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「よう、眞一郎!いきなりだけど、週末空いてるか?」 携帯に出るや「もしもし」も何もなく、いきなりな三代吉だった。声色からして、何か楽しいことがあった様子が伺える。 「おぅ…特に何もないけど…なんだ?」 こういう時の三代吉は何か企んでいることが多いので、自然と身構えてしまう。 「いや、なに。懸賞で当たったんだよ。高級ホテルのスイートルームが!一泊二日だけどな!」 「へー、そりゃ凄いな。でも、何で俺に電話してきたんだ?男同士で行くなんて、気色悪いぞ」 スイートルームに、三代吉と二人で居る場面を想像してしまい、ちょっと胸が悪くなった。 携帯の向こうから、「ふん」と鼻を鳴らす音がして、 「そんなの、俺だって気持ち悪いよ…。当たったのは、4人分なんだよ。だから、俺と愛ちゃん、眞一郎と比呂美の4人ってことでさ」 「えっ?」 いきなり言われて、眞一郎は言葉に詰まってしまった。 眞一郎と比呂美は、知らない者はいないくらいの公認のカップルになっていたので、三代吉の提案を断る理由は特にない。ただ、宿泊するとなれば、比呂美はなんて言うだろうか? 「俺はいいけど、比呂美は部活の練習があるんじゃないか?」 「実は、比呂美にはもう愛ちゃんが電話して了解もらってるよ。週末、部活は休みだってさ。今頃は二人で水着を買いに行ってる頃じゃねーかな?」 今更ながら、三代吉の根回しの良さには恐れ入る。 「お…、そうなのか。じゃあ、別にいいけど、…水着って何だ?」 「ふっふっふ」 と三代吉の声に、嫌らしい響きが混ざり、 「屋上に専用プールがあるんだよ。宿泊客しか入れないから空いてるだろうし。愛ちゃん、どんなの着てくれるのかな〜?俺、すげー楽しみ」 「………」 三代吉の言葉が引き金になって、眞一郎もつい、想像してしまった。比呂美の水着姿を。比呂美の性格を考えれば、今時ワンピースはないにしても、オーソドックスなビキニか、やっぱりパレオとか着けちゃうだろうなぁ。 「おや?眞一郎君、むっつりはいけませんな」 三代吉の冷やかしに、はっと我に返ると、 「な、なに言ってんだよ!」 と否定するも、声が裏返ってしまった。 「いいっていいって、健全な男子ってことで。じゃあ後でまた連絡するわ」 と一方的に言い残すと、さっさと電話を切ってしまった。 「なんだよ…」 言いつつ、眞一郎は、自然と顔がにやけてしまう。だが、その楽しみを実現するには、両親の許可をもらうという難関が待っているのだが… ―――――――― スイートルームに一歩脚を踏み入れた途端、四人とも驚きの表情を浮かべた。 「へ〜。これは広いわね〜。」 早速、愛子が踊るように部屋の隅々をチェックし始めた。 「ふふん。凄いだろ!俺様に感謝して欲しいね」 自慢げな三代吉に 「はいはい、わかってますよー。――あ、ベッドルームは、ホスト用とゲスト用で分かれてるんだ。――うわぁ、お風呂も広くて豪華ね〜」 と感謝の言葉もそこそこに、愛子のチェックは止まらない。 「んだよ、愛ちゃん、心がこもってねぇ」 とぶつくさ言う三代吉を、眞一郎と比呂美はクスクス笑いながら見ていた。 「そこのお二人さん、仲良くお手々つないで突っ立ってないで、荷物をちゃっちゃと置いてください。速攻でプールに行きますよ!」 三代吉の催促に、 「え?」 「あっ!」 と眞一郎と比呂美は、一瞬眼を見合わせたあと、慌てて手を離す。 何となく、お互いにそっぽを向く二人へ 「ふーん、なんだかねぇ。」 と意味深な笑みを浮かべた愛子が 「あとは、私たちでやっとくから、眞一郎は、三代吉と、さっさとプールへ行って、良い場所確保しといてよ!直射日光はお肌の大敵なんだから、パラソルの側は必須だからね!」 とまくし立てる。 「へいへい、わかってますって」 と三代吉が受け流す。 「…、じゃ、俺も、先に行ってるから」 と眞一郎は比呂美に荷物を渡した。 「うん。……あの…眞一郎君?」 「なに?」 「…その、…楽しみにしてて…」 そう言う比呂美の頬に、すぅーっと紅が差していく。 「?…お、おう…」 良く分からない眞一郎は、曖昧な返事をしてしまった。 「よっしゃ、じゃあ行きますかね、眞一郎君」 三代吉に促されて、部屋を出た眞一郎が、何気に振り返ると、愛子が満面の笑みでVサインを出している。そして、その側には、恥ずかしそうに俯き加減の比呂美がいた。 ―――――――― ビーチチェアに寝そべりながら、眞一郎は、 「まったく、小学生じゃないんだからさ!」 と三代吉に文句を言った。 「いいじゃん、面倒くさかったし」 三代吉は、衣服の下に海パンを穿いたままで、ホテルに来たのだった。 「そんなことより、我らが姫君達を、ゆるりと待とうではないかね?眞一郎君。かぁー、愛ちゃんの水着姿、すげー楽しみだ!」 三代吉の無駄に力の入ったガッツポーズに、ややげんなりしながらも、 『そういえば、比呂美の「楽しみにしてて」って何だろう?』 と眞一郎は、もやもやした気持ちで二人が来るのを待った。 しばらくして、 「お待たせ〜!」 と、愛子と、その後ろに隠れるようにしている比呂美が現れた。 即座に、 「うひょぉ!愛ちゃん、格好いいなぁ!」 と三代吉が感嘆する。 愛子の水着は、銀色のスポーティな感じのビキニだった。ボトム部分がハイレグ仕様になっていて、活動的な愛子らしい。小柄ながら胸も大きく、腰もアンバランスなまでに細い愛子にはピッタリだ。 「どうよ、眞一郎!我が姫君の水着姿は!!」 表情が崩れまくっている三代吉。 「あ、あぁ。愛ちゃん、似合ってるよ…」 とちょっと照れながら、眞一郎は眼のやり場に困った。 「でしょでしょ?もっと褒めてくれたまえ、君たち」 とモデルのようにポーズを決める愛子。 「で、私だけが良い思いをしてもいけないのでっと。ほら、比呂美ちゃん!」 と、愛子の後ろに隠れていた比呂美を半歩前に押し出す。 「あ」 と押し出された比呂美は、胸元で大きなバスタオルを握りしめているため、肝心の水着姿がわからなかった。 「恥ずかしがってちゃ駄目でしょ?ほらほら。」 と強制的に比呂美のタオルを奪い取った。 「あ、駄目!」 「………」 「………」 眞一郎も三代吉も、言葉を失ったまま、呆然と比呂美を見つめていた。 比呂美の水着は、薄ピンク色のビキニだったのだが、布の面積がかなり小さい。ボトムはタイサイド、早い話が腰の部分で紐で止めるタイプ。ブラトップも、通常のトライアングルビキニに比べて、半分くらいのサイズしかない。 いくら入場者が限定されるホテルのプールだからといって、比呂美がよくぞ着たものだと言える。市民プールや海水浴だったら、絶対に着なかっただろう。 「やっぱり、恥ずかしいよ。」 と戻ろうとする比呂美の腕を掴んで 「こらこら、恥ずかしがっちゃ駄目。比呂美ちゃん、スタイル抜群なんだから。」 と逃がさない。 「どう、眞一郎。この私が比呂美ちゃんに似合うと思って選んだ水着は?」 と、愛子に急に振られて、眞一郎はどぎまぎしてしまった。 「ど、どうって、その、あの…」 と、しどろもどろながら、視線は完全に比呂美を捕らえて離さない。 「…すげー…、モデルみたいだ…」 一方の三代吉も、完全に腑抜け状態に陥っている。 「あ、バカ! 三代吉はそんなに見るな!」 比呂美の魅力は、愛子も慌てるほどのもののようだ。少女のもつ愛らしさ、清楚な雰囲気と、大人の女性が持つ匂い立つような色香の両方を兼ね備えているのだから、仕方ないのだが。 比呂美は、恥ずかしそうにモジモジしたまま、眞一郎と視線を結んだままだ。 そんな時、周囲が何となく、ざわついていることに四人とも気がついた。 「ちょっと!」 「あなた、どこ見てんの!」 「こら!」 「駄目!」 そこかしこから、そんな声が聞こえてくる。 周囲を見回すと、プールに来ていた宿泊客の男性客全員が、惚けたようになっている。 そして、様々な怒声の元は、そんな男性客の一緒にいるカップルの女性の方だ。 ほぼすべての男性の視線が、自分に釘付けになっていることに気づいた比呂美は、文字通り、耳まで赤くなってしまった。 そんな状況に眞一郎は急にいらだちを覚えた。 「比呂美、プールに入るぞ!」 「えっ?」 と、強引に比呂美の手を引っ張ると、慌てたように、プールに脚から飛び込んだ。 「きゃっ!」 何の準備もないままプールに飛び込んだ比呂美は、ケホッケホッとむせている。 「ご、ごめん、比呂美…」 急にバツが悪くなった眞一郎は、小声で謝った。 「スロープから入れば良かったよな、ごめん…」 ようやく落ち着いた比呂美は、 「ううん、もう大丈夫。…でも、眞一郎君、急にどうしたの?」 小首を傾げて尋ねる比呂美から、少し視線を逸らしながら、 「や、その、…なにか面白くなかったんだ…。比呂美が恥ずかしがっているのに、みんなじろじろ見やがって…」 自分もその中の一人であったことは棚に上げて、眞一郎はぼそぼそ答える。 「ふーん」 少し上目遣いで、眞一郎をじっと見つめる比呂美。 「な、なんだよ?」 「いいの!」 そう言うや、比呂美は眞一郎にいきなり抱きついてきた。 「比呂美?」 比呂美の豊かな胸が、眞一郎の胸板に密着する。 「…、む、胸…当たってるぞ」 恥ずかしそうに言う眞一郎だったが、 「…いいの…」 と、そのまま抱きついている比呂美。しばらくそのままでいた二人だったが、 「この水着、似合ってるかな?」 と言う比呂美に、 「え?」 と動揺しつつも、 「すごく、似合ってるよ。ちょっと目のやり場に困るけど…」 眞一郎の素直な答えに、 「うん」 比呂美は、にっこりと微笑んだ。 …と、そんな比呂美の姿に違和感を抱いた眞一郎は、その原因に気がついた。 「ひ、比呂美!水着!!」 と、慌てる眞一郎に、 「え?」 と視線を自分の胸元に落とした比呂美は、 「うそっ!!」 と胸元を隠しつつ、水中に隠れた。 さっきプールに飛び込んだときの反動で、ブラカップがずれてしまっていたのだ。 誰からも見られないように比呂美を隠しながら、 「早く着け直さないと…」 と催促しつつも、視線をどうしても胸元から外すことができない。 「眞一郎君!」 気がつけば、じーっと比呂美の視線が突き刺さる。頬を軽く膨らませながら、じっと見つめている比呂美も可愛らしいのだが、今の眞一郎には、 「ご、ごめん…」 と言うよりなかった。なぜなら比呂美の胸の可愛らしい桜色の突起を見てしまったから。 そんな二人のやりとりを、にやにやしながら見ていた愛子と三代吉は、お互いにアイコンタクトしつつ、「グッ」と親指を立て合うのだった…。 後編はこちら。 後編は、完全にラブラブモードに入るので、子供は読んではいけません。 |