6.SOAP形式を考える(2)

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6−1.A(Assessment)について

 さあいよいよ(A)アセスメントです。これはむづかしいと思っている方が多いかもしれません。しかし、アセスメントとか評価とかいう言葉に惑わされる必要はありません。そんなにむづかしく考えず、「(S)や(O)からどう考えどう判断したか」をそのまま書いてください。

 「どう考えれば良いかわからないから困っているのに、そのまま書けって言われてもねえ・・・・」なんて声が聞こえてきそうですね。

 確かに、アセスメントがすらすら書けるときは、プロブレムも頭の中では大体まとまっていますよね。ネーミングがむづかしくてまだプロブレムリストには書けていないということはあると思いますが、問題点がどのあたりにあるかは見当はついているはずです。

 じゃあ、書けないときにどうすれば良いのか。これを考えてみたいと思います。

6−2.アセスメントがうまく書けないとき

 まず第一には、あっさりあきらめることです。(ええっ!?あっ、あきらめちゃっていいんですか・・・・・・!?)いいんです。
 よく患者さんの言ったことと、わかる事実だけしか書いていないもの、つまり、(S)と(O)だけのSOAPを「SOS」と言ったりしますが、取り組み始めで、まだどう書いていいか良くわからないときは、あっさりあきらめて「SOS」専門でいきましょう。最初から「きちんとやらなくっちゃ!」と思うあまり、白紙の薬歴を前にペンを握り締めていても、きっと1行も書けずに「にらめっこ」になってしまうでしょう。(経験ありませんか?)そのうち、「この忙しいときにこんなことやってられない。」から、「POSはむづかしい。」になって、「や〜めた!」となってしまうに違いありません。

 まずは「SOS」から。開き直ってください。「SOS」を繰り返すうちに、POSの神様があなたの「SOS」を聞き付けて、きっと素敵なインスピレーションを与えてくださることでしょう。(ほんまかいな・・・・)

 さて、POSの神様からインスピレーションをいただくために、私達にも出来ることがあります。

6−3.練習をしましょう。

 そう、次にやるべきことは練習です。実際の患者さんがいるところでは、あまり時間をかけすぎずに開き直ることにして、それ以外のところで練習をしましょう。すると不思議なことに、一瞬のうちにパッとSOAPすべてが思い浮んでくる患者さんが、段々増えてきます。「気がつくと書けるようになっていた」という感じで、知らないうちに出来るようになります。まことに不思議なことですが、練習の成果ってそもそもそんなものではないのでしょうか。「これはいけそうだな。」という感触がつかめるまで、練習を繰り返しましょう。

 実際の業務であまり大変な思いをしすぎると、POSに取り組むこと自体にくじけてしまいます。POSをものにするためにはある程度の開き直りも必要です。しかし、いつまでも「SOS」ばかりでも困ってしまいますよね。

 でも、大丈夫。ご安心下さい。前にもお話しましたとおり、POSはそれほど特別な考え方ではありません。日常生活でも当たり前にやっていることを、少し整理してルールを決めただけのことです。練習してそのルールを覚えてしまえば、そんなにむづかしいものではないのです。

 その練習方法は・・・・・・・・・・

 とっても大事なことなので、SOAPの内容を一通り見た後で、あらためて取り上げてみたいと思います。「次回のお楽しみ!」に取っておいて、もう少し話を進めていきましょう。

6−4.アセスメントが書ければ、プロブレムは出来たようなもの

 「初心者のためのPOSワークブック」の中で山下先生は、「プロブレムはアセスメントの親玉みたいなものだ。」とおっしゃっていました。なるほど。さすがにうまいことをおっしゃいますね。アセスメントは(S)や(O)からその事実をどう評価し、どんなふうに考えたかを書くものですから、それを一言で言い表すとプロブレムになるわけです。だからアセスメントが書けたなら、もうプロブレムも出来たようなものなのです。

 いや、もっと正確にいうと、SOAPはプロブレムごとに書いていくものですから、(S)や(O)をプロブレムごとに分けた時点で、既に頭の中にはプロブレムは出来上がっているんですよ。そうですよね。そうじゃなきゃプロブレムごとに分けられるはずがありません。で、「なぜそのように分けたのか、そのときどう考えてそのように分けたか。」をそのまま書けばそれが「アセスメント」なわけです。

 どうですか?以外に簡単そうな気がしてきましたか?そう。その調子です。

 次回はいよいよ最後の(P)です。そしてお待ちかねのSOAPの分析練習は、その次になります。どうぞお楽しみに!

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7.SOAP形式を考える(3)

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7−1.P(Plan)について

 プラン。文字通り計画のことです。(A)まで書けていれば、これは簡単でしょう。いや、実際はここがケアのメインなんですから、本当は簡単なわけはないのです。でも、これはもうPOSの話ではなくて、医療としての本質的部分の話になりますので、ここでは深入りしないでおきましょう。しかし、POSはあくまで良いケアを求めていくための手段、方法論ですから、POSを使いこなせるようになった上で、「どうケアしていくか」(つまりプランですよね。)を考えていくのが最終目的です。ここを間違えると手段と目的がごっちゃになってしまい、本末転倒になってしまいます。

 「POSがむづかしい。」とか、「話はわかるんだけど、実際に応用することがうまく出来ない。」とおっしゃる方のお話を聞いていると、ここを勘違いしてしまっていることが多いようです。POS論のためのPOS論であったり、SOAP論のためのSOAP論に忙しく、肝心の「どうケアするか」が置き去りにされている様な気がします。

7−2.実は(P)は2種類あります。まずは文字通りの初期計画

 ここがちょっとややこしいところです。また、人によって多少意見の違いがあるところでもあります。実際どうやっていくかはまだ定説がありませんので、現場に即してやりやすい方法でやっていただければ良いと思います。

 1種類目は文字通りの初期計画です。「これから何をケアしていくか、どうしていくか」を計画していくことです。まさしくプランそのものですね。例えば、「こういった副作用が考えられるので、注意深くモニタリングしていく。」とか、「(今回はこういう話題になったので、)次回はこういったあたりをインタビューしてみたい。」とか、これから先に向かってどうしていこうということをプランニングしていきます。これはわかりやすいですよね。そして、POSを取り入れた効果が表われやすい場面でもあります。ケアの方向性だけでなく、今後どうしていこうという部分まで計画を立てていけば、ケアが継続していき、ムダを省いた効果的なケアが実現できることになります。

7−3.もう一つのプランって何でしょう。

 さて問題はもう1つのプランです。「もう一つのプランって何だろう?」と考える前に、医療という全体の流れの中で、診療記録はどういう場面で書かれているかを考えてみいたいと思います。

 まずはドクターの場合です。外来の診察は、大抵机の上にカルテを広げて、カルテに記入しながら問診などの診察を進めていくでしょう。つまり、実際の診療と同時進行で診療記録が書かれていきます。この場合、プランはすべて本当のプランであり、プランが書かれると同時に実際に診療行為が行われることになります。

 では、入院患者の場合はどうでしょうね。私はあまり詳しくないのですが、回診のときにベッドサイドでカルテを書いているドクターもいらっしゃるでしょうが、ぞろぞろ連れて歩いている看護婦さんに口頭で指示を出し、その場ではあまり書いていないのではないでしょうか?

 看護婦さんたちのPOSはどうなんでしょう。ナースコールで呼ばれたときや、点滴や注射のためにベッドサイドに来るときに、看護記録を持ってくることは少ないのではないでしょうか?

 そして、我々薬剤師の場合。病棟業務では、薬歴は持っては行くでしょうが、その場でSOAPを書いてしまうことは少ないのではないですか?また、開局薬剤師の場合も、患者さんとお話して、患者さんが帰られた後に薬歴を書くと思います。(現実には夕方まとめて書いていますよですって?ま、それは聞かなかったことにしましょう。どんなに忙しいからといって、何を言ったか、どういうケアをしたかを、きちんと覚えていられるのはせいぜい5〜6人でしょう。薬歴はその場で書く。これが基本です。薬歴を書き終わるまでがその患者さんのケアであると考えてください。)

7−4.もう一つのプランは「既に行ったこと」

 いろいろな診療記録のケースを考えてみましたが、診療行為は既に終わってから記録を書くケースが結構あるんですよね。その場合、この(P)に書かれることは、「既に行ったこと」になるはずです。つまり(P)は、「こう計画して(実施した。)」ことを書くことになるわけです。

 アセスメント(A)は、「(S)や(O)からどう考え、どう判断したか。」を「そのまま書く」んでしたよね。その流れからいくと当然(P)は、「その結果こう計画して(実施した。)」ことになるはずだと思うのです。

 その前提条件としては、(P)に書いたことは必ず実施する(あるいはされている)ことが必要です。この条件さえ守っていれば、私はこの考え方の方が、その場のケアを実態に近く記録できると思います。そしてもう一つ。約束事として、「次のケアの時に、前回のフォローを必ずする。」ことをお願いします。やりっぱなし、説明のしっぱなしでは、ケアとは言えないからです。

7−5.次に実施して欲しいことは、四角く囲んでいます。

 薬剤師の場合は、次も同じ薬剤師が担当するとは限らないことがあります。開局薬剤師の場合は特にそうでしょう。すると、次の回でやって欲しいこと(つまり、本来の意味の次回の計画ですね。)をきちんと伝える必要があります。私のところでは、次にやって欲しいことを四角く囲んで、(P)の最後に書くことにしています。既にやったこととこれからやって欲しいことが一目でわかります。それに目立つので、次に薬歴を見る人への注意を促す意味もあります。

 別にそうしなければいけないものではないので、何か現場でわかりやすい区別を付ければ良いと思います。

7−6.既に実施したケアを(O)に書く考え方もあります。

 早川先生の「使いやすいPOS」を読まれた方はご存じでしょうが、早川先生のところでは、実施したことは(O)に書くことにしているようです。これもすっきりした考え方で、私は良いと思います。病院薬剤師で「薬学ケア」が中心の場合は、この方がいいのかもしれません。情報が足りないと思えば、もう一度ベッドサイドに行って患者さんにお聞きすることも出来るし、カルテを見たり、必要ならドクターと話すことも出来ます。情報をきっちり集めてからアセスメント出来るので、自分達が行ったケアも客観的な事実の一部として扱えるでしょう。そしてそれらすべての情報から、今後どうケアしていくかを計画するわけです。

 開局薬剤師の場合は、少し状況が違います。患者さんとは二週間に一度位の割合で、わずか2〜3分会えるだけです。次回来るときは、薬識が大きく変わっている可能性もあります。今回のケアの結果は二週間後に新たな(S)や(O)として情報収集して、その場で考え、やったことを(A)と(P)に書いて次につなげた方が、実際に行っていることに近い記録になると思うのです。(S)や(O)からアセスメントして「何かした」わけで、その「何かした」ことを(O)情報に入れて、それも含めてアセスメントするわけではないからです。

 以上の考えから、私は「既に実施したことは(P)に書く。」でいきます。そして次回にやって欲しいことは、(P)の最後に四角く囲んで書く。今回やったことのフォローを次に時に必ずする。これを約束事とします。皆さんは現場に即したやりやすい方でやってください。どちらでもかまわないと思います。

 一応一通りSOAPについて見てみました。次は、SOAP分析の練習方法をお話します。お楽しみに!

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8.SOAP分析の練習

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8−1.その名はソープ遊び

 えっえ!?ソッ、ソープ遊びですか?そうなんです。でも、これは私が考えたわけではありません。山下徹先生の「初心者のためのPOSワークブック」に書いてある練習方法です。この本を読んだ方はもうやってみたかもしれませんね。私達もPOSに取り組み初めたときは、なかなか実際の薬歴をSOAP形式で書くことが出来ず、苦労していました。そのときこのソープ遊びをやってみたら、それまでうまく書けなくて暗澹たる気分だったのが、書けそうな気がしてきて何だか晴れやかな気分になってきたものです。ぜひ実際にやってみることをおすすめします。

8−2.ソープ遊びのやり方

 それでは、本を持っていない方のために、実際のやり方を説明することにしましょう。  説明してしまうとものすごく簡単なのですが、

  「日常生活の中での出来事を取り上げ、SOAPに分析して実際に書いてみる。」

というだけのことです。ここではとりあえず、プロブレムは無くて構いません。ただし、後程詳しく説明しますが、何を(どういうふうに)プロブレムとするかで、分析結果は異なってきます。(S)と(O)が入れ替わったり、(A)と(P)が違ってきたりします。そのあたりのセンスも、この練習で学びとって下さい。

 一目瞭然、とりあえず例をいくつか挙げてみましょう。

(例1)

(S)隣の犬の鳴き声がうるさい。
(O)覗いてみたら鎖が足にからまっているようだ。
(A)取ってあげれば泣き止むだろう。
(P)隣に行って、からまった鎖を解いて上げよう。

 どうですか?なあ〜んだ。こんなことかって?その調子その調子。もう少しやってみましょう。

(例2)

(S)子供が泣きながら帰ってきた。
(O)膝を擦りむいたようだ。血が出ている。
(A)転んだのかしら、それとも喧嘩かな?
(P)
  Rx:とにかく傷の手当てをしてあげなきゃ。
  Dx:何があったか良く聞いてみよう。
  Ex:もう大丈夫だから泣かなくていいと話して、安心させてあげよう。

   * Rx=治療計画,Dx=診断計画,Ex=教育計画

 これは(P)を3つの要素に分けて書いてみた例です。むづかしい本を読むといろいろなことが書いてあると思います。3つの要素に分けて書く書き方もそんな中の一つですが、内容的に分けた方がわかりやすいときは分ければいいし、そうでなければ無理に分ける必要はありません。「分けなきゃ」と思って悩んでしまうよりは、そんなこと気にしないでどんどん書いてみる方が良いですね。

 この例の場合は、やるべきことがいくつか有るので分けてみました。この順番はもちろん変えても構いません。まずやるべきことから書いてみましょう。この場合は、まずは傷の手当てをしてから(実際には、手当てをしながらでしょうね。)話を聞いてみるということです。

 もう一つやってみましょうか。

(例3)

(S)渋滞で車がほとんど動かない。
(O)待合せの時間まであと30分だ。ずいぶん先までびっしり並んでいる。
(A)このまま並んでいたのでは約束に遅れるだろう。
(P)まず、携帯に連絡を入れて、抜け道を探して行こう。

 いかがですか?以外に簡単でしょ?1日5〜6個で1週間。実際にやってみてください。分析するコツはつかめてくるはずです。

8−3.実際にソープ遊びをやってみましょう

 どんな状態で練習してもいいのですが、やはり何人かで一緒にやってみて、皆でオーディットしあうのが一番勉強になります。オーディットなんてむづかしいことを言わなくても、皆で見せあって「これでいいかなあ・・」とやり合えば良いのです。あるいは、身近に添削してもらえるような先輩がいれば、それはとても幸せな方です。何れにしろ、自分以外の誰かに読んでもらうことが必要です。なぜなら、自分で考え出した例なので、自分の頭の中ではどういうシテュエーションなのかよくわかっているわけです。そうすると、SOAP分析に抜けているところや不自然なところがあっても、自分では気がつけないことがあるからです。ぜひ仲間を見つけてください。そして一緒にPOSに取り組んでみてください。

 やってみるのは良いけれど、やはりやりっぱなしでは効率良く分析方法を身につけることはできません。いろいろ注意点もあります。そこで、私のところで実際にやってみたSOAP遊びの実例を取り上げて、それに私がどう添削を入れたかをご覧いただきたいと思います。きっと参考にしていただけると思います。

今日はここまで。実例は次回からのお楽しみということにします。

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