4 つづきを読むまへがきへ戻る       *                                              第一行のいつしかと待つの訓は 萬葉集略解の本居宣長説による                                             八|一五〇七                           見ませ我妹児        さあ見てください わが恋人よ                           すべをなみ 攀ぢて手折りつ 為す術もなく 枝をつかんで折り取つてしまつたことです                           徒らに 土に散らせば    花をいたずらに散らせてしまふので             追へど追へど 尚し来鳴きて 追ひ払つても追ひ払つても懲りずに来て鳴き             暁の 裏悲しきに      明け方 心が辛い時に限つて                           憂れたきや しこ霍公鳥   いまいましいこと ほととぎすめが                           ここだくも 我が守るものを こんな思ひをして見守つてきたといふのに                           散りこすな ゆめと云ひつつ 散るなよ と言ひ聞かせつつ         ただ一眼 観するまでには  一目見せよう それまでは        真澄鏡 清き月夜に     磨かれた鏡のやうに澄んだ月夜になつたら                           息の緒に 吾が思ふ妹に   わが命とも頼むあの人に                           朝にけに 出で見る毎に   朝に昼に出て見るたびに                           あえぬがに 花咲きにけり  溢れんばかりに花咲きました       玉にぬく 五月を近み    その花を薬玉に刺し通す五月が近いので                           百枝刺し おふる橘     たくさんの枝を伸ばして生えてゐる橘は                           いつしかと 待つ我が屋戸に いつ咲くかと待つてゐた 我が家の庭先に                             花橘を攀ぢて坂上大嬢に贈る歌 并せて短歌