Alternative Views》 2001年12月14日、2002年3月5日

W一族にさよならを

フォントや文字符号化方法に関する話題を記した文章の中では、いわゆる“78JIS”に対する“83JIS”を“新JIS”と呼ぶことがあったり、JIS X 0208に対するJIS X 0213を“新JIS”と呼ことがあったりします。ここでは、JIS X 0213:2000の案が公開され、その後制定・告示された頃を“新JIS漢字時代の黎明期”と呼び、その時期の事柄を記録しておこうと思います。

基礎知識

W一族の秘密

新JIS漢字時代の黎明期の初期に、W1某という“フリーフォント”が配布されていました。このW1某は、私の知る限り、新JIS漢字時代の黎明期に、某陀多フォント、明某2000フォント、某そ字フォント等、そのデータを受け継ぐ“フリーフォント”を生み出しています。

TrueTypeフォントエディタのTTEditを用いてW一族を大雑把に調査した結果、W一族には、ある性向があることが判ってきました。

JIS X 0208と0212の字形データを実装している、かなりポピュラーなフォントのことを、ここではMと呼ぶことにします。WとMを比較した結果、次のような字形データが数多く見られたのです。(下図は、説明のため、拡張Watanabe明朝の「改」のデータを用いて新たに作成したものです。)

複製データ
MW
Mの Wの
改変データ(一部点画の形状変更)
MW
Mの Wの
改変データ(偏と旁の位置を変更)
MW
Mの Wの
改変データ(部分字体あるいは点画の変形)
MW
Mの Wの
Wの

W1某は、少なくとも私の印象では、0212にある0213字形データについてはそのまま複写したり改変して複写したりしたデータを用い、0212にない0213字形データについても0212や0208にある部分字体のデータをそのまま複写したり改変して複写したりしたデータによって生成しているフォントだったのです。

また、例えば平仮名や片仮名について《「め」が90%縮小である以外は大半がMのデータを80%縮小したのみであり一部の字体のみ更に点画の変形をほどこしている》というW1某の特徴を某陀多フォントと某そ字フォントがそのまま受け継いでおり、明某2000フォントは《ラスター化した結果がMと殆ど全く見分けがつかないけれども制御点の位置が微妙に異なるよう調整されている》といった“進化”を遂げていることや、改変データ(一部点画の変形)になっている漢字字体のうち明某2000フォントと某そ字フォントがW1某の字形を変更無く受け継いでいるものでも某陀多フォントでは変形量が増やされているなどの“進化”を遂げていることなども判っています。

W一族にさよならを

黎明期には、電子漢字字典の制作や表示環境の制作などを助けるために、エンコーディングを変更したコピーフォントを内緒で制作してしまうこともあるでしょう。制作チーム内のみで利用する限り、黙認されることかもしれません。けれども、《アクセス制限も設けない状態のhttpサーバで自動公衆送信可能化する》とか《コピーであることが簡単には露呈しないよう変造した上で配布する》となると、話は異なります。

MacOS X 10.1のヒラギノフォントがJIS X 0213をフルサポートしており、またリコーの新JISフォントが発売されるなど、もはや新JIS漢字の黎明期は終わりを告げ、本格的な夜明けを迎えました。今後、W一族が流通しないことと、W一族からの派生フォントがあったならそれもまた流通しないこと、そしてW一族からの新しい派生フォントが誕生しないことを、私は強く望みます。


内田明
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