8 つづきを読むまへがきへ戻る       *                                             関さへに へなりてあれこそ 間には関さへ隔ててゐるのだから                           たまほこの 路はし遠く   なにしろ道は遠く                 さしかへて 寝ても来ましを 差し交はして 寝て来ようものを                 うちゆきて 妹が手枕    都へ行つて 妻と手枕を                 近く在らば 帰りにだにも  近くにゐるのなら ちよつと帰るだけでも              恋ひしけく 千重につもりぬ 恋しさは千重に積もつた                 うつつにし 直にあらねば  現実にぢかに躰を触れるわけではないから                 寝る夜おちず 夢には見れど 寝る夜毎に夢に見るけれど                 しきたへの 袖かへしつつ  袖を折り返しながら             相見ねば いたもすべなみ  共寝することが出来ないので 何とも致し方がなく             春花の うつろふまでに   春の花が散る季節になるまで            荒璞の 年ゆきがへり    年が改まり                 別れ来し その日のきはみ  別れてきたその日を最後                 天離る 鄙治めにと     都から空遠く隔たつた地方を治めるため                 あしひきの 山越え野ゆき  山を越え野を過ぎ          大王の 命かしこみ     陛下のご命令を畏れ謹んで                 はしけやし 吾が奥妻    ああ愛しい 私の大切な妻よ                 心ぐし 眼ぐしもなしに   気詰まりもなく 見苦しい思ひも無しに                  相見れば 常初花に     床に入れば いつも初花のやうに新鮮で                 たぐへれど いやなつかしく 寄り添つてゐても ますます慕はしく              妹も吾も 心は同じ     妻も私も 思ひは同じである                   恋緒を述ぶる歌 并せて短歌