1  次頁へゆくまへがきへ戻る       *                                             その日に当たつたかと思はれる            宮廷行事 この年は閏一月があつたため 作歌の当日四月五日が  とは薬狩のこと ふつう五月五日に鹿の袋角や薬草を採る 着して狩をする月がやつてきたのだ       杜若の花を衣に摺り付けて ますらを達がその紫の衣を重ね                                着襲ひ狩する月は来にけり 十七|三九二一                            かきつはた衣に摺りつけ丈夫の        *                                             が香気をふりまく我が家の庭よ ここだけは昔のままなのだ  鶉の鳴くやうな荒れ寂びたところと人は思つてゐるが 花橘                                花橘のにほふこの屋戸 十七|三九二〇                            鶉鳴く古しと人は思へれど                *                                             と言つてゐる                 十六年は天平十六年 当時難波に都があつたので 平城の故 の雨に 消え失せてしまつたらうか    橘の花から浸み出てゐた香気は ほととぎすが鳴くこの夜半                                鳴く夜の雨にうつろひぬらむ 十七|三九一六                            橘のにほへる香かも時鳥                             十六年四月五日 独り平城の故宅に居りて作る歌       *                                         家持秀歌選 夏の花