(2)学校の設置条件
現在、学校設置の施設面での基準は高い。施設は充実しているほどよいが、教育にとって施設は条件の一つにすぎない。新規参入を妨げる条件として働くなら、教育全体としては、柔軟性を失わせる。
基準通りに土地と校舎を揃えるのに、都市部なら数十億円、都会でなら百億円単位の資金を必要とする。これが教育に対する意欲、識見ある人たちの参入をほとんど不可能なものにしてきた。
教育を行うための施設面での最低条件は、吉田松陰の松下村塾程度であろう。松下村塾は、庭付きの民家一軒である。
法令から見ると、学校教育法第3条(学校の設置基準)は文部科学大臣が基準を定めるとする。
学校教育法施行規則における設置基準は、第1条(学校の施設設備と位置)が基本を示し、第16条(小学校)と51条(中学校)が「別にこれを定める」とする。この内容は長らく具体的に示さなかったが、平成14年に小学校設置基準、中学校設置基準(省令)として登場した。
私立学校法第25条は、「私立学校の経営に必要な施設及び設備についての基準は、別に法律で定めるところによる」としているが、この法律は未制定である。
しかし、これまでも実質的には設置基準があった。公立学校施設建設にあたって補助金が下りるので、その基準がそのまま現実的な学校施設基準となっていた。「義務教育諸学校施設費国庫負担法」とその施行令に定められた詳細が、現実の設置基準であった。
なお、設置基準は、新規参入を阻むためにあるのではないと理解すべきである。国際人権A規約(社会権規約)第13条第4項
「この条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。 .....」
この条文は、最低基準への適合が必要としているが、基準は設置を妨げるためにあるのではないとする。基準を満たすことが困難な団体に対しては、補助金、税制、借用の斡旋等で援助すべきである。
子どもの権利条約29条2項にも同様の条文がある。
設置条件を施設面で緩やかにすることで、長期的には、小さな学校がたくさんできることが期待できる。通学可能な範囲に学校が多いほど、選択の可能性は大きくなる。学校が小さいことによって生まれる共同体意識、民主的自治の容易さは、教育にとって重要な条件である。小さな学校であるゆえの長所も多く、小さな学校も、それ自体が追求する価値のあるものである。
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