感想・評価
「この世の中が嫌い」だから生まれてこない胎児を何とかして説得しようと主人公の少女がボーイフレンドと奮闘するというユニークなストーリーである。また、胎児の「世の中が嫌い」という理由が「この世界では子どもがひどい扱いを受けているから」というもので現代社会の問題を取り上げている。
主人公のフランチェスカが協力を求める人物も結構ユニークで面白い。役に立たない発明ばかりしているおじさん、公園で会った頼りない魔女、みどりいろの肌の少年。それぞれ読者を面白がらせる小道具を豊富なアイデアで想像し読者を楽しませてくれる。このユニークでアイデアに満ちた社会風刺がテーマのこの作品は児童文学として高く評価できるのであろうか。以下、作品の構成から考察してみたい。
まず、胎児がすでにこの世に生まれて生活している姉のフランチェスかより、「世の中の子どもに対する扱い」などについてもよく知っているという不自然さは作者の懸命な理由付けを評価してよしとしよう。
フランチェスカとボーイフレンドのディゴはまず魔女に助言を求める。魔女が二人にしてくれたことは @ 昔似たことがあったか例を調べる。 A 胎児が生まれるための薬を調合する。の2点であった。発明狂のおじさんがしてくれたことは @ マタニティ電話を作る。A 物語テレビを見せる。の2点だった。
胎児がみどりの肌の子どものいうことなら聞くかもしれないといったみどりいろの少年サンドラは結局すぐ見つかったものの何の役にも立たなかった。
そして、ラストに胎児は生まれてくるわけだがその理由はふたつ考えられる。一つはフランチェスかが「生まれてくる来るのは赤ん坊の義務なの。この世の中が好きでなくとも、変えるために努力すればいいのよ」といったこと。ふたつ目は魔女が調合した薬をママのベッドの下に置いたから。どちらが決定的なものであったかは作者は書いていない。この結果から考えると、この物語の始めからのストーリーは結末の胎児が生まれてくることになった理由、動機にはほとんど結びついていないことがわかる。
仮に、魔女の薬にその効果があったとすると、フランチェスカとディエゴは偶然公園であった魔女に薬を作ってもらい、ママのベッドの下に置いたので弟が生まれたということになり、全く陳腐な物語になってしまう。この一連のストーリーの中でフランチェスカもディエゴも全く変わっていないし、胎児がだから生まれようと決心した動機も見つからない。もし、フランチェスかがいった「生まれてくるのは赤ん坊の義務なの」ということばが胎児を変えたのだとするとストーリーとは全く関連のない突発的にフランチェスかが口にした生のことばであり、物語の流れの中で生まれてきた結果ではないことになる。
また、物語の中の三つの挿話は無理やりはめ込んだ作者のお説教、説明であり、現代の問題点を提起したものだろうが作品の構成をアンバランスにしているといわざるを得ない。また、みどりの肌の子どもサンドラもこの世にありえないめずらしい存在であるはずなのに、フランチェスカがちょっと外に出るだけですぐに見つかるというご都合主義で、物語の解決に何の関係もなかった。これは作者の計算ミスではないか。
以上の観点から「ぼく、ママのおなかにいたいの・・・」は社会問題を提起した…生のままで出ていて風刺にまでなっていないが…が、構成は粗雑で完成度は低く文学作品としては高い評価を与えることはできないと考える。ただ、一つ一つのエピソードなどはユニークさ、読者が面白く読めるアイデアが多数あり、読める作品にはなっていると思う。

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