評価  ☆☆☆
                                   感動  ☆☆
                                   面白さ ☆☆
風神秘抄  荻原規子   徳間書店
                            2005.5   
入りきれなかったファンタジー世界

お話

坂東武者の家に生まれた主人公の草十郎は平治の乱に源氏の義平の配下として参加するが、平氏に敗れ、義平は六条河原で斬首される。そこで、草十郎は熊野の巫女、糸世の舞を見て、自分の笛と合わせる。その糸世の舞と草十郎の笛が合う時に不思議な大きい力が生じる。
 ふつうの歴史小説のような物語の進展に途中から大きい変化が現れる。草十郎が鳥彦王という烏と口をきいたり、糸世の舞と共に笛を吹くことによって天界の花が降ったり、人の運命を変えたり、不思議な力を発揮する。つまり、歴史小説ではなくファンタジーであることが明らかになってくる。

評価

 熱狂的な荻原ファンには全く気にならないらしいが、物語の展開にかなりの違和感をどうしても感じてしまう。
 その一つは、きわめて現代的な口調の会話だ。「サボル」「やばい」などの言葉はもとより、感覚的に当時の時代の物語とは感じ取れない会話が続き興趣をそぐ。
 次に鳥彦王との関係である。鳥の王としての力を使えばどんなことでも(世界を支配することも)できるということだが、じっさいにしたことはスパイ行為、人間では行けないところへ飛んでいき、見てきたことを伝える。今ひとつは、多くの鳥の攻撃で敵の人間を殺すこともできるということだ。しかし、何でもできるというわりにスケールが小さくちまちました感じがしてすごいなと感じ入るほどではない。まあ、味方にすれば便利だなという程度である。
 それよりも、鳥彦王との会話が何か不自然でわざとらしくすっと入ってこない。
 最大の問題は糸世の舞と笛を合わせて人の運命を変えるというところである。
 一心に笛を吹き舞うことによって、天界の花が降り、人の運命が変わる。しかし、自分でコントロールできないのに、どうして人の命を救ったり、人の寿命を縮めたり伸ばしたりできるのか。上皇の寿命の操作については作者のご都合主義で読者を納得させるリアリティはない。
 また、他の次元に消えた糸世を救い出すための方策も無理矢理こじつけたような感じがしてならない。糸世は飛ばされた異界で四六時中舞ながら草十郎の笛を待っていたのだろうか。なぜこんなに都合よく合うのだろうか。どうしても疑問に思ってしまう。
 熱狂的なファン以外は違和感を持ってしまう作品かどうか知りたいところだ。残念ながらわたしはこのファンタジー世界に入りきれなかった読者であるが、冷静な第三者の感想を聞いてみたいと思う。

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