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湧き出でしもの、消えざりしもの


 転職してとうに半年もたった私たちだから、その狩りはほんの遊びのつもりだった。
 プロンテラから小半時、マンドラ森。名前の通り、人食い植物のマンドラゴラが生息する場所だけど、首都から近いしダンジョンでもない。注意しなければいけないモンスターなんか出るわけのない場所だ。
 そこで私は、ティルカとはぐれてしまった。
「ティルカー! どこー?」
 叫んだものの、心配はしてない。ティルカは腕利きのハンターで、こんなところじゃ死のうったって死ねない強さだ。付き合いの長い私はそのことをよく知っている。
「ティルカー!」
 折り重なる深いこずえに、叫びが吸い込まれていく。この森は地形だけはややこしい。私は加速の魔法を自分にかけて、足早に歩き回った。
 三度かけ直して、四度目が切れないうちに、応えがあった。
「……リノルぅ……」
「ティルカ?」
 崖を滑り降りて、声のしたほうに向かった。森の北東、小さな池のある場所だった。
 ティルカは池のほとりで座り込んでいた。駆け寄った私を見上げる。
「えへ、転んじゃった」
 ばつが悪そうに舌を出す。よく見ればスパッツから下がびしょ濡れだ。この子は戦闘となると無類の強さを発揮するのに、どこか抜けたところがある。池にでも落ちたのか。
 そばにしゃがんで、顔を覗いた。
「どうしたの。こんなところで転ぶなんて」
「足、引っ張られてさ。池の中にいるなんて思わなくって」
 指差した先の水面に、数本の矢が突き立った死骸が漂っていた。マンドラゴラだ。
「やっつけたけどね」
「自慢にもならないでしょ。素手でも倒せる雑魚じゃない」
 そう言いつつも私は手を伸ばして、彼女の頬にかかった栗毛を軽くすきあげた。澄んだ空色の瞳が私を向いて――
 なぜか、逸れた。
「や、だいじょぶよ」
 片手を挙げて、ティルカは私の手を押し戻した。そういう強がりもこの子の特徴だ。
 そして私は、この子に強がられると、なぜか無性に腹が立ってしまうのだった。
「見せてよ、一応。どこか打ってるかもしれないでしょ」
 横顔を追いかけるように首を伸ばすと、ティルカはさらに体をひねった。立ち上がった。
「だいじょぶだってば! リノルはいつもおせっかいなの!」
「信用できないなあ……とりあえず祈っておくよ?」
 回復魔法をかけると、ティルカは目を閉じてぴくりと肩を震わせた。口では嫌がりつつも、逃げないのがこの子のいいところ。それを確かめて、私はほっとした気分になる。
「さ、帰ろ。濡れちゃったし、切り上げる頃合よ」
「そだね」
 ティルカは先に立って歩き出す。そっけない態度が気に障ったから、わざと早足で追い抜いてやった。

 私たちは毎日毎晩狩りに出るほど勤勉じゃない。
 でも、四日もティルカが姿を見せないなんてことは、今までなかった。
 その日の夜、団体狩りが一番盛んな時間帯を過ぎても彼女が現れなかったから、私はとうとうねぐらに足を向けた。連絡してこないことへの怒りと、情けないほどの心配さを、半分ずつ胸に抱いて。
 首都の南東にある小さな小屋が彼女のねぐらだ。私はその小屋の戸口に立って、ドアをノックした。
「ティルカ! いるんでしょ、入るわよ!」
「リノル? だめ!」
 意外なほどすばやく、強い拒絶の声が飛んできて、私の拳を止めた。ノックをやめて私はドアの木目をにらんだ。
「……なんなの? 私に隠し事でもあるっていうの?」
「隠し事っていうか……」
「まさか、誰かいるの?」
「そんなことない、いるわけない! 他人なんか入れられない!」
 今度の否定も強かった。強すぎた。
 ただごとじゃない。心の天秤が、怒りから心配へ大きく傾いた。口調を抑えて言った。
「ティルカ、開けて。私は他人?」
「う……ううん」
「秘密があるんだとしても、誰にも言わないから」
 しばらく沈黙が続き、やがて、泣くのをこらえているようなささやきが漏れてきた。
「入って。助けて」
 私はドアを押した。なぜか鍵はかかっていなかった。
 中に入って、後ろ手に戸を閉める。床に伸びた四角い光が消え、室内を照らすのは窓をふさいだ鎧戸から漏れる薄明かりだけになった。
 奥行き十歩もない小屋の奥、壁際のベッドに塊がある。ティルカが座っている。胸騒ぎが、私の声を小さくした。
「ティルカ……?」
 足音を殺して近づいたけど、ティルカは別に逃げなかった。ただ、ひざを抱えて小刻みに震えていた。どんな理由であれ、快活な彼女がここまで脅えているなんて、普通じゃない。
「どうしたの……何があったの」
 ベッドに腰を下ろして、そのさらに奥に縮こまっているティルカに手を伸ばした。狩猟服のそでに指が触れる寸前、彼女が小さく、しかし鋭く言った。
「待って。……リノル、わたしとあなたは、親友だよね」
「……なに、改まって。あなたらしくも――」
「親友だよね!」
 違うと言ったら刺し殺されそうな一言だった。私は顔をこわばらせてうなずいた。
「……うん。親友」
「だったら……逃げないよね。これ見ても」
 ティルカは私の手首をつかんだ。華奢でしなやかな指にすごい力がこもっていた。怖かった。なのに一瞬、私は気味の悪い心地よさを覚えた。
「これ……」
 ティルカが震える手で私を導く。指先が彼女の下腹に持っていかれた。ううん、もっと下に。立てた両足の奥に。
 私の人差し指はティルカの小さなおへそに入り、下へ滑らされ、スパッツをすべって、ちょっと赤面してしまうようなところへと引き込まれた。ほのかに温かみをたたえた、彼女の股間に――
「ティ、ティルカ、なんなの……えっ」
 声は尻すぼみに消えた。指に違和感を感じた。そこにある、私も彼女もよく知っているはずの造りの代わりに、何かが。
「強く……しないでっ!」
 消え入るようなティルカの悲鳴で、私はそれが、下着に挟み込まれた異物なんかじゃないことを悟った。これは……
 体だ。ティルカの体の一部だ。
 張りのある太ももに挟まれた柔らかい丘の中心、おなかの前というよりは下にあたる場所に、中指の先ほどの、小さな肉の粒が顔を出していた。本当に頬が熱くなった。前髪が触れるほど顔を寄せてささやく。
「これ……女の子のあれ、よね」
「んっ、んっ」
「ティルカ、こんなに大き……かったの?」
「ん、ううんっ、違っ……あのとき、マンドラのせいで……っ」
 ささやき、くにくにと感触を確かめていると、胸がどきどきと高鳴って、なんともいえず居心地が悪くなる。いくら女同士の親友だからって――親友だからこそ、そんなことを話したことや、まして触ったことなんか、一度もない。あるわけがない。
 ううん――一度頭を振って、冷静になろうとした。あそこだろうともっと恥ずかしいところだろうと、病気となったらこだわっている場合じゃない。落ち着いて治し方を考えなきゃ。
「くぅん……っ!」
 額に抜けるような艶っぽいティルカのうめき声が、私の冷静さを紙くずのように吹き飛ばした。
「そ、そこ……」
 ティルカが、お湯に浸したガラス球みたいな瞳を私に向けて、はっはっと短く息を継ぐ。
「むけ……てるのっ。出ちゃってるの。だから……」
 ぞっとして、私は思わず指を引こうとしてしまった。爪先が軽くスパッツを引っかき、とたんにティルカが、背中を叩かれたみたいに勢いよく跳ねた。
「ひぃんっ! ……か、感じて動けないのぉ……!」
 ぎゅうっ、と強い力で肩にしがみつかれて、私は呆然となった。
 したことぐらいは、ある。手で自分を。でも、言い訳するつもりじゃないけど、そんなに激しくした経験はない。
「そこ」は――そこの中心は、下手に触ると痛いぐらい敏感な場所だ。繊細な神経が危険なほど詰まった、弱すぎる粘膜の宝石。私はついに、そこを強くこすることができなかった。
 それがティルカのあそこでは、こんなに大きく膨れ上がって、じかに下着にこすられているなんて。
 考えただけでも怖くなる。どんな激しい痛みが……
「おね……がいっ」
 ティルカのささやきで我に返る。瞳はもう涙を溜め切れていない。
 上気した頬に銀の筋を落として、ティルカが懇願した。
「なんとか……なんとかしてっ。指じゃ、ざらざらすぎて……痛いのっ!」
 違う。
 触るな、じゃない。触ってほしい、だ。
 ティルカは……これを、悦んでる。
 なんだか意味のわからない夢の中にいるみたいだった。私は頭が半分麻痺したような感じで、機械的にティルカに尋ねた。
「さわって、ほしいの?」
「うん、うん……昨日までは、触って抑えられたの。でも、今日は敏感すぎて……くくんっ」
「指がダメなら、どうすればいいの」
「……し」
「え?」
「あし……リノルの足でしてほしい」
 ティルカが下を見下ろしていた。私も同じ方向を見た。
 ティルカは、僧衣の前垂れで覆われた私の太ももに、飢えたような視線を向けていた。
「リノルの足、すべすべ。きっと痛くない。お願い、こすらせて……」
「な、何か他の方法を考えたら」
 ティルカは涙を振りまいて激しく首を振った。栗毛の短髪が笠のように広がった。
「我慢できない、がまんできないのぉ!」
 肩をつかむ指がいよいよ強い。純粋に恐怖を覚えて、私は従った。
 前垂れはスリットで後ろと分けられている。引き上げて太ももをさらすのは簡単だった。横に振りよけると、腰骨のところまであらわになった。
 それを見下ろしたティルカが、やにわに腰を浮かせてスパッツを脱ぎ始めた。私は勢いよく顔をそらす。一緒に泉に入ったことはあったけど、こんな近くで、こんなに欲情している親友の裸なんか、見たくない。
 見ていなくても、ティルカの視線がわかる。痛いほど感じられる。下半身をあらわにしたティルカが、はりさけんばかりに目を見開いて、凝視している。黒いストッキングとショーツに挟まれた、太ももの白い肌――産毛もない、顔が映るほど滑らかな肌――そこに透けているうす青い血管の一筋一筋まで。
 再び肩に抱きついて、ティルカが体重を預けてきた。なすがままに私は受け止める。ティルカが私の足をまたぐ。
 温まった彼女の体から立ち上る、甘ったるい体臭に息をふさがれながら、私は親友の大切なところを肌に感じた。
「はぁ……リノル……」
 ぬるっ、ぬるっ、と気味の悪い摩擦感。ティルカはもう濡れている。それも、肌をつたい落ちるほど。はっきりそれとわかるほど熱い小さな点が、私の肌を往復する。
「やっぱり……リノル、きもちいい。ありがとぉ……♪」
 幸せそうにうっとりと目を細めて、卑猥に腰を前後させるティルカを半身に抱きながら、私は鎧戸の細い光をじっと見つめていた。やるせない悲しみに胸を重くして。
 こんな風に求められるなんて、思わなかった。
 ティルカの動きが速くなっていく。可愛らしいお尻を猿のように前後に滑らせて、股間に感覚を集中している。私の肌はもう軽くへこんでいる。へこむほどティルカは押し付け、押し付けられるほどどろどろにしている。
「ひんっ!」
 叫んでしまった。ティルカがいきなり私の髪に首を突っ込んだから。腰まで垂れる金髪を鼻でかきわけて、首筋にキスしてくる。うわごとのような言葉。
「リノル、ありがとう、きもちぃよぉ。リノルが来てくれてよかったよぉ……」
「まだ済まないの?」
「もうすぐ……もうすぐ……あ、来る……んっ!」
 ぎゅうっと首筋が抱きしめられ、私も同時に体を硬くした。太ももを挟み込んで強く押し付けたティルカが、結果としてひざを私の股間に食い込ませてきたから。
「り……のる……」
 ひくっ、ひくっ、とティルカのあれが痙攣している。生暖かい粘液がショーツに届くほどあふれ出した。私は唇を噛んでその不快感に耐えた。
「…………っはあっ」
 短い硬直の後、やけにあっさりとティルカは腕をほどいた。どさりと倒れるように横たわる。すかさず私はシーツで足を抜き、そのシーツを、顔をそらしたままティルカにかけた。
「収まりそう?」
「ん……落ち着いた。もうすぐ……」
 ちらりと見ると、ティルカは幸福そうに目を閉じていた。そのまま寝てしまうんだろう。
「起きたら図書館に来て。このこと、調べてるわ。ただのマンドラゴラにこんな力があるわけない」
 返事を待たずに私は立ち上がり、小屋を出た。
 ドアを閉じて立ち止まる。なんだったんだろう、という思いがじわじわと湧いてきた。
 ティルカは親友だ。重大なことなら、頼みも聞いてやりたい。あれは、どう見ても重大なことだ。
 でも、だからって、
「……友達のオナニー、手伝うなんて」
 自分のしたことが、信じられなかった。
 足を動かすと、もっと不快になった。ショーツの中にぬめりがあったから。
 私は前も見られないぐらいうつむいて、赤らんだ頬を隠しながら、手洗いのある建物を探して歩き出した。

 監獄に鷹の羽ばたきがこだまする。
 今日のティルカは快調に敵を倒していた。彼女はハンターの中でも鷹匠の区分に入る。銀の矢を目標に撃ち放つ都度、忠実な翼が疾風のように翔けて、インジャスティスの目をえぐり、アクラウスを蹴散らした。
 罪人の怨嗟と腐った血の匂いに満ちた監獄の空気も、爽快な連射音に吹き飛ばされていくようだった。私は牙を剥いて襲いかかる大ねずみを盾であしらいながら、背後のティルカに声をかけた。
「調子が戻ったみたいね」
「へへ、任せてっ!」
「よかったわ。――きゃう!」
 矢の重ね撃ちが私の足の間を通り抜けて、大ねずみを床に縫い付けた。私は飛び上がってティルカをにらんだ。
「調子、戻りすぎよ!」
「ってか、調子に乗ってま〜す」
 全然悪びれずに舌を出す。怒るに怒れず、私は苦笑した。
 祝福、加速、武器の強化、身体保護の魔法を立て続けにかけてやりつつ、私は頭の隅であのことを考えていた。ティルカは治ったのだろうか。
 そうみたいだ、と思っていた。狩りが一段落するまでは。
 少し多めの敵が一度に近づいてきて、ティルカが重ね撃ちを続けた。手近の敵を一掃すると、弦を引く右手をぷらぷら振って言う。
「いたた……DS連打は指にクるなあ」
「休みましょう」
 壁の隙間を見つけて、軽くほこりを払って腰を下ろした。ティルカが肩にもたれてくる。
「はー、すっきり。やっぱ狩りに出ないと体調狂うよ」
「体を動かすと気持ちいいでしょ」
「気持ち……いいね、うん」
 うんうん、とティルカは妙に強くうなずいた。
 引きこもっていて体や心にいいわけがない。私は駄目押しをしようと、さっき倒した敵の死体に指を向けた。
「ここだともう楽勝だから、今度は亀島か火山にいってみる? 鷹匠のあなたなら、そろそろ勝てると思うけど。こんな陰気な場所はそうそう来るところじゃないわ」
「そだね」
 つぶやいて、ティルカは死体を見つめている。インジャスティス――全裸の体のあちこちを刃物や針で縫い合わされた、奇怪な女のゾンビを。
 あまりまじまじと見たいようなものじゃない。私は壁に目を移した。しばらくして、ティルカがぽつりと言った。
「ねえ、あれってなんで裸なの」
「そういう拷問だったんじゃないの。はずかしめよ。監獄の怪物なんてみんな囚人の末路だから同情する義理はないけど、ちょっぴりかわいそうかもね」
「どんな罪だったんだろうね」
「さあ……」
 私は言葉を濁した。あれだけの極刑を科されるような罪だ。あまり考えたくない。
「なんだかわかるような気がする。……きっと、えっちな罪だ」
「え?」
「奥さんいる人を寝取ったとか、付き合っちゃいけない相手と付き合ったとか。ほら、昔ってかんつーざいとかいうのがあったでしょ」
「かんつう……姦通罪? そんな。あなたの思い込みよ」
 私は軽く笑って話を流そうとした。でもティルカは首を振った。
「感じない? あいつらの動きってすごくやらしい。そういう罪がこびりついてるんだと思う。いっぺん死んで蘇っても、まだそういうのに飢えてるのよ。ううん逆、飢えてるから蘇ったんだ」
「執着……業か」
「きっとわたしたちにもそういうことをするつもりなんだ」
 そう言ったティルカが、一段声を低めて漏らした。
「……わかる」
「なにが」
「気持ちが。触れちゃいけない人に触れたいっていう思いが。そういうの、わたしにも……ある」
 私ははっと身を硬くした。ティルカが片手を私のひざに置いていた。
 笑みをなくした、強い眼差しが私に向いた。
「ねえ」
「ティルカ」
「いい?」
「ティルカ、だめ」
「お願い」
「監獄よ?」
「わかってる。でも」
「ティルカ!」
「……一度なったら、抑えられないの」
 ティルカがこちらに体をひねった。投げ出した片足と立てたもう片方の足の間を、腰を浮かせて私に見せた。
 下半身をぴったりと覆うスパッツの股間に、ありえない膨らみができていた。それも、親指より少し小さいぐらいの。育ってる!
 ティルカは治っていなかった。むしろ以前より変化が進んでいた。
「……ティルカ」
 私は深呼吸して、間近に顔を寄せたティルカに言い聞かせた。
「いい? 私たちは親友。それ以上でも以外でもない。女同士で付き合うなんて気は、さらさらないの」
「だから。親友だから。こんなこと誰にも言えない。最初はリノルにも言えなかった。でも、リノルしかいない」
 子供じみた顔をぐいっと寄せて、切なげに訴える。
「恋人になってなんて言ってないよ。ちょっと手伝ってくれるだけでいい。わたし、苦しいの。苦しみをやわらげてくれるだけでいいから。ね、お願い」
 じわりと怒りが湧いた。この子、私の戸惑いなんかちっとも気にかけてない。自分の欲望を垂れ流してるだけ。
 ……ううん、違う。これはそういう病気なんだ。悪いのはティルカじゃなくて、股間のあれ。私は自分に言い聞かせた。
 呼吸を整えて尋ねる。
「……どうしてほしいの」
「また、この間みたいにしたい……」
「冗談じゃないわ、抱き合ってこすりつけるなんて、ここでできると思う? 敵に横湧きされたら二人まとめてやられちゃう」
「じゃ、どうすればいいのぉ?」
「濡らせば痛くないんでしょ」
 私はパウチからガラス瓶を取り出した。そこに、倒したアクラウスから吸い取った体液が収めてある。あまり気味のいいものじゃないけど、収集品商人が買い取って何かに使っているぐらいだから、人の体に害はないはずだ。……多分。
 左手にそのねっとりした液を塗りつけて、右手をティルカの肩に回した。ティルカはもう小さな女の子のように体を預けて、待ち焦がれるように私を見つめている。
「ど、どうするの……」
「このまま手で」
「敵来ちゃったら?」
「どっちみち今のあなたじゃ敵なんか倒せないでしょ。済むまで来ないように祈ってて!」
「う、うん」
 首をすくめて、ティルカは胸を抱くように両腕を狭めた。
 壁を背に並んで、通路のほうを警戒しながら、私はティルカのおなかからスパッツの中に手を忍び込ませた。「やさしく、やさしく、ね?」と呪文のようにつぶやくティルカの下腹へ、少しずつ手を進めていく。
 つるり、とそれが手のひらに入ってきた。「んく!」とティルカが肩を縮める。私は注意深くそれの形を探る。やっぱり、女の子のあれが指のように育ったものみたいだ。股間から斜め上に向かって三センチほど突き出している。
 剥き卵みたいにつるつるした手触り、硬さもそれぐらい――撫で回すようにしていると、ティルカが唇を震わせて言った。
「そおっとね……爪立てられたら死んじゃう……」
「怖いの? 自分でする?」
「ううん、して。やっぱり……自分の手と全然違う……」
 はふぁ、とティルカが息を吐いた。スタンにかかったみたいに体がくにゃくにゃになっていく。両足がだらしなく伸びて、ブーツがザリッと床を削る。
「いいよぉ、リノル。じんじんきてるぅ……あし、足が溶けちゃう……」
 粘液を溜めた手のひらのくぼみで包むと、はぁぁぁ、と喉をそらしてうめいた。
 時おり両足を痙攣させるティルカを抱いて、私は黙々と手を動かした。こんな痴態、私なら絶対他人に見せられない。遠い天井の梁で見下ろす、鷹の視線すらいとわしい。顔から火が出そうに恥ずかしくて、否応なくショーツの中が湿った。
 まさぐることは、調べることになった。ティルカのきついスパッツとショーツに覆われた余裕のない空間を、私は知りたくもないのにすみずみまで知ってしまった。肥大したあれの下には頼りない花弁に縁取られた裂け目があって、とぷとぷと絶え間なくしずくを漏らしていた。自分がそうなのと同じように、ティルカはそこも喜んだ。あれを軽く握りながら小指を裂け目にくぐらせると、重なった小さなひだがつぷりと飲み込んだ。引きずり込まれるような気がして、私は悪寒を覚えた。
 小指の先が、粘膜の内側にあるこりこりとした塊に当たった。それは、あれの根元にあるようだ。骨ではなく、液体がみっちりと詰まった厚い小さな袋という感じ。
 その途端、びくん、びくん、とティルカが体を波打たせた。
「痛い?」
「ちっ、違うっ……電気がすごいのっ……!」
「ふうん……」
 近道が見つかった。私は小指をそこから離さないようにしながら、反り返ったあれをきゅっきゅっと絞り上げた。
「ひぅ、ひぅ、ひぅ……ひくぅぅぅんっ!」
 何度か大きく腰を突き出してから、尻を浮かせたままティルカは硬直した。手の中のものが激しくしゃくりあげて、親指にどろっとした熱いものが噴きつけられた。
 小指に当たるこりこりした袋は、少し柔らかくなったようだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 絶頂が近づくにつれこわばっていったティルカの体が、一気に弛緩して壁にもたれる。風呂上りのように全身が火照っていて、監獄の冷たい空気に薄い湯気が立ち昇った。
 私は手を引き抜いて、持ち歩いている聖水ですすいだ。ハンカチをもう一度ティルカの下腹に差し込んで、中もぬぐってやった。できる限り清めてやったつもりだけど、スパッツの表にまで薄くにじんだ、小さなまるい染みだけは拭き取れなかった。
 ハンカチを投げ捨てて、ひざを抱えて座り、私は待った。
 ちりーん、と澄んだ音がした。体に埋め込まれた針が触れ合う音。新たなインジャスティスが近づいている。
 横を見ると、ティルカがようやく目の焦点を合わせたところだった。瞬きをして、表情を取り戻す。
「来たね」
「うん。いける?」
「いけるよ。支援お願い」
 私たちは立ち上がる。そうだ、奇妙な時間は終わったんだ。
 そう自分に言い聞かせたけど、ティルカのひとことで私は打ちのめされたような気分になった。信頼しきった笑みをにっこりと浮かべて、彼女は言った。
「リノル、また次もお願いね」

 綱渡りのような日々が始まった。しかもそれは、落ちることが約束されている綱渡りだった。
 ティルカの症状は治まるどころか日を追ってひどくなった。股間のあれは少しずつ大きくなり、数日ごとに私が「処理」してやらなければいけなかった。
 しかも、ティルカの要求は回を重ねるごとに過激になっていった。
「いけないの」
 ねぐらのベッドの上で、あられもなく股間をさらしたティルカが、息を荒げて訴える。
「もう、手じゃダメ。おねがいリノル、もっとえっちなことして」
「どうしろっていうのよ!」
 三十分近くも両手の奉仕を強要されていた私は、苛立って言い返す。脅えて目を閉じたティルカが、それでもせがまずにはいられないというように、涙を浮かべて私を見上げる。
「胸で……して……」
「なんですって……」
「リノルの……おっぱいで。前に泉で見たとき、すごくきれいだって思った」
「胸なら自分のを使えば。その立派なのを」
 胸当てに締め上げられたティルカの豊かな乳房を指差して、私は皮肉を言い放つ。ティルカは強く首を振る。
「できるものならやりたいよう、でも無理だし! リノルのほうがふよふよで可愛いよ! 食べちゃいたいぐらいきれいだよ! だから、ね?」
 その言い方がますます気に障る。私は目をつり上げてティルカをにらみ、かなり長い間、文句を言った。
 でも、結末は決まっていた。しなければ、ティルカは耐えられないんだから。
 私は僧衣をまるごと脱ぎ捨て、ブラジャーを外して、屈辱感にまみれながらティルカに乳房を汚させてやった。
 それをしてやったときから、次の要求は目に見えていた。口だった。
 なめて、と言われたとき、私は猛烈に抵抗した。
「口ですって? あなた何様のつもりなの? 親友だからって言っていいことと悪いことがあるでしょ。ううん、もうあなたなんか親友じゃないわ! そんな、そんなところに口づけしろだなんて……」
 私は震える指をティルカの股間に突きつける。そこには、中指よりもはるかに大きく太くなったあれが、天井をめがけて反り返っている。
「おね……がい……」
 向き合って立ったティルカが、ぽろぽろと涙をこぼして、私の袖に取りすがる。
「見捨てないで、リノルが行ったら、わたしどうしようもなくなっちゃう。あそこにこんなのつけたまま、狩りにも行けないで、この小屋からも出られなくて、だめになっちゃう……」
「だからって……」
 私は言葉に詰まる。そう、それが綱渡りの終わりだ。
 もうそれは、親友としての一線を越えている。恋人同士がすることだ。それとも主人と奴隷? いずれにせよ私たちの関係でできることじゃない。
 意地でもしたくなかった。私はティルカの手を振り払った。
「表に出ればいいじゃない。十字路で相手を探せば! したくてたまらないふたなりですって看板出せば、ものの五分でお客が来るわよ。お金だってもらえるかもね!」
 私は戸口に向かって、ドアノブに手をかけた。
「じゃ、せめて見てて」
 手が動かなかった。
「見てるだけでいいから。……そこにいてくれるだけでいいから。わたし、がんばる。だから、行かないで……」
 くちゅ、くちゅ、と音がし始めた。私はゆっくりと振り向いた。
 ベッドに腰掛けたティルカが、うつむいてあれをしごいていた。
「ん……くぅ……かは……」
 自分の唾液を塗った手で、下手くそに、一生懸命に。時おり眉をひそめるのは、指のざらざらが引っかかるからか。弓を使う彼女の手はいつも荒れていて、それで触れるのは、多分やすりをかけるような苦痛だ。
「くぅ……おねがい、いかせて……」
 私にというよりは、股間のあれそのものにかけた言葉だろう。それが彼女に身も世もない渇望を植えつけ、同時に、決して昇りつめられないもどかしい快感を与えている。  
 上下する彼女の手の隙間に、濡れた濃いピンクが見え隠れする。張りつめ、脈動し、それでも最後の痙攣にたどりつけず、どこか不満げだ。細い赤い筋が見えた。血がにじんでいる。
 薄く開けた口からよだれを落として、ティルカが哭く。
「いけない……いけないよぉ……助けて、リノル……」
 胸に突き刺さるような言葉だった。怒りに硬化していた私の心は激しく揺さぶられた。親友か、恋人かなんて区分に縛られていた自分の認識が、みじめなほど小さく思えた。ティルカはそんなこだわりを知らない。ただ最も近くて頼れる存在として、私を求めている。
 気がつくと彼女の前に立っていた。「リノル……?」とティルカが顔を上げる。
 私はしゃがみ、ティルカの手をそっとどけた。前に垂れる髪をはらいのけて、ティルカの股間に顔を近づけた。
 唾液と愛液のみだらな匂いがした。触れると生暖かく、舌がしびれるような尿の味が突き刺さった。
 意識が曇るほどの強い感情が巻き起こった。でもそれは拒絶じゃないような気がした。あまりはっきりした考えが浮かぶ前に、浮かばないように、私はそれを飲み込んだ。
 なめらかな幹と先端を、自分の唾液で包むようにしてなめ回した。匂いがいやで口を離して息継ぎをし、また唇に迎える。それを繰り返しつつ、言った。
「付き合うわ。最後まで」
「あり……がとぉ……」
 歓喜に染まった顔をのけぞらせ、ベッドに後ろ手をついて、ティルカは腰をもぞつかせた。ぬかるんだ谷間に指を差し込むと、粘膜の奥のあのみっちりした袋がまだあった。
 それがびくびくと震え、きうっと縮こまった。
「はぅ……あ……っ♪」
 ティルカはかけらほどの遠慮もなく、私の口いっぱいに精液を排出した。
 指先にあたる袋が、また少しだけ小さくなった。

 手をこまねいてティルカの欲望処理役に甘んじてたわけじゃない。図書館にも行ったし、人にも尋ねた。あれがなんなのかを知るために。
 手がかりは少なかった。どこも、誰も、あれについての知識を持ってはいなかった。
 ただ、知り合いの女騎士からわずかばかりの話を聞くことはできた。
「ノーナンバーだと思います」
 その騎士はある特別なギルドに属していて、公表されていない情報にも触れられる人だった。そのこと自体も秘密だったけど、私は個人的な行きがかりで彼女と親しかった。
「ノーナンバー?」
 私はベンチに並んで座った、その小柄な騎士に聞き返した。プロンテラ城の北の砦エリア。騎士はうなずく。
「はい。『管理者』の手の及ばない魔物や人間。ティルカさんを襲ったマンドラゴラって、そういうのじゃないでしょうか」
「ありうる、というより他に考えられないわね。襲った相手をみだらに変身させてしまう魔物なんて、見つかってないんだから……」
「私たちが死体を調べてきましょうか?」
「無駄よ。もう朽ちてるわ」
 私はため息をついた。これでは何もわからないのと一緒だ。
 騎士が顔をのぞく。
「大変ですね」
「いろいろとね」
「んと……大事なのは病気の名前じゃなくて、治療法だと思います。正体がわからなくても、がっかりしないで」
「医者に治せるようなものとは思えないし」
「そ、そうですね。あはは……」
 騎士は困ったように笑った。この人も子供っぽい。
 子供のこの子に聞いてどうなるとも思えなかったけど、私はつぶやいた。
「あなた処女?」
「は?」
 笑ったままで表情を凍りつかせる。外したかなと思いながら続けた。
「その……男性の体について詳しい?」
「いえ、あの、詳しいっていうか」
「私、まだだから。知ってるなら聞きたいことが。でも無駄だったかな」
「……経験あります……」
 顔を真っ赤にして、騎士は小声で言った。ちょっと意外で悔しかったけど、まあ好都合。
「形ってどうなの」
「かっかたちですか? なんのっ?」
「あれの。男の」
「それは……んと、棒っていうか筒っていうか、こう……」
 手振りで騎士は表現する。確かに、実物を知っている人間の手つきだった。私も少し赤面した。
「じゃあ、それって上から下までまっすぐなの? つるつる?」
「まっすぐはまっすぐですけど、つるつるってわけじゃなくて……なんていうか、伸ばせば二重で」
「下は? その下はどうなってるの?」
「しっ下は、こう、こんな感じで」
 また手振りで騎士は表した。滑稽な問答だと内心で思いつつ、私は真剣な顔でうんうんとうなずいた。
「ふうん……やっぱりティルカのは普通じゃないみたい。下は女の子だから」
「はあ、女の子……」
「ということは、種もない」
「は? ……種?」
「男はこんな感じのこれの中で精液を作るんでしょ。そこに種があって。でもティルカにはないんだから……うんうん、わかったわ。ありがとう」
「え、あの、わかったって」
「あてずっぽうだけどね。治し方」
「はあ、そうなんですか……」
 騎士は首を傾げている。
 砦の一つからサングラスの僧侶がやってきて、そばに立った。私のことをあごで騎士に尋ねる。その勝手知ったる素振りはただのギルメンとも思えない。
 騎士が紹介してくれる前に、私は言った。
「ああ、この人がつるつるじゃないけどまっすぐ」
「なんだって?」
「リノルさんっ!」
 私は立ち上がり、けげんそうな様子の僧侶と、目元を赤くした騎士に会釈した。
「仲良くね。うらやましいわ」
 そう言って、瞬間移動でその場を離れた。

 別にどこだっていいといえば、その通りだ。私たち二人にとってこれは特別な意味のあることじゃない。
 でも私にとっては一生に一度のことだった。だからジュノーを選んだ。
 転送門から出た私たちを、魔法都市はさわやかな谷風で迎えてくれた。そこは空中に浮かぶこの都市の入り口だ。渡り橋から下を覗くと、千仞の山渓に雲が流れて底も見えず、仰げばどこまでも青く抜けた空と、城塔の頂に回るクリスタルの輝きが目に入った。
 薄暗いねぐらや、危険で不潔な監獄とは雲泥の差だ。
「……ここなら、いいかな」
「何がー?」
 ティルカが屈託なく聞く。こういうときに限って彼女は、情欲のじの字も見せない。それもまた苛立たしい。
 でも、いいんだ。そういう鈍感さもひっくるめて、彼女なんだから。
「行くわよ。場所を見つけてあるから」
「うん。……でもどこに?」
 無視して私は先を歩いた。
 町には軒の深い石組みの建物が並び、プロンテラに匹敵する立派な造りだった。でもこちらには、あの息詰るほどの雑踏がない。風だけが通る静かな街路に私たちの足音がこだまする。もう少しうるさくてもいいのに、と思ったぐらいだ。
 心臓の音を聞かれそうで。
 この町に数多い空いた民家の一つに、私たちは入った。中は二部屋で奥の間に整った調度とベッドがあった。私は武装を外し、靴を脱いでベッドに腰掛けた。静かにティルカを見つめる。
 彼女はようやく気づいた。気後れしたように目を逸らしてつぶやく。
「それって、あの……今日もしてくれるってこと?」
「してあげるし、させてあげる。今日はあなたのしたいこと、なんでもしていい」
「……なんでも……」
「心の中のものを、今日中に全部吐き出すつもりでして。最高に気持ちよくなって」
 ティルカは突っ立ったまま私を見つめた。彼女の身に起こる変化を、私は初めて、最初から克明に目にした。
 頬に血の気がのぼり、空色の瞳が潤み始める。呼吸が深くなる。胸の前でぎゅっと手を組み合わせる。
 なだらかにくぼんだスパッツの股間に、形が生まれる。むくむくと――大きく、はっきりと。
 それはもう、スパッツの上辺を浮かせるほどに成長していた。長さは伸ばした手のひらより長い。太さも指二本分もある。もし表に出たら、三十歩先の人にも見破られてしまうほど。
 ティルカは他愛ないほど正直に、興奮し始めた。
 私の前に近づいて、手を出したり引っ込めたりする。私はくすりと笑う。
「どうしたの?」
「えっと、なんでもって言われると、かえって何したらいいか……」
「じゃ、最初は私が。下脱いで、清めてあげる」
 こくりとうなずいて、ティルカは腰に両手をやり、ショーツごとスパッツをくるくると巻き下ろした。私は聖水の瓶を取り出す。
 つま先からスパッツを抜いたティルカが足をそろえて立った。祈るように胸の前でこぶしを握る。
 私の鼻先にそれがあった。まっすぐで、つるつる。ティルカからはみ出した、ティルカのむき出しの欲望。丸い先端で小さな切れ込みが震え、ピンクの表面がぬめぬめと光って、圧倒されるほど卑猥だった。
 冷たい聖水をかけると、ティルカが唇を噛んだ。私は滴礼の言葉とともに、それに口付けした。
Aspersio汝が罪を清められかし……」
 冒涜的な行為だけど、していけないとは思えなかった。この言葉どおりのことをするんだから。
 そして私は聖水を塗り広げるように舌を這わせていった。
「ひゃ……ひくぅ……んぅう……」
 ティルカがうめき声を漏らして、ひくひくとそれを持ち上げる。湿った体内にあるはずのそれは、空気に触れて乾いていってしまう。乾いて痛みを覚えることがないように、私は丁寧に唾液を塗り重ねる。
 粘膜がぴんと張りつめるほどふくらんだそれが、透明なしずくをちゅっ、ちゅっ、と間欠的に漏らし始めた。先端をくむくむと唇で押しながら、私は見上げる。
「どうしたい? このまま出す?」
「あ、ああ……ええっと……んうっ……」
「一番したいことを」
「髪っ、髪がいいっ! リノルのさらさらの髪ぃっ!」
 脈動を唇で感じ取ってぎりぎりまでしゃぶりあげてから、私は口を離して頭を傾けた。ティルカの先端に金髪をたっぷりとかぶせてやる。
「ああああぁっ、汚すよぉぉおっ!」
 顔を押さえて叫んだティルカが、立て続けに粘液を撃ち出した。無数の細い髪にからみついた液が、私の頭皮にじっとりと染みこんできた。
「はあっ、はあぁぁ……」
 ティルカが大きく胸を上下させて力を抜く。しかしそこで終わらせず、私はティルカの谷間に指を忍び込ませた。
「ひゃあっ!?」
 跳ねるティルカの腰の中を注意深くまさぐる。――あった。あの袋は、まだくるみよりも大きく、強い弾力を持っている。
 やっぱり、しなければいけないみたいだった。
「ティルカ」
 私はこくりとつばを飲んで言った。
「私を犯したい?」
 ティルカが目を丸くした。私はひるまずに彼女を見上げる。
 少しやわらかく垂れかけていたあれが、急速に持ち上がっていった。聞かなくてもわかった。
 私は足を伸ばしてショーツを脱いだ。ぐっしょりとまではいかないけど、股のところは見てわかるほど湿っていた。
 それをそばにおいて、またティルカを見上げた。
「いいわよ」
「リノル……」
「あなたのそれに触れるものは、柔らかければ柔らかいほどいいんでしょ。多分あそこが一番……ううん、自信はないけど」
「し、したい」
 私の肩に両手を置いて体重をかけてきた。逆らわずにベッドに倒れた。ティルカは僧衣の前垂れを横に払って、腰を寄せてきた。
 はーっ、はーっ、と荒い息が顔にかかる。きれいな瞳に痛々しいほどの欲情の色がある。多分私は今、この子の一番激しい力を引き出そうとしている。耐え切れるかな――浮かんだ不安を懸命に打ち消す。
「ほんとにいいの?」
「いやって言っても、もう止まらないでしょ」
「止まらない。ごめん、もうわたしリノルがほしくてしょうがない。リノルをめちゃくちゃにしたい」
「めちゃくちゃは勘弁してほしいな……」
 足の下から手を回して、指をあてがい、私は自らそこを開いた。その指が触れただけでちりっとしびれが走った。こんな相手、こんな場合でも女って気持ちよくなれるんだ、と他人事みたいに感心した。
「入れて……」
 ティルカが目を下にやって腰を動かした。私は目を閉じる。
 侵入は穏やかなほどだった。
「リノ……ル……」
 体の上のティルカの力みとともに、熱くてすべすべしたものが私に入ってきた。押し広げられ、貫かれていく。自然に眉間にしわがよる。痛いせいだけじゃない。無防備な体の中をさらしてしまうのが怖い。
 それでも私は、突き飛ばさずにいられた。
 異物感が最大になって、ふっと消えた。にゅぐぅっ、と湿った感触が私の内部を突き上げて、ティルカがどっと体を沈めてきた。
「あああ、入った、リノルに入っちゃったぁ……♪」
 うっとりとした声を漏らしながら、ティルカがぐいぐいと腰をひねる。それとつながって、じんわりとした圧迫感が腹の中で動く。あまり細かい感触はわからない。でも、その熱さと硬さがどんどん増しているのは感じられた。
 体を動かそうとして、しびれていることに気づく。なんとか足に力をこめて広げると、じゅぷりと液があふれ出した。これでいい、と私は思った。私はちゃんと感じている。ティルカを受け入れられた……。
 息を吐いて力を抜き、もっと深くティルカを迎えた。ティルカは感じ取ってくれた。私の肩に顔を乗せて強く抱きしめ、熱っぽくささやく。
「ありがと、リノルありがとね。これ最高だよ、ぬるぬるしてきゅうってして、わたし溶けちゃいそうだよぉ」
「楽しんで。……ふぁっ!」
 息があふれた。ティルカが腰を前後に動かすようになった。もっと私を濡らすために、もっとあれを大きくするために。
 それは心地よかった。隠せないし隠す必要もなかった。私はティルカに犯されて火がついていた。
 ぐちゅっぐちゅっぐちゅっと水音が湧き起こる。ティルカが夢中になって腰を跳ねさせている。私を抱いた腕に力がこもり、指にまでこもり、背中をきつくえぐる。中も外も味わいつくそうというように。
 背骨が焼かれるような快感がせりあがってきて、私もたまらずのけぞった。濡れた髪を振り乱してうめいた。
「ティルカ、いいわ。心配いらない、私気持ちいい、もっと、もっとえぐっても大丈夫……っ」
「えぐるよ、ぐにぐにするよっ! リノルをいっぱい感じるよぉっ!」
 股間はもう溶けてしまっていた。比喩でなく本当に、その部分に含まれていたものが熱で溶かされたように、私の入り口も奥もあとからあとから泉を湧き出させていた。そうやって垂れ流すこと自体が快感だった。普段決して開けない門をいっぱいに開け放って、私はとめどなく漏らし、そこを滑るティルカの感触に喜んだ。
「いいの、気持ちいいの……っ。ティルカ、ティルカ、ティルカっ!」
 顔をつかまえて口づけした。抑えていたものがあふれ出した。心の底からの気持ちを込めて私はティルカのキスをむさぼり、ティルカも負けずに舌と熱気を注いでくれた。
「ティルカぁ……っ!」
 私のほうが先に達してしまったのは、仕方のないことだった。
 体の中をぴりぴりと駆けていた快感が急に一つにつながって、一気に意識を押し流した。目を開けていたと思うのに視覚がなくなって白一色が染めた。体を縮こめたのか、思い切り伸ばしたのかもわからなくなった。
「あ……ティ……」
 純粋な快感だけに満たされて、私はしばらく静止していた。静止したと思った。
 そうではなくて、ティルカを抱きしめて激しく痙攣していたということに気づいたのは、峠を少し過ぎてからだった。
 そのころに、ティルカが絶頂した。
「ふぐぅぅぅんっ!」
 動物のようにうめいて、ティルカが私の首筋を噛んだ。彼女の腰が、ベッドがずれるほど激しく私の股で暴れていた。暴れながら鋭くびくん、びくん、と震えていて、それで彼女の絶頂がわかった。
 じわりと腹の中に粘っこさが広がった。
 それが、私の感じた最初で最後の、本物の交わりだった。
 泣きたくなるほど甘美な感覚だった。そのまままどろんでティルカを感じていたかった。だけどそれは許されない。ティルカを助けなくちゃいけない。
 私はありったけの気力をかき集めてティルカを引きはがし、ベッドに投げ捨てた。引き抜かれたティルカのものはまだ絶頂の途中だった。激しく跳ね上がって、白いものをまきちらしている。
「やっ、いやあっ! させて、もっと出させてぇっ!」
「てぃ、ティルカ……」
 重い体を持ち上げて、私は仰向けのティルカの腰に覆いかぶさった。谷間に指を潜らせて、あの袋を探し当てる。
 それはたっぷりとたたえた中身を、今まさに吐き出している最中だった。
「ティルカ」
 切なげにもがくティルカに顔を向けて、私はささやいた。
「ごめん……これが最後っ!」
「いひィッ? っあ、ひゃあああぁぁぁぁっ!」
 私はティルカの袋を残酷に押しつぶした。ティルカが白目を剥き、私をはね飛ばさんばかりに腰を持ち上げた。私のあごの下であれがはちきれるほどふくらみ、奔流のように精液を噴き出した。
「あッ、あッ、くぁああぁぁんんっ!」
 悲鳴とも歓声ともつかない声を上げて、ティルカが真っ白な噴水を私に浴びせる。あっというまに顔がべとべとに覆われ、鼻と口に濃密な香りが殺到して肺を焼いた。
 私は容赦しなかった。袋が形を失うまで圧迫し続けた。ティルカは発狂したように射精し続け、出るものがなくなってもまだ悶え回り、ベッドからずり落ちるまでそうしてから、床の上でようやく動きを止めた。
「か……はぁ……っ」
 死魚のようにぐったりと横たわったティルカが、無秩序に投げ出した四肢をひくひくと震わせる。顔からは表情がごっそりと抜け落ちていた。それを見下ろして、私は砂を噛むような達成感を味わっていた。
「ごめん……ね」
 ゆらりと視界が揺れた。私も気力を使い果たして、ベッドに崩折れた。

 芝の茂る広場に、がやがやと喧騒が渦巻く。
 プロンテラ南、臨時公平広場。狩りに赴く仲間を求めて、さまざまな人々がたむろっている。
 私とティルカも募集看板を出して座っていた。ティルカは髪を広げて落ち着かなく辺りを見回す。
「やー、どきどきするね」
「何が?」
「臨時、久しぶりじゃない。いい人来るといいなあ」
「怖ければやめましょうか」
「ううん、やるっ。大丈夫ー♪」
 ほがらかに叫ぶ彼女を、私は無表情に見つめる。
 ティルカは元に戻った。私が予想したとおり、あの変化はティルカが体内の精液を使い尽くすまでのことだった。それが例のマンドラゴラが埋め込んだものだった。
 それで人間の女に寄生するのが目的だったんだろう。でも、私は幸い妊娠しなかった。交わる前にした洗礼が効いたのか、それとも単に時期の問題だったのかは、今となってはわからない。
 私は少しおかしいのかもしれない。なぜなら、妊娠してもいいと思っていたから。
 ティルカの赤ちゃんを宿せるなら。
 それが私が秘めていた心。私の苛立ちの源、執着、業。私はこの子を愛している。
 好きだと言ってほしかった。そのちっぽけな鍵さえ使ってくれれば、私は奴隷よりも卑屈に彼女に従っただろう。そうなりたかった。
 なのに彼女は言わなかった。あんなに激しい欲情に取り憑かれていたのに、最後まで。親友としての一線を守っていたのは、彼女のほうだった。
 私の心は、どろどろの欲望にまみれて彼女を求めていたのに。
 肩に止まらせた鷹に餌をやるティルカの、穏やかな横顔を見つめる。
 苛立たしい。その天真爛漫な鈍感さが。
 そして愛しい。
 恋にならなくてもいい、と私は乾いたあきらめを抱く。
「こんにちはー。いいですか?」
 そばに男の騎士が座った。はーいこんにちは、とにこやかに迎えるティルカと私を交互に見つめる。
「ギルド一緒だね。友達?」
「ううん、相方です」
「へえ、相方なんだ。女同士なのに恋人?」
「恋人じゃないの。もっと仲良しなの♪」
 そう言って笑う。私は、ふと胸を突かれたような気がした。
 私はティルカにとって、最も近くて頼れる存在。最初からそうだった。恋人でなくても、それで何が不足だったんだろう?
「なんだ……そうか」
「リノル?」
「あは……私、ばかだ。あははっ」
「どしたの? リノル?」
「なんでもないわ」
 私は片腕を伸ばしてぎゅっとティルカの首根っこを抱いた。なにリノル、変だよう、とティルカが暴れる。冗談めかして言ってやった。
「変でもいいじゃない。私が嫌い?」
「ううん」
 ティルカは首を振って、私が死ぬまで忘れられないひとことを言った。
「好きだよ。大好きっ!」


終わり



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