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風鈴は古く漢土より渡来したというが、和歌の早い例を探すと、室町時代の歌人正徹(1381-1459)に風鈴を詠んだかと思われる作が見つかる。
『草根集』 盧橘声夢
風かをる花たち花のよるの夢身にさへさむる鈴の音かな
夏に香り高い白花を咲かせる橘。風が運ぶその芳香を夢の中で嗅いでいた。ふと鈴の音が響き、意識ばかりか身体さえ覚醒するようだった、という歌。「身にさへさむる」とは、命が蘇るような新鮮な感じで目覚めたということだろう。この「鈴」は青銅製か鉄製か、しっかりと深い響きを発する鈴でなくてはならない。
正徹の歌は近世以前の孤立例であるが、風鈴の大衆化に伴い、江戸時代末期にもなると作例が散見される。『萬葉集古義』を著した国学者鹿持雅澄(1791-1858)もこんな歌を残している。
『山斎歌集』 応命詠風鈴歌
橘の花の香かよふ朝風にさやぐ小鈴(をすず)の音の涼しさ
「橘の花の香りを届ける朝風――その風に揺れて、さやかに響く鈴の音の涼しさよ」という歌。正徹の歌に比べるといかにも単純ではあるが、「鈴(すず)」「涼(すず)」と同音の繰り返しはおのずから涼感を奏で、快い。この歌の「小鈴」ならガラス風鈴も似合うだろう。
ガラス製の風鈴は享保年間(1716〜1736)、長崎に発祥したと言われる。初めは大名や豪商に珍重された贅沢品であったが、やがて庶民の人気を博するようになった。江戸の町には天秤棒を担いで歩く風鈴売りの姿が見られ、夏に欠かせぬ風物詩であったという。
最近では南部鉄器の風鈴に人気が移行したものか、ガラス風鈴(「江戸風鈴」の通称もある)はあまり見かけなくなったが、ガラスの触れ合う音の儚いような涼やかさには、やはり捨てがたい趣がある。
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『亮々遺稿』 (鈴) 木下幸文
風になる鈴のひびきは夏の夜の月まつ程の友とこそなれ
『浦のしほ貝』 (風鈴に付けたる歌) 熊谷直好
定なき風にまかする鐘の音はいり相もなく暁もなし
『山斎歌集』 (応命詠風鈴歌) 鹿持雅澄
たわやめの袖吹きかへす夕風に涼しくすめる鈴の音(ね)のよさ
御園生(みそのふ)の千代松風の吹くごとにさやぎぞわたる小鈴(をすず)もゆらに
『柿園詠草』 (風鈴の歌あまたよみける中に) 加納諸平
山里のそとものみすず吹く風の音もさやかになりにけらしも
『北の人』 坪野哲久
風鈴は吊りさらされてわれのごとその存在の霜夜の
公開日:平成18年01月20日
最終更新日:平成22年01月27日