Alternative Views》 2001年1月7日

2001年のKandata補完計画におけるラテン文字類の扱いについて

内田明 <uchida@happy.email.ne.jp>

ラテンアルファベットやラテン文字系記述記号等に属する文字のうち, 普通の日本語テキストに最も多く出現するのは, カンマやピリオド, 括弧の類や, アラビア数字等であり, 次に多いのが基本ラテン文字の大文字だ! ――と言い切ってしまっても, まず間違いではないでしょう。

こうした事情があるため, 漢字仮名交じりであることに加えてラテン文字等も用いて記された日本語テキストは, たいがい, ラテン文字のキャップハイト (大文字の背丈) を漢字や仮名の字面に合わせて, ディセンダ (yやpなどに見られる, 下方への突き出し) を下に出っ張らせた組み方がされます。

JIS X 0213:2000には, アクセント記号のついた拡張ラテン文字が含まれており, 「東京」「京都」「大阪」等を訓令式ローマ字で綴る場合に便利だったり, フランス語やドイツ語の引用などに便利だったりします。この拡張ラテン文字は, Shift_JISX0213等の符号化方法では8ビット2バイトで表される「2バイト英数」文字ですが, 重複符号化を避けるために「fullwidth letter」と称さざるを得ない「2バイト英数」文字とは異なり, 国際符号化文字集合の拡張ラテン文字に対応する文字 (つまり「1バイト英数」の仲間) だと定められています。

Kandata reform projectでは, 拡張ラテン文字に限らず, JIS X 0213が「国際整合性」を要求しているラテン文字類については, テキストとして組まれた際にラテン文字列らしい振る舞いになるよう設計し直すことを考えています。

その近道として, 既存のラテン文字集合用書体の利用を勧めてくださる方もいらっしゃいますので, その勧めに従うのか, 従わないのか, といったことを記しておきます。

欧米系の言語を自然に美しく表示できるようなラテン文字の書体をそのままの形で日本語用の文字集合の書体として流用する場合, 次の2通りの方法で対処することが考えられます。1つは, 何も考えず, 同じサイズの書体を組み込んでしまうやり方。もう1つは, 漢字や仮名の字面がラテン文字書体のキャップハイトに合うよう, 漢字や仮名の高さのみを小さくするか全体を小さくするかした上で仮想ボディーの上部に寄せるやり方です。

この短文の冒頭に記したように, 記述記号や数字等の扱いを考えれば, 最初の方法で作ったフォントで組まれた和欧混交テキストが美しく見えるとは, とうてい考えられません。

2番目のやり方で作ったフォントならば, 伝統的印刷物と同様のバランスを保っているように見えるレンダリング結果を得ることができるだろうと, 一見, 思われます。けれども, 例えば「“16ポイントのフォント”に含まれる漢字や仮名の字面が9ポイント程度だ」といった事態は, 「行間や字間がまともに制御できない」といった不具合を生じせしめてしまうでしょう。

やはり, “伝統的印刷物と同様の美しさ”を欲するのであれば, 1つのフォントで何もかもを賄うのではなく, 伝統的印刷物がそうしているように, 和文のレンダリングには和文用に設計された書体を用い, 欧文のレンダリングには欧文用に設計された書体を用いるという, 混用をするべきなのです。

利用を勧めてくださるラテン文字集合用書体のデザインが, 例えばJIS X 9052-1983『ドットプリンタ用24ドット字形』が示しているような“和文従属型”であるならば, 若干話が異なります。“伝統的印刷物と同様の美しさ”を得ることはできないでしょうけれど, プロポーショナルピッチとすることや漢字・仮名類とのバランスの取り方等によって, ラテン文字列として不自然でないようにすることは可能なはずです。

Kandata reform projectは, ラテン文字について, 既存の“ラテン系”ラテン文字集合用書体の安易な流用を, 行いません。