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白銀の姫


 端然と寝床に座して、冰は待っていた。
 こおり、それが彼女の名前だ。ここ蝦夷の大地を覆う白銀の衣と同じ。
 名前と同じように彼女の肌は白く、心は冷たかった。
 ――かたきに、抱かれるなど。
 憎しみが指に注がれ、片手は白無垢のすそを、片手は守り刀を強く握った。

 冰は、蝦夷の東を治める雫石氏の、ただひとりの嫡男だった。
 そう、嫡男、後継ぎ。男である。長く伸ばした美しい黒髪も、しみひとつないつややかな肌も、肉のついていないほっそりした手足も、すべて作られた偽物だった。
 彼は父である雫石光弘に、幼いころから言い聞かされてきた。雫石氏には力がない。いくさを仕掛けられても、間者に忍びこまれても、防ぐすべはない。時は戦国、尾張の織田や甲斐の武田、西国の毛利などが覇を競い、互いに相手を倒そうとしている。近くは奥羽の伊達もいる。その余波が、いつこの蝦夷の果てまで押し寄せるかわからない。
 後継ぎのおまえは命を狙われてもおかしくない。だから、女になって身を隠すのだ、と。
 だから彼は、彼女になった。

 父の言葉に従って、冰は十四年間、じっと耐えてきた。いつか元服の時が来れば、男に戻れると信じて。
 それが、裏切られた。
 彼女は先日、飾り立てられた輿に押し込められ、蝦夷の西にあるこの松前の地まで、はるばる運ばれた。領地の見回りだと思っていたが、輿が着いたのは松前大館の城だった。隣国、蠣崎氏の居城である。
 呆然とした彼女に、配下の旗本は言ったのだ。
 雫石は弱国にございます。蠣崎がいざ牙をむけば、我らが領地は一夜にして平らげられましょう。お館さまはそれを憂いておられました。
 切りぬける方策はただひとつ、冰さまを嫁として差し出し、和睦を乞うこと。

 すべては父の考えだった。一人息子の冰をもうけた直後、彼は正室を病で失った。冰に似てたいそう美しかったその妻が死んでから、彼は他の女を娶る気をなくした。だから、後継ぎが冰しかいない。
 たったひとりの子供の使いかたを考えた末、隣国への生贄とすることを決めたのだ。
 それゆえに、冰は女として育てられた。
 そして、女として蠣崎の後継ぎに添い遂げることを強いられることになったのだ。

「かたきに、抱かれるなど……」
 冰はもう一度つぶやいて、守り刀を握り締める。ふたつの嫌悪がそこにこもっている。
 敵であるはずの蠣崎氏と父が手を結んでいたこと。そして、同じ男である蠣崎の世継ぎに嫁として差し出されたこと。
 いざとなったら、と冰は決心している。この守り刀でのどを突いて死のう。
 もうすぐ、その相手が来るはずだった。昼間の祝言では堅く目を閉じていたから、どんな相手だか、まだ知らない。
 燭台の火だけがちろちろとあたりを照らしている。春三月、ねやは暗く、寒い。

 廊下に足音がした。強い足音だった。
 障子が開き、閉じた。しばらくの沈黙の後、声がかけられた。
「こおりどの、だな」
 冰の名を確かめるように言う。低く染みとおる声だった。冰は無言でうなずく。
「祝言の席ではろくに話もできなかったが……おれが、松前守護・蠣崎義成が嫡男、蠣崎照道だ」
「てるみちさま、でございますか」
 冰もつぶやく。それが、自分を汚そうとしている男の名だ。
「分かっているな。おれは、今宵おぬしを自分のものにする。――政略のために作られた婚儀だが、だからと言って手も出さずに放っておくほど、おれはお人よしではない。おまえもせいぜい、覚悟を決めることだ」
 そう言うと、照道は寝床に上がり、冰のそばにあぐらをかいた。片手を冰の肩に置く。
 そのせつな、冰は守り刀をさやから引きぬいて、自分ののどに向けた。

「何をする!」
 ためらいなく突いたつもりだった。だが、照道の動きのほうが速かった。
 腕をねじ上げられた。強い力に冰は苦鳴をあげ、刀を取り落とす。
「離せ!」
 冰は叫び、腕を振ってもがく。だが、照道の腕力にはかなわない。彼は匪賊との戦いで数々の武勲を上げているつわものだ。ひたすら美しくあるためだけに育てられた冰が、抵抗できるはずがない。
 照道は冰を押し倒し、両手首をひとまとめにつかんで枕元に押しつけると、一気にのしかかってきた。空いた手を冰の白無垢の胸に乗せる。
 ふと照道は動きを止めた。疑惑の気配を冰は感じ取る。予想は外れず、次に照道は冰の脚の間に指を差し込んで来た。唇をかんで冰は屈辱に耐える。
 照道のうつろな声が降ってきた。
「……きさま、男か」
「男で悪いか?」
「なにやつだ? 冰姫になりすました間者か? それとも、雫石どのの差し向けた替え玉か?」
「どちらでもない、わたしは正真正銘の冰だ! 十四年間、父のはかりごとによっておなごとして育てられたのだ! この体は、産まれた時から照道どのと同じ、男なのだ!」
「……ばかな……」
 ぼうぜんとして、照道が腕を離した。

「そうか……だから自害しようとしたのか」
 照道がつぶやく。胸を押さえて身を引いた冰が、ひえびえとした声で言う。
「いつかは男に戻れると信じていた。このような仕打ちを受け、同じ男に抱かれるなど、耐えられるものではない。それぐらいなら、死んだほうがましだ」
 石のような沈黙がその場に降りる。だが、それを破ったのは、照道のひとことだった。
「……それで通ると思うか?」
「……なに?」
「この婚儀は、両国の行く末がかかった重大なできごとだ。おぬしのわがままからそれを拒んだら、どうなると思う?」
「ど、どうなると……」
「いくさが起こるぞ」
 照道の言葉に、冰ははっと顔を上げた。そして初めて、相手の顔を見た。
 引き締まった精悍な若武者の顔。意思の強そうな濃い眉の下で、迷いのないまなざしが冰を見つめていた。
「蠣崎と雫石のいくさだ。多くの民が死ぬ。下手をすれば両家とも倒れだ。おぬしも武家の生まれなら、そんなことにならぬよう努めるのが、筋だろう」
「どうしろと言うのだ?」
「おれに抱かれろ」
 照道は、座したまま言った。
「ことがことだ。おれも腹をくくっておぬしと契る。衆道の習いはないが、女子を抱いたことならある。せめて痛まぬよう、気を配ってやる」
「そんな……」
「それに……おぬしは、美しい」
 言うが早いか、照道は野獣の素早さで冰にのしかかった。
 唇を奪われ、悲鳴も上げられなかった。

 これが、男か……?
 婚礼衣装の白無垢をはぎとりながら、照道は半信半疑になる。十四歳ならそろそろ骨も筋も固まり始めるころだ。なのに、冰ははかないほど弱い。脚を蹴りあげて照道の膝を押し、腕を突っ張って胸を押し返そうとしているが、ふざけているようにしか感じられない。やすやすと腕を押さえつけて、照道は打掛をはぎとった。
「ああ!」
 転がりながら冰が寝床に倒れる。残るは薄いうちぎぬ一枚だけ、その裾も、暴れたせいで激しく乱れ、太ももが尻まであらわになった。燭台の暗い明かりの下でも、絹のような肌のつややかさがわかる。照道はもう一度疑う。
「そなた……本当に」
「男だ!」
 泣くような声を上げてうちぎぬのすそを直し、冰は胸元を堅く押さえた。
「さわるでない! わ、わたしは男だ!」
「……いや、どうかな」
 照道は、冰の小さなくるぶしを見つめながら、つぶやいた。
「その年でその華奢な体……尋常ではない。そなた、なにか飲まされてはいなかったか?」
 冰は雷に打たれたように動きを止めた。図星か、と照道はつぶやく。
「……父上が、髪を美しくするものだと言って……大明の商人から買った煎じ薬を、毎日……」
「明国の皇帝が、楽童の声変わりを防ぐために、そのような薬を作らせたという話がある。……おそらく、その類だな」
「で、では……わたしはもう」
 冰はぶるぶると震え出す。力をなくしたこぶしから細帯が落ち、うちぎぬの胸元がはらりと開いた。
 照道が近づき、その胸に手を差し入れても、冰はもう抵抗しなかった。

 二尺はありそうな長い黒髪が、冰の上体にまとわりついている。照道は指でそれをすいたが、霞のように手ごたえがなく、さらさらと流れるだけだった。
 髪の毛だけではなく、冰の体はどこもかしこもそんな具合だった。まさに氷のような滑らかさ。片手で頭を支え、もう片手で冰の胸板を温めながら、照道は言いようのない興奮を覚えていた。女でもこれほど綺麗な肌のものはいない。むろん男とはまったく違う。初めて味わう美しい不思議な生き物。
「はなせ……わたしは……」
 まだ嫌悪の色を浮かべて、冰が顔を上げた。横一文字に切りそろえられた前髪の下で、長いまつげが震えている。紅を差した唇には、先ほどのくちづけの湿りがわずかに光る。雪の精のように整いすぎた美貌。照道の背すじを倒錯した愉悦が蛇のように這い登る。
「わたしは、おとこ……」
「まだ言うのか? ならば聞くが、なぜあの刀でおれを刺さなかった? 自害するのは女のやり方だ。――そなたの心はもう、女なのだ」
 冰の目がうつろになり、体に残っていた力が完全に抜けた。その変化に、照道は冰の受けた衝撃を少し理解できたように思った。あわれみを覚える。
 つらさをやわらげてやるためにも……うんと優しく可愛がってやったほうがいいだろう。

 棒のように投げ出した手足のあちこちを、照道の唇がついばんでいる。
 ひとつ触れられるたびに、冰は嫌悪でびくっと体を震わせた。だが、指一本動かそうとはしなかった。もう男には戻れないのだ。だからといって女になれるわけでもない。人形だ。
 せめて人形の方法でさからってやろう。
 照道の唇が二の腕の肉をはさみ、そこに唾液をまぶし始めた。柔らかな舌が肌の上でうごめいている。ぞくっと背中を寒気が走る。唇が上ってくるにつれ、触れられた肌が熱を持ち始めた。経験したことのない気味の悪い感覚に、冰は叫び出したくなる。
 唇をかんで無表情を保った。それが精一杯の抵抗なのだ。
 首筋に吸いついた唇が徐々に進んで、やがて耳に達した。耳たぶの中に息が吹き込まれた瞬間、冰は思わず身動きした。頭の芯がジーンとしびれて、尻を動かしたいようなもどかしさが湧いた。無意識のうちに膝をすり合わせる。
 ――なんだ、これ?
「悪くないだろう」
 照道がささやいた。
「わかるぞ、肌が熱くなってきている。そなたの体が、感じ始めているんだ」
 照道の指が冰の胸を覆った。楽器を奏でるように五本の指が乳首をはじく。ピリッと鋭いものを感じて、冰はおびえの声を上げようとした。
「はぁん!」
 口を突いて出た声に愕然とする。そんな自分の声は知らない。どうして出たのかわからない。死ぬほど恥ずかしくなって、手のひらで口をきつく押さえる。
「驚いているな……初めてでは無理もないか。覚えるんだ、男に抱かれるのは、心地よいことだと」
 ――心地よいだって? これが?
 我知らず照道の目を見つめてしまい、冰は見た。獣欲などではなく、深い思いやりをたたえて気遣わしげに自分を見つめている男の瞳を。
 その瞬間、暗闇に光が差したように冰は悟る。ずっと体を触られながら、どうして我慢できたのか。悪寒だと思っていた震えがなんだったのか。
「学ぶのだ。体の訴えを聞くすべを。何が心地よい動きなのかを」
 そう言って、照道は丁寧に冰を抱きしめ、耳たぶを噛む。
「あ」
 小さく息を吐く。今度こそ、冰は女として体がうずくのを感じる。

 それから照道の誠意を尽くした愛撫が始まった。
 腕をさすられ、胸を吸われ、腰の裏に触れられた。うちぎぬは袖を通しているだけで、もう体を覆っていない。何もつけていない裸身を、照道の力強い指があますところなく這い回る。
「あ……は……そんな……」
「そうだ、いいぞ……温かくなってきた」
 一度知ってしまうと、もう気を逸らすことはできなかった。照道の接触のひとつひとつが熱い。じんじんと体がしびれだし、熱い息が漏れる。心の臓が早鐘のように強く打ち、肌に汗がにじむ。
 太ももこそ強い恥じらいが閉じさせていたが、軽く折り曲げた膝の裏に鼻が当たると、思わず開いてしまいそうになった。耐えるべきなのかどうか、もうわからない。すがりつけるものは照道しかない。
「て、照道さま……わたし、どうすれば……」
「感じてきたのか?」
「…………はい、たぶん」
 こくりと冰がうなずく。それは、彼女が初めて見せる恭順のしるしだった。

 枕元に投げ払ったうちぎぬの裾の上に、扇のように黒髪を広げ、体のすべてをさらして、冰が潤んだ目で見上げている。裸身は細いが、決してやせ細っているわけではない。腕の内側やふくらはぎにはすらりと長い筋がつき、尻と太ももにもふっくらと丸い肉が乗っている。そのくせ、腹は薄くへこんでいてたるみひとつない。――余計な肉のつきやすい女にはありえない、不思議な美しさを供えた肉体だった。
 満足とともに照道は気のたかぶりを覚える。だが、ひとつおかしなことが気になった。
 腕や腹に照道のくちづけのあとをほんのり赤く残して、速い息で待っている冰は、間違いなく興奮している。それなのに――股間に息づく小さな彼女のものは、いまだに柔らかいままなのだ。
「冰……そなた、手淫の経験はあるか?」
 さっと頬に朱をのぼらせると、顔を背けて冰はつぶやいた。
「ご……ございませぬ。その……わたしは、立たないので」
「立たない? 陽物がか」
 かすかに冰はうなずいた。照道はなんとなくわかったような気がした。男としてのつくりを変える薬を飲まされていたのだ。そうなることもあるかもしれない。
 だが、道具はあるのだ。試してみる価値はある。性の愉しみを知らないままでは、あまりにも不憫だ。
 不安そうに待っている冰の腰をつかみ、体を裏返す。何を、と聞きかけた冰が、かん高い悲鳴を漏らした。
「ああっ?」
 照道は、冰の尻の丸みに顔を押し付けた。それから、十分に唾液で湿した唇を、冰の菊門に押し当てたのだ。
「て、照道さま! そのようなところ、汚らわし……ひんっ!」
「汚れてはいない。ちゃんと清めたのだろう?」
 いいながら、照道はつぼみに舌をはわせていく。祝言の前のみそぎで冰は全身くまなく洗いぬいているはずだから、嫌悪感はなかった。思ったとおり、その小さなすぼまりはまったく匂わなかった。真っ白な尻肉の間にぽつんと浮かんだ薄桃色の花弁が、きつく閉じている。舌に力をこめて、照道はそこにねじ込んでいった。
「はあ……あ……アア……」
 冰のあえぎが、音程を外れていく。寝床に突っ伏した彼女の瞳が大きく見開かれ、異常な愛撫によってもたらされた快感が、彼女の正気をかき消していった。
「てるみちさ、ま……それは、やめ、やはあ、やあ……」
 しどけなく開いた口から、唾液とうわごとが漏れ出す。もう冰は、おかしくなっている。
「これなら……どうだ」
 よく唾液で湿した指を、照道はぬるりと菊門に押しこんだ。ぶるるっ、と寒天のように冰の尻が震える。ぬめらかな洞の中に指を伸ばした照道は、先をかぎに曲げて、小さくちぢこまった冰の袋の、ちょうど裏側のあたりを押しこんだ。
「はひィッ?」
 冰は、どくんと熱い鼓動を股間に感じた。何かの栓が外れたような不快感。それまで感じたことのない血の流れが、熱くたぎりながら細い陽根に流れこんだ。どくん、どくん、と瞬く間に圧力が高まっていき、締め付けられるような窮屈さがそこを襲った。不安に駆られて冰は叫ぶ。
「てるみちさま! わ、わたしのあれが、はれて、はれてしまいます!」
「そうだ……喜ぶがいい、道が開かれたんだ。触ってみろ」
 おそるおそる冰は自分の股間に触れ、ぎょっと手を離した。指とも違う、舌とも違う、焼けた金棒のように熱い肉の竿が、ぴんと首を持ち上げてへその下にへばりついていた。
「これが……」
「これでおまえも、精を放つことができるぞ。狂ってしまうほど心地よいからな」
「……どうすればいいのですか?」
 おびえきって冰は聞く。もう、照道しか頼れるものがない。
「教えてください、き、窮屈でたまらないのです! はやく、はやくなんとかして!」
 もう、先ほどまでの意地はかけらも残っていない。振りかえりながらせがむ冰に、照道は胸の奥から愛しさが湧くのを感じる。菊門の下にそっと顔を押しつける。そこに埋めこまれた陽根の根元は、血を含んでこりこりと硬く膨れている。言い逃れできないほどの興奮の証し。未熟な果実でも味わうかのように、そこを噛んだ。
「だめェッ!」
 殺されかけたように切羽詰った声で冰が叫ぶ。もう、照道も平静を保てなくなった。

「こおり……つながるぞ、よいな」
「ああ、早く! こ、これが収まるならどうにでも!」
 冰がぐいと尻を突き出して振った。照道は袴と褌を脱ぎ捨てると、とっくにきばりきっている己の陽根を、ぬらぬらと小さく口を開いている冰の菊門に押し当てた。
「ゆくぞ……ううっ!」
 おしつぶされて膨らんだ亀頭が、次の瞬間ずるりと肉の中にもぐりこんだ。冰が呼吸を止めて悲鳴を上げた。
「か……は……っ」
「力を抜け! 受け入れるのだ!」
「は……は……い……」
 従うしか冰はすべを知らない。硬直しかける体を懸命に律して、力を抜く。それでも、菊門の筋が限界まで引き伸ばされているのがわかる。
 白く薄く引き延ばされた入り口が、ぴっちりと照道の肉槍をくわえこんでいる。今まで交わったどんな女よりも堅い食い締めだった。それでも精一杯冰が力を抜いているのが照道にはわかった。筋肉がぴくん、ぴくん、と痙攣し、きつくなりかけてそのたびにゆるむ。冰が、拒もうとする肉体をなんとかなだめようとあがいているのだ。
 突き上げる心地よさに耐えて、照道は尋ねる。
「こおり……どうだ?」
「お、大きい……」
 冰は肩を震わせて唇を噛んでいる。照道はもっと言葉を引きずり出したくなる。
「きちんと言うのだ。どんな感じなのだ?」
「さ……先のつるつるが、わたしの臓腑を持ち上げております。それに、わたしのものの根元が押されて……つぶれてしまいそう」
「ここか?」
「ひゃうっ! ……そこ、そこでございます! ああっ! やめて、やぶれるっ!」
 打てば響くように冰が叫ぶ。こわばった冰の腺に、照道が陽根を押し付けたのだ。はねかえるような弾力を持ち、裏筋を持ち上げてびくびくと痙攣するそこが、冰の精がいっぱいに詰まった袋だ。
「痛むのか?」
「痛うございます! でも心地いい! こ、こんな感じ初めて! くあっ!」
 胎内に入ってきた棍棒のようなものが、ギシギシと動き出した。それがもたらした感覚に、冰は混乱の悲鳴を上げつづける。焼けつくような痛みと、それを上回る快感。細くなった喉からきしむような声が漏れる。
「ひい、いい、いい!」
「どうだ? こおり、どうだ?」
「あつっ、熱い! てるみちさま、わたしのお尻が、やっ、やあ!」
 まるでむきだしの神経をやすりでこすられているようなしびれ。あまりにも直接的な刺激に、冰は言葉を作れない。器官だけがじかに反応する。むけあがった陽根が、ビクッ! ビクッ! とちぎれそうに脈打ち、澄んだ汁をとめどもなく滴らせる。
 その鼓動を、照道は自らの陽物から吸収する。言葉がなくてもわかる。冰の精が詰まった袋が、それをほとばしらせたいと訴えている。破裂するきっかけをくれと叫んでいる。
「こおり……いま、いま出させてやるぞ!」
 薄い胴に腕を回して、潰さんばかりに抱きしめる。冰の陽根をしごき落とす手でその腰を自分に向かって引き寄せる。小さな尻の中に深くくさびを打ちこみ、抜けるほど引き、また奥に向かって突きこむ。それもすべて、この華奢な姫を逃がさないようにするため。その薄い腹の中に精を注ぎこむため。
「いいっ、てるみちさま! もっと、もっと強く! わたしを捕まえて!」
「こうか? こうかッ?」
「あハッ! そ、そう! とんでしまいます! もっと突き刺して! もっとこすってェ!」
 うわごとを漏らし、意識を真っ白な快感にかき乱されていきながら、冰は底知れない安堵にたどりつく。
 ――照道さまのたくましい腕が包んでいる、照道さまの温かい胸が守ってくれている。
 ぴたりと押しかぶさった照道の体が、冰の外側を完全に覆った。もう、自分はこのひとのものだ。そしてこれから、中まで染められる……
「こおりっ、こおりッ! 出すぞ、こおりの中におれの精を注ぐぞっ!」
「出して、たくさん出して! いっぱいにして、てるみちさまっ、てるみちさまっ!」
 胎内からあふれ出した腸液が照道にまつわりつき、じゅぶじゅぶと音を立てて飛び散った。がっしりと捕まえた肉の中にぐいぐいと押しこんでいた照道は、ついに最後の光に達した。
「おおうっ」
 どろどろどろっ、と精が飛び出した。たちまちあふれかえった粘液が肉洞の中であわ立ち、冰の胎内の心地よさを最高のものにした。
「あ、あふれるッ!」
 腹の底にその洪水を感じた瞬間、冰の心に最後の刻印が打たれた。
 ――わたしのすべては、このひとに染められたんだ……
 ぴゅうっ、ぴゅうっ、と自分が射精しつつあることにすら気づかず、冰は満たされる至福の中に漂っていった。

 一分の隙もなく打掛を着付けなおした冰が、何事もなかったかのような顔で、夜具に飛び散った粘液を拭いている。
 冷たい顔だ。小袖を引っかけた照道は、横目でそれを眺めながら、情事の後のばつの悪さのようなものを覚えていた。あまり関係のないようなことを口にする。
「蠣崎と雫石が合わされば、表高は三十万石、新田の開墾と稲の改良を行えばさらに石高は上がる。津軽の兵が攻めこんできても、十分に迎え討てよう」
「……」
「そなたの心ひとつで、蝦夷全土の命運が決まる。……あらためて聞くが、おれの妻になるか」
「……理由は、それだけでございますか」
「それだけ?」
 照道は顔をしかめる。
「それだけということはないだろう。多くの和人と夷人たちの命がかかっているのだぞ」
 冰は振りかえって、冷たい目で照道を見つめる。無理もない、と照道は思う。たったいま犯されたばかりの相手に、好意など持ちようがないだろう。
 だが、照道は冰の顔がかすかに歪んでいることに気づいた。みるみるうちに、冰は鼻の頭に強くしわを寄せ、目をかたく閉じる。
「こ、こおり?」
「……政道のために身をささげよとのお申しつけは、わたしにもよくわかりました」
 声の震えを隠しながら冰は言う。だが、目尻にあふれる涙までは隠しようがない。
「でも、それだけというのは余りにむごうございます。あんなに心地よいことをわたしに教えこんでおいて。照道さまは一時の激情でわたしにお情けを下さったのかもしれませぬが、その一度でもう、わたしは女になってしまいました。ただの道具として添い遂げるなど……耐えられませぬ」
「……冰」
「愛してください。でなければ、妻にはなりませぬ」
 守り刀を手に、後から後から涙を頬に流して、冰は毅然と言った。
 その肩に、腕が回された。
「では、解かすことができたのだな」
「照道さま……」
「そなたの心は、もう凍ってはいないのだな」
 照道の指が、冰の頬をぬぐう。冰は、その手にそっと手をかけた。
「……はい……」

 この後、松前大館を発した蝦夷軍は、戦国のあまたある名将を平らげて京に入り、ついには天下に覇を唱えることとなる。
 戦陣においては、若き猛将・蠣崎照道のそばに、白馬を駆り薙刀を操る美しい影が常に付き従っていたというが――それは、この場で語られるべき物語ではないだろう。


―― 終 ――



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