議論経過
国家統制と市場競争原理を排すること
「教育への権利」を盛り込むこと


 教育の多様性の会では、教育基本法改正に関して、さまざま議論を積み重ねてきました。その経過を紹介します。

1 小貫大輔、独自案提出を提唱


 
 2002年7月13日、「ピポップ・ドンチャイ氏を囲む集い」で、小貫大輔は日本の教育事情に触れ、

「世界人権宣言26条では、親が子どもに与える教育を選ぶ権利が保障されている。これは、基本的人権なんです」

「教育基本法第十条は、『教育は不当な支配に服することなく、国民全体に直接に責任を取る』となっている」
 小貫大輔は、「中教審が教育基本法改正を言っているが、我々も独自案を作って論議を巻き起こして行かないか」と提案。

これに対し、席上からは、
「文科省と同じ土俵の上にあがると、かえって利用されてしまわないか」
という懸念の意見も出された。


2 教育は誰に責任を取るのか
 
 
--- 第10条を巡る論議 ---
第10条
教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。

7月16日、diversity ML に小貫大輔は、第10条の改正案を投稿

(教育行政)
第10条(案) 教育は、政治権力や市場の競争原理の不当な支配に服することなく、市民一人一人に対し直接に責任を負って行われるべきものである。


 今日の教育は、文部科学省の官僚支配下に入っているので、それを明確にしようとした。
 また、「国民全体に対して」なんて言っているから、朝鮮学校やインターナショナル・スクールの利害を言うことができない。

これに応え、佐藤雅史は第10条の別案を提出
 この表現だと、この責任がどんな責任なのか、あいまいだと思います。やるなら徹底的に、こうしたらどうでしょう。

 
(教育行政)
第10条(案) 教育は、それを為そうとする教育者とそれを必要とする保護者との合意によって為されるものであり、行政はその合意において、その教育の実現に責任をもつものとする。また行政は、政治的利害関係や市場の競争原理からこのような合意に基づく教育を保護する責を負うものとする。


いっぽう、古山明男は、7月18日に教育の独立のための別な案を提出
(教育行政)
第10条(案) 教育行政は、いかなる行政機関からも独立して行われる。
こどもの教育への権利を保障するために、保護者と子どもは教育運営に直接参加できる。


古山明男は、9月18日に中教審に送信した「不登校問題と教育基本法第10条について」の中で、
(教育行政)
第10条(案) 教育は、不当な支配に服することなく、国民一人一人に対し直接に責任を負って行われるべきものである。


と、「全体」を「一人一人」とのみ変更する案を出した。これは、中教審への問題提起をとして、単純化するためである。



3 教育を選ぶ権利をどう保障するか

 --- 入れるなら、第3条しかないか ---

(教育の機会均等)
第3条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

2 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって就学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。


7月16日、diversity ML に小貫大輔は、第3条の改正案を投稿
(教育の機会均等および教育の自由の保障
第3条 すべて日本の市民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与え られなければならないものであって、人種、国籍、宗教、信条、性別、社会的身分、 経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

2 すべて日本の市民は、自己の信念に従って、その保護する子女の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有する。


3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって就学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。


 2003年2月9日に小貫大輔と古山明男は会って話し合い、<教育の多様性の会>で出す教育基本法改正案が、中教審案で改正することに利用される危険について話した。

 小貫大輔意見
・教育の基本的な問題が盛り上がっている今こそ、「教育への権利」を主張しなければならない。日本の現状はひどいもので、黙っているべきではない。
・長期的に主張を続けるべき事柄であり、ここでも筋を通すことが大切だ。
・今まで、教育基本法改正反対の人たちに会ったときも、立場をきちんと説明すれば簡単に諒解してもらえた。
・「多様性の会」は、大勢の中では数の内に入っていないから、影響力を心配することはないだろう。

 古山明男の意見
・中教審案に反対であることを、独自の案と切り離し、前面に出して主張する。
・会の基本的な立場をはっきりさせ、中教審案反対と、独自案があることが当然に理解できるようにする。
・「多様性の会」の改正案は、権利問題に関わるものだけにする。
・中教審案に反対する団体に、十分な説明をする。

 これをうけ、両者は、改正案を投稿した。


2003年2月13日、小貫大輔は、第3,4条の改正案を投稿 
第3条(教育への権利)
 すべて人は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、国籍、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

2 人が自らの思想及び良心に基づいて、自らの又はその保護する子女の教育の種類を選ぶ自由は、これを侵してはならない。

3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって就学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。

第4条(義務教育)
国民は、その保護する子女に、9年の普通教育を受けさせる義務を負う。

2 義務教育は、これを無償とする。

3 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。

2003年2月14日、古山明男は、第3、4,6条の改正案を投稿
第3条(教育への権利)
 すべて人は、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、国籍、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
(第1項から「ひとしく」を削除しました。意味不明かつ画一性の原因です)

2 人が自らの思想及び良心に基づいて、自らの又はその保護する子女の教育の種類を選ぶ自由は、これを侵してはならない。 
(第2項は上の小貫案に同じ)

3 すべての人の教育を受ける権利を実現するため、個人及び団体は、その教育哲学に基づいて教育を提供する自由を有する。
(教育を選ぶ自由は、教育を作る自由とセットになっていないと、現実的に有効なものになりません。逆に作る自由は、選ぶ自由と一緒でないと強制になる怖れがあります)

4 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって就学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない


第4条(義務教育)
 人は、その保護する子女に、9年の普通教育を受けさせる義務を負う。

2 義務教育は必須諸経費を含み無償とする。

3 人は、その保護する子女に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。

4 義務教育は児童と保護者に受け入れられるものでなければならない。教育にあたって、児童の最善の利益が優先される。



第六条(学校教育) 

 法律に定める学校は、公の性質をもつものであって、国又は地方公共団体の外、法律の定めにより個人又は団体がこれを設置し運営することができる。

 法律に定める学校の教員は、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなけれぱならない。
(「全体の奉仕者であって」を削除)

4 教育の目的

 ---  法律に書くのが適切か   ---

第1条 (教育の目的)
第1条 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

2002年7月18日古山明男は法律で教育の目的を定義すべきかの問題を提出
 教育は、人間性の全領域を含み、法律より広い。より狭い物が広い物を定義するのはよくない。
 教育基本法の生みの親である田中耕太郎も、のちに、「教育基本法の第1条と第2条は、前文的なものとし、第3条からでよかった」という意見を述べている。


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