評価  ☆☆☆
感動  ☆☆☆
面白さ ☆☆☆
そして五人はいなくなる      はやみね かおる           講談社青い鳥文庫
                                                 1994年初版

なつかしの名探偵登場

お話

ある日、亜衣、真衣、美衣の三つ子姉妹の隣に夢水清志郎という自称名探偵が引っ越してくる。清志郎はわすれっぽくて、
ものぐさで名探偵とは信じられない。
ある日、三姉妹は清志郎と最近できたオムラ・アミューズメント・パークへ行き、伯爵と称する怪人が空中で一人の少女を
消し去るのを目撃する。少女は天才といわれたピアノの名手で近く世界的なコンクールに出場することになっていた。
伯爵はその後続けて多くの観衆の目の前で天才と呼ばれる少年少女を誘拐する。
清志郎と三姉妹は犯人の伯爵の正体を探ろうとするが………


評価・感想


 今では年老いた且つての少年少女が熱狂した、江戸川乱歩の名探偵明智小五郎と少年探偵対怪人二十面相が死闘を繰り広げたシリーズの世界が甦った感じがする。作者はあとがきで「作者としては古きよき時代の本格探偵小説になったのではないかと思います」と、述べている。

 この場合の本格探偵小説の定義についてはあまり厳格に考えないで@名探偵が出て来る。Aふしぎな事件が起こる。B名探偵が事件のなぞを論理的に解明し、真犯人を推理し事件を解決する。といった程度に考えておけばいいだろう。江戸川乱歩はこれにおどろおどろとした雰囲気を加味することによって人気を博した。テレビもやっと普及し始めたばかり、マンガ、アニメも今のように進歩していず、テレビゲームもなかった時代の子どもたちが熱狂したわけである。

 ところで「そして五人がいなくなる」において、さしずめ明智小五郎役には夢水清志郎、小林少年をリーダーとする少年探偵団には「亜衣」「真衣」「美衣」の三つ子姉妹、怪人二十面相には伯爵と呼ばれる犯人ということになる。

 事件は三姉妹の隣に越してきた一見頼りない名探偵の夢水清志郎が三姉妹といっしょに行った巨大オムラ・アミューズメント・パークで、目の前で奇怪なピエロが美しい少女を空中で消し去り、誘拐するというところから始まる。その後、伯爵と自称する犯人は予告の上同じオムラ・アミューズメント・パークで三人の天才少年少女を誘拐する。一人は猛スピードで疾走するジェットコースターの上で、ひとりは入り口と出口を見張られているミラーハウスの中から、最後の一人は他に出口のない蝋人形館から。清四郎、警察はオムラアミューズメントの小村社長の協力も得て捜査するが少年たちの行方も犯人もわからない。

 推理小説の好きな私は、犯人も、おもなトリックもかなり早い段階でわかったが、いくつか疑問が残った。その一つは第一の犯行で使った鏡をいつ、どのように回収したかということ、ふたつ目はジェットコースターのトリックは一応の説明はつけても、とても実現不可能に思えること、三つ目は犯人が双子であったということ、冒頭に三つ子姉妹の登場は双子もありという作者のサインだったかもしれないが。四つ目はオムラ・アミューズメント・パークの場所がかなり交通が不便なところでとても採算が取れるほど集客ができないところに設定していること。それ以外には伯爵ということばは死語に近く現代の子どもたちにはその意味はわからないだろうと思われる。

 最後に、この犯罪の動機であるが、毎日練習に次ぐ練習で普通の子供たちと同じようにともだちと遊んだり、長電話をしたりしたいという天才児たちに夏休みをプレゼントしたいということだが、この発想にも疑問が残る。塾やお稽古事に行きたくもないのに行かされる多くの子供たちは確かにそう感じる子どもの方が多いことは間違いないだろう。しかし、ここに登場する子供たちはその世界で才能を発揮し、すでにその道の頂点にも立とうとしている子供たちである。ここまで来れば、すでにその道を極めることが生きがいになっているはずだし、一ヶ月近くもそれから離れること自体が苦痛で耐えられないものになっていると考える方が自然だと思う。その意味で、たとえ、心の片隅にそのような願望があったにしろ、自ら進んでそのような行動をとるとは信じがたいし、そのブランクの後、国際コンクールで優勝するなどそれ以上に信じがたい。大人の推理小説でも、この動機の部分はややもすればいい加減で納得できないものが多く児童向けの推理小説のみが当てはまることでもないが。

 以上の問題点があるとはいえ、本格探偵小説の要素を持った作品は書かれてよいし、子どもたちにももっと読まれればよいと思う。