患者残酷物語パート 4

(76)ニューヨーク州保健局の調査官たちは覆面調査をおこない、低所得者たちがメデイケイド制度の下でHMOの医療サービスを受けようとする場合多くの困難に直面することを身をもって体験した。電話をかけても話し中であることが多かったり、記載された電話番号が間違っていたり、HMO指定医の中には新規患者を受け付けない人がいたり、あるいは特定の保険プランの適用を辞退してしまった医師がいたりで、メデイケイドの受益者を装ってコンタクトをとった覆面調査官の集計によると、電話をかけたあるHMOの指定産科医のうち60%は妊婦へ定期検診予約をしてくれず、40%は乳児の予防接種の予約を受け付けてくれなかった。
("Tales From the HMO Crypt, Part 76," Consumers' Research, Feb. 1996.)

(77)ミシガン州の男性がアレルギーに悩んでHMOの一次ケア担当医師を訪ね、そこからアレルギー専門医を紹介された。患者は加盟している保険プランの規程に従い自費負担分として10ドル支払うだけですんだ。6ヶ月後、二人の医師は男性のHMOが請求どうりの支払いをしてくれないと言ってきた。HMOの言い分は、これらの医師が請求書を間違ったところに送ったので、支払いを拒否したとのことであった。更にHMOはその患者に、請求の件は患者とは関係ないから医師たちがHMOに掛け合えといってきても患者は取り合わないように、とも告げた。患者と医師を巻き込んだすったもんだは一年近く続いた。最終的にHMOが妥協し、請求額を支払った。
(Jodon, Bob, "The time the HMO didn't work," Adrian Telegram, Mar. 3, 1996.)

(78)米国で最大級のHMOは昨年度の株主への年次報告の中で、医療費の請求が届いてから支払いを行うまでの日数は1992年には68日であったが、1994年には86日へと若干長くなったとのべている。一方、ニューヨーク州保険局が受け付けたこのHMOへの苦情を分析したところでは、非指定医療機関を緊急の事由でHMO会員が利用したケースでは請求から支払いまで平均でなんと14ヶ月も要している。
(Fein, Esther B. and Elisabeth Rosenthal, "Delays by H.M.O. Leaving Patients Haunted by Bills," New York Times, Apr. 1, 1996.)

(79)重度神経障害を持つ双子の男児を産んだ女性は、この病気は就寝時に心不全や呼吸不全を起こす危険があるので家庭での訪問看護を受ける必要があると医師に告げられた。しかし、彼女の加盟しているHMOは家庭看護を承諾しなかった。その理由をHMOの担当者は「医学的に必要とは認められない」ためとした。女性は訴訟を起こし、家庭看護の費用負担をHMOに命じる勝訴判決を得た。
(Olmos, David R., "Twins' Mom Wins Fight Over Home Care," Los Angeles Times, Mar. 7, 1996.)

(80)ミズーリ州の女性が乳癌と診断された。放射線療法がおこなわれ、癌は消えた。しかしHMOはその治療費の支払いを拒んだ。理由は「医学的に妥当な治療法ではなかった」からであった。この女性が治療費の支払いをHMOに納得させるまで2年もかかってしまった。
(Kravetz, Andy, "Group pushes for single payer health-care system,"Columbia Missourian, Feb. 26, 1996.)

(81)HMOの受診規則が複雑なため、日曜日にひどい骨盤痛と痙攣に襲われた女性が婦人科医の診察を実際に受けられたのが水曜の午後になるというケースがあった。ようやくとれた予約の日に医師を訪れようと準備していた彼女にその医師は電話をかけてきて、まだHMOはこの診察を承認していないと告げた。彼女は、ともかく診察してもらいたいと頼み、なんとか診察を受けることは出来た。しかし、彼女の痛みの原因が子宮と卵管の感染であり、抗生物質を処方すると連絡を受けたのは受診後3日もたってからであった。
(Smokes, Saundra, "HMOs: Into what are we getting ourselves?," Syracuse Herald-American, Feb. 25, 1996.)

(82)HMOの経営を成功させる条件を研究していたハーバード大学の研究者は驚くべき結論に到達した。「患者に高品質の医療を提供することは企業体としてのHMOの成功には寄与しない。」その研究者は更に述べている。「HMOの中には質の悪さで有名なところがあり、苦情が多数寄せられているが、それでもこのHMOは成長率が最もたかく、成功しているHMOの一つである」
(Zaldivar, R.A., "Health: cost vs. quality," San Jose Mercury News, Mar. 31, 1996.)

(83)乳房にしこりの見られた女性が医師の勧めで生検を受けたが、その結果が良性腫瘍とわかると彼女のmanaged care保険会社は生検費用の支払いを拒んだ。「しこりが良性であったということは、生検は不必要であったいうことになる」(??)というのがその理由。
(Laster, Leonard, M.D., "Managed care translates to 'Let the patient beware',"American Medical News, Feb. 19, 1996.)

(84)テキサス州で最大級の医療過誤保険会社は1996年に22.9%の保険料引き上げを求めた。引き上げの理由として同社は、HMOやそのほかのmanaged care施設の医師による誤診件数が増えていることをあげている。この発表に続き、同州のもう一社も同年に32%の保険料引き上げを発表し、更にシカゴの巨大保険会社は45%もの引き上げを通告した。
(Bass, Frank, "Insurer Seeks Rate Rise, Citing HMOs," Dow Jones News Service," Mar. 6, 1996.)

(85)アメリカ全土のHMOに共通して用いられている指針には次のような一節がある。「白内障の手術は、患者の年齢が若く両眼の機能が必要な場合を除き、片眼のみに留めるべきであり、両眼手術の費用は支払うべきではない」
(Myerson, Allen R., "Helping Health Insurers Say No," New York Times, Mar. 20, 1995.)

(86)上記のHMO指針はに次のようなくだりもある。「脳卒中の患者の入院期間は3日以内とすべきである。たとえ3日入院して歩行機能が回復しない場合でも」
(Myerson, Allen R., "Helping Health Insurers Say No," New York Times, Mar. 20, 1995.)

(87)HMO3社の指針では乳房切除術は外来で行うべき手術とされている。
(Myerson, Allen R., "Helping Health Insurers Say No," New York Times, Mar. 20, 1995.)

(88)心臓発作で女性が緊急入院した。彼女のHMOはその病院に対し、患者をHMO指定病院に移送するよう求めた。その病院は、患者はいま動かせる状態ではないとその要求を退けた。彼女は結局最初の病院で死亡したが、HMOは入院費用の支払いを拒んだ。その理由:「この女性の心臓発作は保険契約前から存在していた疾患によるものである」
(Sherman, William, "Casualties of the System," New York Post, Sept. 21, 1995.)

(89)ある男性が職場の女性に恋愛感情を抱いていることを自分の妻に告白した。彼は自分の感情に我ながら驚き、HMOの心理療法士と相談するアポイントメントをとった。一次ケア担当者としての役割を果たすその療法士は、最初の相談の最中に、問題の芽を早めに摘んでしまおうと、男性に妻との離婚をアドバイスした。男性の妻はこのアドバイスに驚き、自らアポイントメントをとってその療法士に会った。その時言われた言葉:「あなたの御主人は離婚したがっているんです。そうさせてあげなさい」
(Meehl, Joanne H., "Managed Marriage," Washington Post, Mar. 26, 1996.)

(90)ニューヨークの女性が、あらかじめHMOの承諾を受けた上で、子どもを医者に連れて行き頭部に寄生するダニを除去してもらった。医師の指示に従い、母親は数日後に再び子どもを連れていき頭部の抜糸をしてもらった。これに対しHMOは、2回目の訪問はHMOの承諾を受けていなかったと指摘し、2回目はもちろん最初の訪問時の費用さえ支払を拒んだ。
(Sherman, William, "Play By The Rules," New York Post, Sept. 19, 1995.)

(91)カリフォルニアの巨大HMOは1996年に「FDAが許可した新しい水痘ワクチンを第一選択ワクチンとして用いることは推奨せず、使用してもその費用は支払わない」との通達を2度にわたって医師たちに送付したことで批判を浴びている。州の法律では、HMOはワクチン接種の費用を支払う事が義務づけられているが、この新ワクチンの使用は推奨しないとのHMOの通達は医師たちに圧力をかけ同社の経済的負担を軽減する効果を発揮したようである。HMOは推奨しない理由としてこのワクチンの副作用を心配しているといっているが、こうした医師たちへの圧力は、米国小児科学会、米国家庭医協会、および米国疾患管理予防研究所免疫推進諮問委員会の勧告に反するものである。
(Green, Jay, "PacifiCare takes hits over shot," Orange County Register, Apr. 2, 1996.)

(92)managed careの中で個人のプライバシーがどのように侵害されるかを示す例を紹介する。ある女性が少女時代の近親相姦にまつわる心の悩みについて相談するため精神科医のアポイントメントをとろうとした。その時HMOは通話料無料電話で一次ケア担当医師と相談して欲しいといった。そこに女性が電話すると、その医師は彼女にこう尋ねた:「何回関係をもったのですか?」
(Riley, John, "When You Can't Keep a Secret: Insurer's cost-cutters demand your medical details," Long Island Newsday, Apr. 1, 1996.)

(93)ワシントンの大学に通うアリゾナ出身の女性が腕を折り、救急治療室を訪れた。両親の加盟するHMOは最初の治療費は支払うが、以後の治療はアリゾナの一次ケア担当医師から受けるよう指示した。彼女はいまはアリゾナ州外の大学で授業を受けている最中であると説明したが、HMOはその事情を聞き入れず、今後の治療をアリゾナで受ける場合しかその費用は支払わないと言い張った。
(Cisak, Carol J., "Patients at whim of unreasonable HMO rules," Gilbert Tribune, Mar. 23, 1996.)

(94)ある女性が浴槽で転び肘を負傷した。夜の10時30分にその女性の母親がやってきて、X線検査を受けさせるため娘を救急治療室に連れていった。その結果腕は折れていない事が分かり、救急治療室の医師は以後の注意事項を指示して患者を帰宅させた。数日後、彼女のHMOの一次ケア担当医師が電話をかけてきて、自分に連絡せずに他の病院を訪れたので今回の治療費の支払いには同意しないと告げた。
(Fields, Lillie, "Deciding Who Pays," St. Louis Post-Dispatch, Apr. 4, 1996.)

(95) テキサスの男性が呼吸の異常を自覚し、HMOの通話料無料の相談電話に専門医の紹介を受けようと電話した。しかし、電話には誰も出なかった。男性は仕方なく救急治療室を訪れ治療を受けた。HMOはその費用174ドルの支払いを拒否した。この男性の病気は気管支疾患であると判明したが、それは救急治療を要する疾患でないというのが拒否の理由であった。しかし、州政府がこの件について調査を開始したと聞くやHMOは支払いに同意した。
(Sgerman, William, "Pity These Poor Patients," New York Post, Sept. 20, 1995.)

(96)9才の女児がまれなタイプの腎臓癌と診断された。小児科医は両親に専門医のところで手術を受けるよう勧めた。しかし両親の加盟するHMOの契約リストにはそうした専門医はのっていなかった。そこで両親はこの種の手術の経験をもつ外科医をHMOのネットワークの外部に探すことにした。そのようにして探した外科医の元で少女は手術を受けたが、術後少女がまだ集中治療室に入っていた時にHMOは両親に電話し、今回の治療費は一切支払えないと告げた。11ヶ月後、仲裁委員会はHMOに入院・手術費用をすべて支払うよう命じた。しかし両親がHMOを訴えるのに要した費用(既に何万ドルもの金額になっていた)は支払ってもらえなかった。
(Letter to the California Nurses Association, in response to "Patient Watch" advertisements placed in 1996 in a number of national and local newspapers; name of writer available upon request to CNA.)

(97)足底部のいぼに重度の感染を起こした女性がHMOの医師から皮膚科医に紹介されてきた。その患者をみてその皮膚科医は直感的に、このケースは自分がいぼを切除する前に足の専門医に見せた方が良いと感じた。その医師はHMOの一次ケア担当医師に電話し紹介の労をとってもらおうとした。しかし電話の中でこれら2人の医師は医学的な話はあまりしなかった。一次ケア担当医師は、HMOのcapitation制度のことを考えてか、この患者を専門医に再紹介する場合、自分と皮膚科医のどちらからの紹介とみなして経費処理するかに大いに関心があるようであった。
(Greenberg, Michael, M.D., "Moment of truth leads to escape from capitation 'gulag'," American Medical News, Mar. 11, 1996.)

(98)合併症を伴う肝臓癌を有する男性が一次ケア担当医師を訪れた。その医師はこの男性を自分で治療する事にした。治療は3ヶ月間続けられたが、その間に腫瘍は増大し、カルシウム値は危険なレベルまで上昇した。その医師は当初、このケースは上皮小体腫瘍であるとみなしていたが、この腫瘍について文献を調べておくとも述べていた。最終的に、この医師は自分での治療をあきらめ、患者を腫瘍専門医のもとに送った。患者を一目見た専門医はショックを受けた。患者は直ちに入院させられた。患者の言葉:「最初にみてくれたHMOの医師が私をすぐに専門医のところに送ってくれなかったは、紹介患者を減らす事でHMOから受け取るボーナスを考えていたからではないでしょうか?他に理由は考えられません」
(Letter to California Nurses Association, in response to "Patient Watch advertisements placed in 1996 in a number of national and local newspapers; name of writer available upon request to CNA.)

(99)ある男性が神経圧迫のため背部手術が必要とみなされた。患者の状態は悪く、片足の機能を失いかけており、その足を引き摺って歩いていた。整形外科専門医は手術が遅れると重大な結果を招きかねないと警告した。しかし、患者の加盟しているHMOはそのガイドラインを杓子定規に適用しようとした。その医師はHMOに次のようにいわれた:「この患者の場合、症状が発現してからまだ4週間しかたっていません。ガイドラインに定める6週間まで待つべきでしょう。」その医師はその後次のように語ったという:「ガイドラインというものは適切で、時宜を得た、正しい医療ケアを可能ならしめるために本来作成されたものなのに、HMOはそれを適切に運用していない。私の患者は2週間も余計に苦しむはめになった。」
(Protos, John, "Ten Things Your HMO Won't Tell You," Smart Money, March 1996.)

(100)フロリダの男性が妻を救急治療室に連れてきた。彼女は胃の痛みを訴え、全身に汗をかいていた。彼女の加盟するHMOは救急治療室の医師に、今回の治療費用を支払うつもりはないこと、患者に制酸剤を与え、週末は自宅で様子をみさせるべきであると告げた。患者の夫は妻を入院させたい一心で、彼女が補充医療保険プランにも加盟しているとの嘘までついた。病院側は彼女の入院を認めた。検査の結果、胃の閉塞が発見し、手術が施行された。
(Cohen, Sarah, "So, what's a little fib between foes, anyway?", St. Petersburg Times, Apr. 8, 1996.)

前のページに戻る

最初のページに戻る