紀淑望 きのよしもち 生年未詳〜延喜十九(919)

中納言長谷雄の子。兄弟に淑人・淑光がいる。文章生・秀才・大学頭・信濃権介などを歴任。従五位上。延喜五年(905)四月、醍醐天皇より歌集撰進の勅命を承け、真名序を執筆。勅撰集入集歌は古今集・新古今集に各一首のみ。

秋の歌合しける時よめる

紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋を聞きわたるらむ(古今251)

【通釈】木々が紅葉しない常盤の山は、風の吹く音に秋の移ろいを聞き続けているのだろうか。

【語釈】◇ときはの山 山城の歌枕。京都市左京区の妙心寺の西、左大臣源常(みなもとのときは)の山荘があった丘陵という。その名から紅葉しない山とされた。◇秋を聞きわたる 秋の推移に耳を傾けつづける。山を擬人化して言う。

【他出】小町集、新撰和歌、古今和歌六帖、拾遺集、俊頼髄脳、奥義抄、五代集歌枕、古来風躰抄、定家八代抄、和漢兼作集、歌枕名寄、桐火桶
(拾遺集は誤って大中臣能宣の作とする。また第二句「ときはの山に」とする本もある。)

【主な派生歌】
紅葉せぬときはの山に住む鹿はおのれ鳴きてや秋を知るらむ(*大中臣能宣[拾遺])
花咲かぬときはの山のうぐひすは霞を見てや春をしらなむ(〃 [新千載])
秋来れば常盤の山の松風もうつるばかりに身にぞしみける(和泉式部[新古])
浅みどり霞める空のけしきにやときはの山も春をしらなむ(少将公教母[金葉])


更新日:平成15年10月12日
最終更新日:平成21年01月27日