9.ソープ遊びの実例(1)

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 全国の「薬剤師にPOSを」ファンの皆様!長らくお待たせをいたしました。第19回日本POS医療学会への発表などでしばらくごぶさたしてしまいました。発表の後、学会の方へもこのホームページへの問い合わせが相次いでいます。また、続きを待ちかねるメールも届いています。
それでは、いよいよお待ちかねのソープ遊びの実例をお届けいたします。

《例1》
(S)最近疲れやすい
(O)ストレスがたまっているようだ
(A)リフレッシュが必要だな
(P)温泉にいく計画を立てよう

 軽くフォーミングアップというところでしょうか。あまり深く考える必要はないでしょう。もうひとつ行ってみましょうか。

《例2》
(S)のどが痛い。
(O)昨日カラオケボックスで2時間歌いまくった。
(A)のどの使いすぎだろう。風邪をひいた様子も無いし・・
(P)うがいをしてのどを休めよう。

 こんな風にやっていけばいいのです。簡単でしょ?それではそろそろ、私が添削を入れたもので、どんなところを注意していけばいいか一緒に考えてみましょう。

《例3》
(S)おなかすいた。
(O)午後4時。
(A)ご飯まで少し時間がある。何か食べてもたしておこう。
(P)何かおやつを探そう。

 さて、どうでしょう?皆さんも一緒に考えてくださいね。

 まず、(A)の後半、「何か食べてもたしておこう」は、(A)ではないですよね。これは(P)でしょう。そうすると、次のようにした方がいいでしょう。

(S)おなかすいた。
(O)午後4時。
(A)ご飯まで少し時間があるので、ちょっともたないかな。
(P)何かおやつを探そう。

 さて、もうひとつ行ってみましょう。

《例4》
(S)目がかゆい。
(O)そろそろ花粉の季節かもしれない。
(A)花粉症のようだ。
(P)目薬をさそう。
 う〜ん。(O)の「そろそろ花粉の季節かもしれない。」はどうでしょうね。例えば、「テレビで花粉が飛び始めたと言っていた。」とか、「花粉症の患者さんが来始めている。」とかなら(O)でいいと思うのですが、花粉の季節になったという事実を客観的事実としてあげたいのなら、

(O)今は2月の後半。
(A)そろそろ花粉の季節かもしれない。

といった、(O)と(A)の方がいいですよね。しかし全体的には、

(S)目がかゆい。
(O)自分は花粉症である。
(A)そろそろ始まったようだな。
(P)抗アレルギー剤の目薬をさそう。

にした方が花粉症であるという事実が明らかになると思います。

 それではもう一つ。

《例5》
(S)雪が降っている。
(O)洗濯物が洗えない。
(A)雪がやみそうにない。
(P)雪がやむのを待って、洗濯をしよう。

 気持ちは分かるのですが、これでは何が問題点なんだかわかりませんね。なぜ、「雪が降っている」と「洗濯物が洗えない。」のかがこれではわかりません。雪が降っていたって、洗濯機はスイッチを入れればまわります。次のようにした方がすっきりしませんか?

(S)洗濯がしたい。
(O)雪が降っているので、洗濯物をほすことが出来ない。
(A)雪がやみそうにない。今日は洗濯できそうにないな。
(P)明日、雪がやんでから洗濯をしよう。

 このように、着目した事実に対して、どれを(O)とし、どう(A)していくか、けっこう悩むことが多いものです。実際の薬歴を前にしてから悩んでしまうと、時間ばかりかかって仕事にならなくなってしまいます。もう少しこのソープ遊びで練習して、コツをつかんでください。

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10.ソープ遊びの実例(2)

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 またまた長らくお待たせ致しました。つくばファーマシューティカルケア研究会の発足に伴って、この「薬剤師にPOSを!」も研究会の研究成果も踏まえた形で、研究会のホームページのコンテンツの一部としてさらに書き続けていくこととなりました。
 実はこのあたりの話は研究会の第2回の定例会で私が担当して取り上げるはずでした。しかし仕事の都合で私が出席できなかったために、できなかった部分なのです。その穴埋め(?)にこのページでくわしく取り上げて行きます。
 今後ともよろしくお願い致します。

   さて、それではソープ遊びの実例を続けましょう。

  《例6》
(S)眠いなあ。
(O)もうこんな時間か。
(A)そろそろ寝ようかな。最近寝不足だしなあ。
(P)歯を磨いて寝ることにしよう。

 さて、このSOAPの場合プロブレムは何でしょうね。ソープ遊びでは実際に行うのと違って背景などが全く白紙ですので、SOAP分析からプロブレムを見当をつけていくことになります。一見順序が逆のような気がしますが、実はここがミソなのです。つまり、まずはSOAPを書いてしまってから(あるいは、書きながらかも知れませんね。)プロブレムを考えることで、プロブレムの範囲を考える練習にもなるのです。そのあたりの話は、ソープ遊びをしていく上で非常に大切なものなので、実例を見ながら少しづつ話をして行くつもりです。

 それではこの例に戻りましょう。

#A:寝不足

  だったらどうでしょう。すると、次のように直した方が分かりやすいですね。

(S)眠いなあ。
(O)もう12時過ぎている。
(A)これ以上無理すると明日の仕事に差し支えるな。
(P)歯を磨いて寝ることにしよう。

 これは簡単でしたね。このように「プロブレムは何だろう?」と考えることで、(A)や(O)として上げるべき事実がすっきりしてきます。

 実は、(O)も結構悩みの種になるものなのです。例えば、窓口でいろいろお話をしてくださった患者さんがいて、その話の中からポイントを絞ってプロブレムを見つけたとします。(S)がたくさん得られた場合、その中から焦点を当てるべき内容をとりあえず選び出します。そしてそれに関係のある(O)を拾いだしていくわけですが、ここで(O)を取り違えるとそこから先が止まってしまいます。考えて行くべき方向とずれている(O)があると、それに惑わされて思考が止まってしまうのです。

 では次の例。

  《例7》
(S)今日も「いじめられる。」と言って息子が学校に生きたがらない。
(O)最近ずっといじめられているようだ。
(A)どうすればいいんだろう。とにかく学校には行かせなくちゃ。
(P)まずは説得してみよう。それでもダメならきつく叱ってみるか。

 おや、ずいぶんと深刻な問題ですね。お子さんがいらっしゃる方なら、ひとごとではないでしょう。でも薬局にいらっしゃる患者さんだってそれぞれ深刻な病気を抱えていらっしゃいます。ここは真摯に取り組んでみましょう。

 さて、プロブレムは何でしょう。

#B:いじめ

でしょうか。それとも、

#C:子供が学校に行きたがらない。

でしょうか。あるいは、このところずーっと困っていて、

#D:子供を学校へ行かせるためにとるべき方策

が問題点なのかも知れません。どれが良いでしょうね。順番に考えてみましょう。

 まず#Bのいじめです。これがお子さんが学校に行きたがらない根本的な原因ですので、完全に解決するならばここを問題点として取り上げなければなりません。しかしこのSOAPの場合、このプロブレムで良いでしょうか?今、目の前にある事実は、今、学校へ行こうとしないので困っているという事ですよね。それに良く読んでみると、#Cと#Dがごちゃ混ぜになってSOAPに書かれているみたいです。

 整理してみましょう。

 まず、#Cに着目するなら,

(S)子供が具合が悪いと言っている。
(O)ゆうべはあんなに元気だったのに。
(A)どうもいじめられているみたいなんだけど、それで行きたがらないのだろうか。
(P)良く話を聞いてどうすれば良いか一緒に考えてあげよう。

となっていた方が分かりやすいですよね。これならば#Cの「学校に行きたがらない」という事実だけに着目したSOAPになっています。

 次に#Dに着目してみます。

(S)子供が「学校に行きたくない」と言っている。
(O)いじめられることをとてもいやがっている。
(A)かなり傷ついているようだし、怖がっているようだ。
(P)無理をさせないで今日は休ませて、気持ちを楽にして上げよう。勇気を持って学校へ行けるように助けてあげなくっちゃ。

 この方が、今どういう状態で困っていて、それに対してどんなふうに対処しているかが良く分かりますね。ただ、このままでは根本原因であるいじめに対しての対策は何もとっていません。

 さて、この後この#Dはどんなふうに推移して行ったでしょう。例えば、

(S)子供は「学校には行きたいんだけど、いじめられるのはつらくていやだ。勇気を持って行きたいけどやっぱり怖い。」と言っている。
(O)気持ちの整理がついてきて、いじめそのものに取り組む前向きな気持ちが出てきた。
(A)いじめられるからには、それなりの理由やきっかけがあるはずだ。それが自分で納得できれば、解決の糸口になるかも知れない。
(P)自分を振り返って、いじめられるようになったきっかけやその理由を考えてみるように話してみよう。

と話が進んで行ったとします。う〜ん。これは立派なお子さんですね。それに、この親も素晴らしい。なかなかこうはいかないものです。

 おっと、話がそれました。プロブレムがどうなっていったかを見ていたんでしたね。このSOAPだと次に、

#D→#B

となって、プロブレムがその根本原因であるいじめの方に移っていくわけです。

 さて、いかがですか?ソープ遊びは結構奥が深いでしょ?いろいろやってみると、本当に良い勉強になります。ぜひ、実際にやってみてください。

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