舎人氏出身の女性か。大宝二年(702)の持統太上天皇の参河行幸に従駕。また舎人親王と相聞歌を贈答している。
二年
【通釈】勇士がさつ矢を手に挟み持ち、立ち向かい、射抜く的――その円方の浜は、目にも鮮やかに美しい。
【語釈】◇さつ矢 幸矢か。矢を誉め讃えて言う。◇円方 三重県東黒部町中野川流域一帯という(垣内田町に服部麻刀方神社跡の名が残る)。
【補記】「大夫が」から「射る」までが、同音のマトから地名「円方」を起こす序。円方を讃めて土地の神霊への挨拶とした歌。
【主な派生歌】
あづさゆみいる円方にみつ汐の昼はありがたみ夜をこそまて(凡河内躬恒)
梓弓いる円方はとほくとも末にこたふるちぎりともがな(藤原隆祐)
舎人皇子の御歌一首
ますらをや片恋せむと嘆けども
【通釈】丈夫(ますらお)たる者、片恋などするだろうか――そう思っては堪えて嘆息するけれども、馬鹿な丈夫である俺はやはり恋してしまうことだよ。
舎人娘子、
嘆きつつ
【通釈】立派な丈夫が長嘆息しては恋しく思って下さるからこそ、私のむすんだ髪が、霧となったあなたの息に濡れ、ほどけてしまったのでした。
【語釈】◇ひちてぬれけれ 「ひち」は濡れる意、「ぬれ」は緩んで解ける意。
【補記】第四句の原文、西本願寺本ほか有力な古写本は「我髪結乃」で、「わがもとゆひの」と訓む説もある。
舎人娘子が雪の歌一首
大口の
【通釈】真神の原に降る雪よ、ひどく降らないでおくれ。このあたりに私の家があるわけでもないのに。
【語釈】◇大口の 狼は口が大きいことから「まかみ」(狼の異称)の枕詞になったと思われる。◇真神の原 奈良県高市郡明日香村、飛鳥寺南方の野原。
【補記】巻八、冬雑歌の冒頭。曠野を過ぎてゆく時雪に降られた心許無さ。真神の原の地名も恐ろしげで、非日常の不安が大きな口を開けている。
最終更新日:平成15年07月29日