紀有朋 きのありとも 生年未詳〜元慶四年(880)

本道の子。友則の父。貫之のおじ。系図
承和十一年(844)、内舎人。その後、武蔵介・三河守・摂津権守などを経て、元慶三年(879)、従五位下。同年宮内少輔に任官。古今集に二首。

題しらず

桜色に衣はふかく染めて着む花の散りなむのちのかたみに(古今66)

【通釈】衣は桜の色に深く染めて着よう。花が散ってしまったあとの思い出のよすがとして。

【補記】「桜色」はごく淡い紅染。薄い色であるのに「ふかくそめて」と言っているところが意表を突く。しみじみとした抒情にしっかりとウイットのスパイスを効かせている。

【他出】新撰和歌、古今和歌六帖、綺語抄、定家八代抄、西行上人談抄、桐火桶

【主な派生歌】
花の香に衣はふかくなりにけり木の下陰の風のまにまに(*紀貫之[新古今])
花ちらむのちもみるべく桜色にそめし衣をぬぎやかふべき(恵慶)
桜色に染めし袂をぬぎかへて山ほととぎす今日よりぞ待つ(*和泉式部)
桜色の衣にもまた別るるに春をのこせる宿の藤浪(式子内親王)
桜色のかたみのころもぬぎかへてふたたび春に別れぬるかな(*雅成親王)
桜色のはつ花染めのかり衣きつつやなれん春の木のもと(西園寺実氏[続古今])
桜色のころもはうすし心こそ春のかたみよふかくそめてき(大内政弘)
み吉野の山わけ衣桜色にこころのおくもふかくそめてき(木下長嘯子)


公開日:平成12年02月09日
最終更新日:平成17年04月17日