の様子の画像を用意してみました(作業で追加する余白部分は省略した形で)。これを見れば、作業の様子が理解できると思います。

(樽型歪曲を含んだオリジナル)
  ↓ 球面フィルタを適用
(小さくなって糸巻き形に変形)
  ↓ 糸巻き形の出っ張り部分を削除
(最初より少し小さな長方形に)

 実際の作業では、糸巻き形の出っ張りを削除する部分で、すべての余白を削ります。しかし、この説明例では、処理内容が分かりやすいようにと、小さな長方形でも余白を残しました。

 以上のように、糸巻き形に変形した後で、出っ張った部分を削除しています。オリジナルの一部が削れていますが、実質的には、トリミングしてないのと同じです。なお、本サイトで最終的に掲載する写真では、歪曲補正したものでも同じサイズ(縦横のピクセル数)に仕上がるように縮小してます。中途半端な比率での縮小となりますが、もとの画像サイズが十分に大きいため、影響はほとんどありません。

補正の数値は、焦点距離ごとに異なる

 歪曲収差の大きさは、ズームレンズの焦点距離ごとに異なります。もし全部の写真を補正するとなると、撮影時の焦点距離を調べて、焦点距離ごとに求めた設定数値を用いて補正するしかありません。これは大変な作業です。

 実際には、歪曲が目立つ写真だけを補正するのが現実的でしょう。目立つ写真というのは、最広角で撮影した写真がほとんどです。そのため、最広角の補正数値だけ求めて、最広角で撮影した写真だけに、それを利用します。つまり、最広角で撮影しかなった写真の歪曲補正をあきらめるわけです。

 補正の数値の求め方も、簡単に紹介しましょう。求めるのに使う写真を1枚だけ用意します。被写体としては、水平の長い線を選びます。水平線が、写真の両端から左右ともはみ出る長さのものです。それを、画面上辺のギリギリに写します。上辺とほぼ完全に並行になるように写す必要があるため、何枚も撮影し、その中から最良の写真を選びます。完璧を求めるなら、写真画像上で1ピクセルも傾いてない写真を用意しなければなりません。もっとも、波形を含む歪曲があるので、被写体の水平線が左右対称になる写真に仕上がります。

 この写真を用いて、球面フィルタの設定値を変えながら適用してみます。球面フィルタによる補正の大きさは、加えた余白の大きさでも変わりますから、余白は一定にします。前述の余白の大きさ(カンバス・サイズが縦横とも2倍)で試すと、DiMAGE 7iの最広角での補正の設定値は-24でした。

 実際の作業では、カンバス・サイズの拡大、球面フィルタの適用、カンバス・サイズの縮小を続けて行います。毎回同じ作業となるため、Photoshopのアクションとして登録しておけば、最小限のクリックだけで実行できます。

 以上が、もっとも手間をかけない方法です。もっと凝るなら、最広角以外の焦点距離の補正数値も求め、写真ごとの撮影焦点距離に適した補正数値で補正します。実際には非常に大変なので、やる人は滅多にいないでしょう。

球面フィルタだけでも歪曲がかなり減る

 球面フィルタによる歪曲の補正は、波形の歪曲には効きません。しかし、一番大きいのは樽型の歪曲なので、球面フィルタによる補正効果は十分にあります。実際に補正した写真を見れば、よく分かるでしょう。

左:歪曲の修正前、 右:修正後 (クリックで拡大)

 補正後の写真を見ると、水平線が多少波打っていますが、補正前よりは格段に良くなっています。全体としては、歪曲が気にならない程度まで補正できました。これだけの効果が最小限の作業で得られるのですから、実用的には十分です。

(作成:2003年7月10日)
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