患者残酷物語パート 3

(51)ジョージア州オーガスタで、州下院の共和党議員が新聞記者に語った話。議員の叔父は開心術を受けることになった。しかし術後まだ胸の手術創が癒えないうちに、叔父はHMOの指示で退院を強制されてしまったという。
(Salzer, James, "Managing the medical market," The Georgia Times-Union, Jan. 28, 1996.)

(52)ワシントンのHMOは、あるエイズ患者がニューヨークの兄弟を訪問中にリンパ腫で緊急入院が必要になった時、その費用の支払いを拒否した。このHMOは、会員がHMOのサービス地域外に外出中に医学的問題を起こした場合に、そうした問題が起こりうる事が予め予想できた場合には治療費用を負担しない方針をとっている。この方針の下では、エイズ患者は自分の愛する者を訪問することを選ぶか、HMOに医療費を支払ってもらう事を選ぶ、2者択一の判断を迫られることが多い。裁判ではこうしたHMOのやり方を下級審は支持したが、連邦高裁は最近そうしたHMOのやり方を否定する判断を示した。
("Court Rejects HMO's Limitation of AIDS Coverage," West Hollywood Frontiers, Jan. 12, 1996.)

(53)ある女性が夜中に目を覚ますと、78才の夫が血を吐いていた。彼女はすぐに電話のもとに走っていったが、911をダイアルすることをしなかった。以前にこの救急番号をダイアルした時、HMOは救急治療の費用を払ってくれず、医師からの請求書が彼女に届いた苦い経験があったからである。今回は、HMOの救急ホットラインに電話した。12分後、HMOの医師が電話をかけてきて、救急車を彼女の家に向かわせていると告げた。しかし、HMOと契約していたその民間救急車派遣会社は運転手に間違った行き先を指示してしまった。結局、HMOの医師は911に電話して市の救急車を手配せざるを得なくなった。その救急車が彼女の家に到着したのは、最初に彼女がHMOに電話してから40分後であった。その時、彼女の夫は既に死亡していた。
(Rabin, Roni, "In Case Of Emergency," Long Island Newsday, Feb. 11, 1996.)

(54)ニューヨークである男性がタクシーから降りる際、滑って頭を打ち、血を流した。運転手は911に電話し、その男性は救急治療室(ER)に運ばれて頭の傷を縫ってもらい、骨折の治療も受けた。しかし、このケースではHMOの承認を得ずに治療が行われたため、HMOは治療費の支払いを拒んだ。
(Rabin, Roni, "In Case of Emergency," Long Island Newsday, Feb. 11, 1996.)

(55)ある高齢の女性が心停止をおこし救急治療室に担ぎ込まれ、蘇生措置を受けた。容体が一応安定したところで手術が行なわれた。しかし、彼女の加盟していたHMOは手術の費用は支払ったが、その前段階の救命治療の費用支払いを拒否した。
(Rabin, Roni, "In Case of Emergency," Long Island Newsday, Feb. 11, 1996.)

(56)5才の男児がバルコニーから落ちコンクリートに頭をぶつけた。少年は救急治療室に運ばれてきた。その病院の治療スタッフは少年のもとに急いで集まり、脊椎X線検査とCT検査を行おうとした。しかし、HMOは少年をタクシーでHMO指定病院に移送するよう指示した。救急治療室の医師たちはHMOの指示を無視した。
(Rabin, Roni, "In Case of Emergency," Long Island Newsday, Feb. 11, 1996.)

(57)乳癌にかかった女性が化学療法を受けようとした時、彼女の所属する組合が運営する健康保険組織はその費用の支払いを拒んだ。彼女の主治医に拒否の理由は説明されなかった。彼女の場合、製薬メーカーが好意で必要な薬品を提供してくれたので何とか急場はしのげたものの。
(Sherman, William, "Pity These Poor Patients," New York Post, Sept. 20, 1995.

(58)フィラデルフィアの65才の女性は肺気腫のため酸素療法を必要とした。ペンシルベニア大学医療センターの医師たちは軽量酸素療法装置があれば老齢患者は長生きが可能になると、何ヶ月にもわたってHMOを説得しようとしてきたが、HMOはあくまで軽量酸素タンクへの支払いを拒否した。そのため彼女は外出もままならず自宅に半ば監禁された状態におかれている。
(Uhlman, Marian, "Medical second-guessing: Insurance companies call the shots," Philadelphia Inquirer, Feb. 4, 1996.)

(59)右前腕が欠如した女児を出産した女性にHMOは、今後この子が必要とする義肢のうち、最初に作る分のみ費用を負担すると伝えた。このHMOの方針は、母親の訴えで新聞記者がHMOに取材を始めるや撤回された。
(Uhlman, Marian, "Medical second-guessing: Insurance companies call the shots," Philadelphia Inquirer, Feb. 4, 1996.)

(60)46才の女性が腰痛、寝汗、それに動悸を訴えてHMOの一次ケア医師に相談した。その医師は彼女の症状は更年期に関係があるとし、その時は精神科医に紹介した。女性はその後2年間にわたって同じ症状を訴え続けた。ある時は血尿が現れたが、その時でさえHMOの一次ケア医師は適切な専門医への紹介をせず、彼女のような症例には不慣れな病院に送った。その病院は彼女を入院させずに帰宅させてしまった。その後、彼女は自分で探したHMO非指定の外科医に見てもらった。その外科医はただちに手術を行い、グレープフルーツ大の腫瘍におかされた右腎を切除した。しかし、すでに遅かった。癌はリンパ節に広がっており、術後まもなくこの女性は死亡した。
(Rabin, Roni, "Husband Sues HIP in Death," Long Island Newsday, Feb. 27, 1996.)

(61)ある女性が年1回の乳房撮影検査(マンモグラフィー)を受けた。3ヶ月たっても検査結果が知らされなかったので女性は担当のHMO医師に電話をかけた。その医師は、検査結果は放射線医からHMOの方に送られたはずであると説明した。HMOに尋ねると、検査結果は確かにHMOに送られてきており、所見に異常は見られないとのことであったえ。そのHMO担当者は付け加えた:「陰性の結果をいちいち患者さんに通知していたら費用がかかって仕方がありません」。では、もし異常所見が見られた場合にはどうするのかというと、葉書で患者に通知が出されるという。封書での通知は費用がかかる、という理由で。
("A non-profit HMO means more patient services," Temple Telegram, Feb. 18, 1996.)

(62)ある小企業の女性経営者は自分自身と社員の為にHMOに加入し、さっそく第一回分保険料を小切手で支払った。その2週間後、彼女はテニスをしていて右膝の靭帯を傷付けてしまった。痛みに襲われ、ほとんど歩けない状態で、彼女はリストに載っているHMO指定整形外科医に電話をかけまわった。しかし、1週間以内に診察出来る医師はいなかった。HMOの指針によると、この時の彼女の状態は、救急治療室を訪れるほど重篤なものではなく、彼女は自己負担になるかもしれないことを覚悟して非指定の医師を訪れた。案の定、MRI検査の承諾を得るのにHMOと一悶着があり、HMOは結局その費用の一部しか支払ってくれなかった。さらに、膝の装具の費用は一切支払ってくれなかった。
(Sherman, William, "Health mismanaged care," Vogue, Feb. 1996.)

(63)昨年末、3名の委員からなる仲裁委員会は、乳癌で死亡した34才の女性教師の家族に百万ドル余りの賠償金を認めた。支払いを命じられたのはカリフォルニアのHMOである。仲裁の過程でなされた証言によると、HMOは死亡した女性を担当していた腫瘍専門医とその上司に強圧的な電話をかけて影響力を行使しようとした。仲裁委員会の認定によると、患者と医師との関係に干渉しようとしたHMOの行為は不当であり、文明社会で許容しうる限界を超えたものであった。
(Rubsamen, David S., "HMO's Costly Attempt to Interfere With a Doctor/Patient Relationship," Physicians Financial News, Feb. 15, 1996.)

(64)術後の悪心に苦しむ女性患者がいた。彼女は自分の加盟しているHMOに新しく発売された、効果の優れた制吐剤を使ってほしいと希望したが、それは受け入れられなかった。この患者の娘が看護婦から聞いた話:「この新薬は麻酔の影響による術後の悪心にほんとに良く効くのよ。でも値段が高いので薬局はなかなか使わせてくれないの。」
(Lascara, Mary Jo, "Bad medicine," The Virginian-Pilot, Feb. 19, 1996.)

(65)HMOの一次ケア担当医師はある患者を再発性副睾丸炎と診断し、HMOの泌尿器専門医に紹介した。その1年半後、その患者は精巣癌(その時はまだ診断は下されていなかった)のため瀕死の状態で最初の医師のところに戻ってきた。話を聞いてみると、泌尿器専門医は腫瘤の存在を示唆する検査結果を得ていたが、それが癌であるか否かを確定診断するための詳細な検査を行っていなかった。最初の医師のところには紹介先から検査データや専門医の報告書は一切送られてこなかった。
(Prager, Linda O., "Gatekeepers on Trial," American Medical News, Feb. 12, 1996.)

(66)脊椎に沿った神経根の異常な腫脹に悩む女性がHMO指定整形外科医の治療を受けた。HMOはその費用4、000ドルの支払いを拒んだ。その理由は、この女性の悩みは「体の変形」によるものであり、それを矯正する手術はどんなものであれ「美容整形」とみなされる、というものであった。
(Sherman, William, "Play By The Rules," New York Post, Sept. 19, 1995.)

(67)乳房切除術を受けたある女性は、同時に乳房再形成術を受けた。その後この女性は非切除側の乳房についても形成手術が必要になった。というのは、非切除乳房が反対側の切除後再形成した乳房より下に垂れてしまったからである。しかし、HMOは2回目の形成手術を「美容整形」とみなし、費用の支払いを拒んだ。この女性は努力を重ねた結果、なんとか手術費用をHMOに支払わせることに成功した。これをきっかけに、メリーランド州の上下院でこの種の再形成手術への保険適用を義務づける法律を制定する動きがおこった。しかし各HMOはその法案に反対した。
(Chapman, Claire, "Cancer survivors, insurers at odds over breast reconstruction," Prince George's Sentinel, Feb. 8, 1996.)

(68)骨盤痛、下痢それに胃痙攣を訴える35才の女性に対し、HMOの医師はいろいろな検査を行ったが、なかなか消化器専門医へ紹介しようとはしなかった。やっとのことで専門医の診察を受け時彼女は、直腸S状結腸癌と診断され、既に結腸が腫瘍による穿孔を起こしていた。この患者は6ヶ月後に死亡した。遺族はHMOの「capitation制度」(HMOが契約医師に支払う医療費が原則として患者一人当たり一定額に制限され、医療費が高額になるのを抑制しようとする制度)に憤慨し、HMOの医師たちを相手取り医療過誤訴訟を起こした。Ventura郡上級裁判所の陪審員たちは医師側の責任を認定した。
(Frieden, Joyce, "Capitation on Trial in Cali. Malpractice Case," Family Practice News, Feb. 1, 1996.)

(69)情報公開法は大企業などにはまだ効力を発揮していないようである。1995年にアリゾナ州上院の共和党議員が法律制定を精力的に画策し、HMOと契約している医師たちが患者へのケアや治療費を節約した場合に特別報奨金(ボーナス)をHMOから受け取っていないかどうかの報告を義務づけた。その法律の適用を受けた14のHMOのうち、12社が提出した報告は不完全なものであったとアリゾナ州保険局は発表した。同局がもっと詳細な報告を提出するよう文書で催告しても、以前より詳細な報告書を提出したのは7社に過ぎなかったという。
(Snyder, Jodie, "HMOs oppose proposal for tighter regulations," Phoenix Gazette, Feb. 27, 1996.)

(70)生後3ヶ月の女児が白血病と診断された。家族は姉をドナーとする骨髄移植を医師から勧められた。HMOは、この種の手術施行施設としてHMOの指定を受けている病院でその手術を受けるのなら費用を負担すると告げた。しかしその病院は別の州にあった。女児の両親は、父親が長期間仕事を休むことがむりであること、それにその他の家庭の事情をあげ、家に近い病院で手術を受けさせたいとの希望をHMOに伝えた。しかし、HMOはそれを拒否し、家族とHMOの仲介に立った医師を余計な干渉として批判さえした。その女児は6ヶ月間にわたり、州外に移され、姉はその間親戚のもとで面倒を見られる羽目になった。母親は病院の近くに新しい働き口を給料減少を覚悟で探さざるを得なくなり、父親の方は失職してしまった。HMOの容赦のない方針のため、この家族は家を失い、蓄えを使い果たし、ついにはメデイケイド(低所得者向健康保険制度)に頼らざるを得なくなった。
(Herbet, Bob, "Tortured by H.M.O.," The New York Times, Mar. 15, 1996.)

(71)ある女性の皮膚の状態に疑念を抱いた医師は生検を受けるよう勧めた。しかしその女性のHMOは保険の適用を拒否した。医師は生検が医学的に必要であることを手紙でHMOに伝えた。もう一人の医師にも意見をもとめたが、その医師も生検の必要性を認め、HMOにその旨手紙で意見を述べた。それでもHMOは保険適用を拒否し続けた。9ヶ月間にわたって患者はHMOとやりあったが、結局自分で費用を支払って生検を受けた。その検査により彼女は悪性リンパ腫と診断された。HMOはその診断が下ってからようやく手術と術後の治療の費用を負担した。
(Austin, Elizabeth, "Mass medicine," Shape, May, 1996.)

(72)Medi-Calプラン(カリフォルニア州独自の健康保険制度)の受益者を会員としている南カリフォルニアの大規模なHMOはケアが不十分であると度々指摘されている。最近このHMOとの契約を打ち切ったある家庭医は次のように証言している:「ひどいもんでした。医師の数が足りないんです。夜遅く帰宅し、不安のあまり体を震わせながら寝る毎日でした。臨床検査などがきちんとなされていますように、そう神に祈らずにはいられない毎日でした。」
(Dalton, Rex, "Push for HMO care for the poor falters," San Diego Union-Tribune, Mar. 20, 1996.)

(73)反HMO運動を組織している女性は、彼女の61才の母親がHMO所属の病院の救急治療室で何時間も放置され、血液凝固のため体内の酸素欠乏を起こしてしまったことで、その病院の怠慢を追求している。「この病院は母に何も手当てをほどこさず、死亡させてしまったんです。その部屋にはコールボタンもありませんでした。モニターもついていませんでした。何も無いんです。HMOの人たちはこんなレベルの治療を国中に広めようとしているんです。」
(Sakson, Steve, "Highly Criticized, HMOs Face Wave of Restrictive Legislation," Associated Press, Mar. 15, 1996.)

(74)怪我した足に感染を起こした女性に対し、HMOは保存的治療が可能なのに費用の安い足切断術を受けるように説得しようとした。しかし女性の抵抗により費用の高い保存療法に同意せざるを得なくなった。現在この女性は反HMO運動のメンバーとして活躍している。
(Sakson, Steve, "Highly Criticized, HMOs Face Wave of Restrictive Legislation," Associated Press, Mar. 15, 1996.)

(75)メリーランド州保健当局は低所得者たちをだまして自社の健康保険プランに加盟させたとしてHMO1社に55、000ドルの制裁金を科した。更に昨年、州検察局はHMOがボルチモアのソーシャルワーカーに金銭を渡してメデケイド受益者の極秘リストを手に入れていたことをつかんだ。窃盗、文書偽造から詐欺にいたる様々な罪で24名以上の者が有罪を宣告された。これらの不法行為に対し、州の両院協議会はメデイケイド受益者の健康保険プランにHMOが関わることを禁止することを検討している。
(Sugg, Diana K., Md. HMO is fined $55,000," Baltimore Sun, Mar. 25, 1996.

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