評価 ☆☆☆
面白さ ☆☆☆
感動 ☆☆☆ |
そして、カエルはとぶ 広瀬寿子 渡辺洋二画
国土社 2002.12.10 初版 |
大自然の中で解消された悩み |
お話
弟の良は小さいとき、難しい病気にかかって入院ばかりしている。
ぼくはいつも「おにいちゃんだから良もがんばってきたんだから」と我慢させられる。しかし、お母さんは良には親切にしても、ぼくの相手なんかしてくれない。
良が一年生になるとき、もうランドセルは売っていなかった。ぼくが自分のを良にやろうとしていると、お母さんがやっと軽いランドセルを見つけたといってかえってきた。もう、ぼくのランドセルなんか誰も見向きもしなかった。
ぼくはついに切れて何もかも投げ出し登校拒否になる。
夏休みになり、ぼくは山の中の一軒家に住むおばさんの家に行くことになる。
何日かして父さん、母さん、良も来ることになり、途中まで迎えに行く。上から見ると、大きい山に比べて父さんたちはなんて小さいんだろうと思う。
父さんと、ぼくと良が先に帰ることになり、途中まで行くと土砂で車が動かなくなり、父さんが助けを求めて出て行き、ぼくと良が車に残った。
良が持っていたカエルを逃がしてやる。じっとしている帰るにぼくと良は「飛べ!」という。カエルはひと飛びして逃げていった。 |
評価・感想
体が弱くて入院ばかりしている弟を持ち、なかなか両親に振り向いてもらえない小学2年生のぼくが主人公の物語である。
主人公が3.4歳で新しく弟か妹が生まれるときの混乱を描いた作品はこれまでにも多い。しかし、ありそうで主人公が小学生になっているという設定は案外少ないと思う。
両親(特に母親の)の愛情、関心が常に病弱な弟に注がれ、無視され続けていると思う主人公の気持ちはよく描けていると思うし、よく伝わってくる。なんだか恋人に振り向いてもらえない若者のやるせなさに似ている。その意味ではこの主人公のナイーブな感受性を描ききった点においては成功しているというべきだろうか。
しかし、その爆発した気持ちの解決が、山の中の一軒家のおばさんの家へいき、大自然の大きさに触れる、知ることによって解決するというのはあまりにも安易ではないだろうか。
・なんて大きいんだろう。なんて良は小さいんだろう。この山の中ではぼくだって小さい。
また。表題の「そして、カエルはとぶ」に対応した形で、最後にカエルを逃がしてやる場面。最初に病院にカエルを持って行き良を驚かすシーン、友達にカエルとあだ名を付けられるなどの伏線を張っているのだが、この作品のテーマにはあっていず、違和感が残る。 ・「そしてカエルはとぶ」のしなやかな完成あふれる文章と作品世界。
という、木暮正夫氏の評は褒めすぎの感じがする。
文学作品は人間、社会を描くものであり、確かにこの作品は子どもの心理、状況を描いた側面を持っているが、これを課題図書として子どもに勧めるとなるといささか寂しい気がする。児童文学が描くにしてはあまりにもちまちまとしたテーマであるからだ。しかし、このような作品が書かれるということは現在進行している少子化と大いに関係がありそうだ。現在の一子か、二子の家庭が多い現在でこそ出現した作品であろう。3人以上の兄弟がいる子どもたちには想像できない気持ちであり現象であるかもしれない。

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