患者残酷物語パート 2

(26)ニューヨークの男性は拡張蛇行静脈の手術についてHMOの同意を得たが、その手術の準備段階で必要となる諸検査の費用の支払いをHMOに拒否された。州の保険局に訴え、ようやくHMOに支払いを承諾させることが出来た。
(Sherman, William, "Pity These Poor Patients," New York Post, Sept. 20, 1996.)

(27)退職したニューヨークの男性は前立腺癌の経過観察と薬物療法を毎月一回受けており、その費用として毎月350ドルが彼の所属するHMOに請求されている。しかしメデイケア(高齢者の医療保険制度)からそのHMOには月550ドルが支払われている。その差額200ドルはHMOの儲けになっているのであるが、その儲けでは不十分というわけなのか、HMOはなんとこの男性にもっと費用のかからない永久的な治療法である「去勢」を受けるよう求めたという。
(Sherman, William, "Ex-New Yorker is Told: Get castrated so we can $ave," New York Post, Sept. 18, 1996.)

(28)16才の少年は、両親の加盟しているHMOが3年間のホルモン注射の費用15万ドルの支払いを拒んだため、正常な性的成熟が期待できなくなった。HMOの担当者は、この少年の外観や身長をなんとかして欲しいというのは「美容」上の問題にすぎないと述べた。しかし、世論の批判を浴び、HMOはこの決定を取り消す羽目になった。
(Sherman, William, "Short on Compassion," New York Post, Sept. 19, 1996.)

(29)ある女性が手の手術を受けることになった。彼女の属するHMOは、最初のうちは3時間もかかる遠方の理学療法士の治療を受けることしか認めてくれなかったが、なんとか手術へのHMOの同意と予約を得ることが出来た。しかし3ヶ月後に指定の場所にいった彼女を待っていた言葉:「ここでは手の手術はおこないません」
(Taubman, Bryna, "Angry readers tell Post they're fed up with the system," New York Post, Sept. 22, 1995.)

(30)サンデイエゴの対麻痺に悩むある女医が、彼女を担当していたHMOの一次ケア担当医師にリハビリ専門家を紹介してくれるよう依頼したが、その医師はその申し出を拒んだ。彼女はそのうち重度のとこずれが体に出来てしまった(この種の傷はリハビリドクターなら常に注意し、発見しだい治療する)。しかし彼女の一次ケア医師は相変わらずリハビリ専門家への紹介を拒んだ。結局、彼女は手術が必要な状態にまで悪化し、一年間にわたり病院のベッドに寝たきりで、毎時間毎にケアを受けねばならない羽目になった。彼女をそんな状態に追いやったHMOのメデイカルデイレクターはこう述べたという:「managed careというシステムでは特殊な患者さんが必要とするものを必ずしも充分満足させることは出来ないんです」
(Marsh, Barbara, "San Diego in Lead of HMO Revolution," Los Angeles Times, Aug. 31, 1995.)

(31)若い学校の教師が希れな癌にかかっていると診断された。彼の所属するHMOは最初のほぼ3年間は治療費を支払ってくれたが、主治医がstem cell移植しか助かる道はないと判断した時、その費用の支払いを拒否した。いわく、「この治療法はまだ実験段階のものであります」
(Haggart, Robert R., "Teacher Battles Cancer and Bureaucracy," Syracuse Post-Standard, Jan. 22, 1996.)

(32)ある患者は、これから当分の間、毎日抗生物質の注射を3回受けるよう医師に指示された。しかしHMOはそのうち2回分しか承認しなかった。その理由も示さずに。
(Tennessee Association Home Care, "Position Statement on TennCare," Sept. 27, 1994.)

(33)ある女性が腹痛のため入院した。入院後HMO所属医師が診断を下すまで14時間もかかってしまった。その間、医師たちは鎮痛剤投与を指示するのみで他にはなにもしてくれなかった。結局この患者は虫垂破裂のため入院46時間後に手術を受ける羽目になった。
(Olmos, David R., "Assembly Line Medicine?", Los Angeles Times, Aug. 27, 1995.)

(34)高齢の患者が尿路感染症と血尿に悩んでいたが、彼を担当したHMOの医師が泌尿器専門医への紹介を決断するまで2ヶ月もかかってしまった。しかし紹介を受けいざ専門医の診断が受けようとした直前に、患者は未発見の腫瘍による大腸穿孔をおこし、緊急入院するはめになった。
(Rosenthal, Harry, "HMOs not popular with Medicare recipients," Today's Sunbeam, Jan. 7, 1996.)

(35)45才の女性は、精神科医から、不安と抑うつ症状がかなり重いので、心的外傷後症候群専門の施設に入院することを勧められた。しかし彼女のHMOは専門施設以外の病院に6日間入院し、その後数回外来治療を受けることしか認めなかった。HMOの承認した短期入院を終えて退院した直後に、彼女の状態は悪化し、再びその病院に入院が必要になり、こんどは1ヶ月もの入院治療が必要になってしまった。
(Goleman, Daniel, "Critics Say Managed-Care Savings are Eroding Mental Care," New York Times, Jan. 24, 1996.)

(36)オレゴンの医師は自分の担当する老齢の患者に、頚部神経の圧迫を和らげるため手術が必要であると告げた。しかし、患者の加盟するHMOはその手術を承認しなかった。この女性患者はHMOを相手に訴訟を起こし百万ドルの和解金を得たが、それまでに彼女は片手の機能を完全に失ってしまっていた。
(Dietz, Diane, "HMO: Health pearl or peril?,"Statesman-Journal, Jan. 7, 1996.)

(37)カリフォルニア州議会は、消費者たちの要望を受け入れ、1996年に州企業局の中に通話料無料の電話相談センターを開設した。その目的はHMOに関する苦情処理であった。開設後最初の1ヶ月で2000件以上の電話が殺到したという。
(Lehrer News Hour,Feb. 6, 1996.)

(38)オレゴン州消費者企業局の保険部は最近、西海岸のあるHMOに2万ドルの科料を科した。報道によると、このHMOは救急治療室で治療を受けた会員への支払いを十分な審査もせずにしばしば拒否したことが州の調査で判明したという。
("Health insurer fined $20,000," Daily Journal of Commerce, Jan. 11, 1996.)

(39)ある女性が脊椎ヘルニアで苦痛を訴え、台所の床の上でもがき苦しんだ。息子が911をダイアルして救急車を呼んだ。彼女のHMOはしかし救急車の費用の支払いを拒んだ。HMOがいうには、「彼女の苦しみは相当なものであったかもしれないが、生命を脅かすものではなく、したがって緊急事態には該当しません」
(Hostetter, George, "She belives HMO rules are a pain in the back," Fresno Bee, Jan. 29, 1996.)

(40)妊婦がある病院の救急治療室に、流産と大量の出血のため担ぎ込まれてきた。てきぱきと診察をした救急治療スタッフは彼女のHMOに電話を入れた。「この患者さんにどんな治療を施すことを貴HMOはお望みですか?」その質問にHMOが返事をしたのは3時間ほどたってからであった。「この患者の治療には当HMOと契約している医師が一切関わっていないので、このケースの治療は当HMOでは負担出来ません」その返事を聞いた救急治療室の医師は6時間にもわたりHMOとやりあい、結局HMOは承服した。
(Hiltzik, Michael A., "Emergency Rooms, HMOs Clash Over Treatments and Payments," Los Angeles Times, Aug. 30, 1995.)

(41)生後15ヶ月の乳児が耳内部の圧力亢進と痛みを和らげるため、特殊なチューブを両耳に挿入する手術を両親に勧めた。しかし、その女児のHMOはこの手術の費用を負担することを拒んだ。どうしようもなくなった母親は地元の新聞社にこの顛末を話し、新聞で報道するよう求めた。記者の質問を受けたHMOは、過ちを認め、その手術を承認した。
(Madrid, David, "Fighting for health care," The Tucson Citizen, Jan. 9, 1996.)

(42)1995年の間に、フロリダ州司法局は州が拠出するMedicaid基づくmanaged care29プランのうち21件の認証を取り消した。その理由はケアが不適切なケースが多い、というものであった。
(Himmelstein, David U. and Steffie Woolhandler, "US Health Reform: Unkindest Cuts," The Nation, Jan. 22, 1996.)

(43)ミネアポリスの女性が頭痛と嘔吐を訴えてHMOの一次ケア担当医師を訪れた。その医師は彼女を画像診断センターに紹介しようとしなかった。その理由は、報道によると、HMOににらまれることを医師がおそれたからであったという。結局、女性は Mayo Clinicに行き、そこでMRI検査を受けこぶし大の脳腫瘍を発見された。
(Schechter, Heidi, "A Cancer Journal," Minneapolis-St. Paul Magazine, February 1995.)

(44)44才の女性が腹痛、腸の異常などを訴えてHMOの医師を訪れた。S状結腸内視鏡検査を実施すれば異常がはっきりすると思われた。しかしその医師は以前そうした検査を患者に受けさせようとしてHMOに拒絶された経験が何度もあったので、この保険制度の下でその検査を受けことを患者に勧めなかった。その患者はその後、休暇中に、結腸を閉塞させていた腫瘍を除去するための緊急手術が必要な状態になった。
(Hilzenrath, David S., "Costly Savings: Downside of the New Health Care," Washington Post, Aug. 7, 1995.)

(45)10才の少年の治療にあたっていたニューヨークの精神療法士が過度の薬物乱用の徴候に気づいた。この女性療法士はヘロイン乱用を疑った。事実、この少年のHMO所属精神科医は成人の通常使用量より多い30mgのProzacを処方していることが判明した。彼女はこの少年とまともに話し合える状態になるまでその薬物療法を中止することを求めたが、HMOの精神科医はHMOの治療費負担額を低く維持するため、少年の母親にこれまでの薬物療法を続けるよう説得した。
(Pollack, Ellen Joan, "Managed Care's Focus On Psychiatric Drugs Alarms Many Doctors," Wall Street Journal, Dec. 1, 1995.)

(46)複数の医師の報告によると、HMOは医師が患者と適用可能なさまざまな治療法について協議することを制限するルールを設けているようである。1995年に複数の医師たちがHMOから次の内容の手紙を受け取った:「HMOの承諾を得る前に会員と治療法について協議することを避けられたい」。その手紙は更に、医師がHMOから承諾を得る手続きについて患者に話してはならない、とも書いてある。HMOの広報担当者はこの手紙について聞かれた時,まるで他人事のようにいった:「残念な内容の手紙ですね」
(Pear, Robert, "Doctors Say H.M.O.'s Limit What They Call Tell Patients," New York Times, Dec. 21, 1995.)

(47)フロリダの格付け会社は最近、全国各地のHMOの収入に占める費用の割合の分析を完了した。それによると、HMOは平均して、保険料収入の17%を一般管理販売経費にあてていた(Medicareの場合その割合は4%である)。その格付け会社の社長は「HMO業界ではクッキーの入った容器に手を突っ込んでいるマネージャーの数が多すぎる」といったという。つまり、HMOは給料、ボーナス、その外の管理的経費にお金を使いすぎ、会員の健康ケアへの支出が不十分である。
(Lavey, John, "Study measures state HMO's care expenditures," Nashville Business Journal, Jan. 12, 1996.)

(48)充分なケアを求めてHMOと戦っている患者たちは無理難題を吹っかけているのでは決してない。ソロモンブラザースのアナリストによると、株式を公開している大手HMOのうち9社は96億ドルもの蓄積があるという。大手7社の重役たちは1994年に総額7百万ドルの現金や株式を分配されたという。
(Anders, George, "Money Machines: HMOs Pile Up Billions in Case, Try to Decide What to Do with It, "Wall Street Journal, Dec. 21, 1994.)

(49)以前HMOで医療審査を担当していた女性は、会員のケアに対する保険適用を拒絶した自分の決定を思い出しては心が晴れない気持ちになると述懐している。その女性の次の証言がU.S. News & World Reportの特集記事に掲載されている。「請求の中に実験的あるいは標準以外の要素がある場合、私たちはその点を指摘して支払いを拒絶しました。いつも支払いを拒む理由をあら探ししていたと言えましょう」
(Brink, Susan, "The cancer wars at HMOs," U.S. News & World Report, Feb. 5, 1996.)

(50)1995年3月に、下院議長 Newt Gingrichは、managed care産業について初めての議会による調査を行うよう呼びかけた。「現在、managed careはいくつかの地域で巨大な権力を持ち、幅広いシェアを占めるに至っている。こうした場合、私たちはどのような手続きで管理がなされ、どんなシステムがもちいられ、どんな雇用条件が適用され、プライバシーがどんな状態にさらされているのか、といった点について明らかにすべく、この際managed careについて公聴会を開くべきであります」
(Chen, Edwin, "Gingrich Calls for Investigaion of Managed Care," Los Angeles Times, March 29, 1995.)

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