患者残酷物語パート1

(1) カリフォルニア中部にすむ27才の男性が心臓移植をうけたが、彼は術後わずか4日で退院することになった。その男性の契約しているHMOがそれ以上の入院費用を負担しないと言い出したからである。このHMOは男性の手術創に感染が生じたにも拘わらず、その治療に必要な包帯の経費の支払いさえ拒んだ。この男性は結局死亡した。
(Mitchell, Larry, "Butte urged to immunize against potential HMO ills," The Enterprise-Record, Jan. 21, 1996.)

(2)4才の少女が扁桃摘出術を受けた。少女の加盟しているHMOはこの手術は外来で実施可能なものと見なし、少女は入院せず、たった4時間病院に滞在しただけで帰宅した。少女はその直後に高熱を出した。母親はHMO指定の小児科医に娘を連れていくが、その医師は少女の体温を測ることも、喉を見ることもせず、術後問題が起こった場合普通は行うべき執刀医への連絡もしなかった。少女は結局、手術部位からの出血で死亡した。
(Sherman, William, "Tragic tonsillectomy for girl, 4." New York Post, Sept. 20, 1995.)

(3)アトランタのある母親が午前3時にHMOに電話をかけ、生後6ヶ月の息子が40度の熱を出し、ぐったりしていると告げた。ホットラインの看護婦は、近くにいくつも他の病院があるのに、42マイルも離れたHMO指定病院に子どもを連れてくるよう母親に指示した。その乳児が指定病院に到着した時には、心停止状態で 、髄膜炎菌血症(死亡率の高い急性疾患)による上下肢の重度の障害も起こっていた。乳児は両手と両足を切断する羽目になった。裁判になり、HMOが敗訴した。
(Rabin, Roni, "In Case of Emergency, " Long Island Newsday, Feb. 11, 1996.)

(4) 新生児(男児)が出生後一日間ケアを受けただけでHMOの指示により退院させられ、その直後に死亡した。母親はこの新生児の健康状態に不安を抱き早期退院に反対していたのだが、HMOはそれを聞き入れていなかった。
(Sherman, William, "What his parents didn't know about HMOs may have ..... Killed This Baby," New York Post, Sept. 18, 1995.)

(5) テキサスに住む11才の身体障害児の母親に対しHMOは、酸素療法、看護婦のケア、人工呼吸器付属品、言語療法および失禁ケア用品にかかる費用は、未払い請求分を含め今後これ以上負担出来ないと告げた。そのケースマネージャーはその理由として「あなたの息子さんは費用がかかりすぎる」といったという。そのマネージャーは更に、「お子さんをウイスコンシンの施設に入れたらどうですか。御主人は航空会社にお勤めのようですから、お子さんに会いたくなったら、飛行機で行けるでしょう」とも両親に言ったという。もちろん、施設入所に要する費用をHMOが負担する気はなかった。
(Letter to the California Nurses Association, in response to "Patient Watch" advertisements placed in 1996 in a number of national and local newspapers; name of writer available upon request to CNA.)

(6) メデイケア制度(高齢者向け政府管掌健康保険制度)の適用も受けているHMO会員の高齢男性が肺炎と心発作をおこし、HMOの一次ケア担当医師の同意を受けHMO指定病院に入院しようとしたが、病院はそれを断った。男性は仕方なく一次ケア担当医師に相談しようと移動する途中、死亡した。
(Rosenthal, Harry, "HMOs not popular with Medicare recipients," Today's Sunbeam, Jan. 7. 1996.)

(7) ワシントンの女性が術後の咽喉痛と悪心を訴え、手術を受けた病院を訪れた。HMOはあまり経験を積んでいない医師補佐に診察を任せ、彼女は数種の薬の処方を受け、家で安静にするよう指示された。その夜、この女性は自宅で死亡した。彼女は一週間ほど前の手術中に生じた食道穿孔のために苦しんでいたことが死後判明した。
(Hilzenrath, David S., "Costly Savings: Downside of the New Health Care," Washington Post, Aug. 7, 1995.)

(8) ミルウオーキーのHMOと臨床検査業者が塗沫標本の判定を誤ったため二名の女性を死に追いやったとして2家族にそれぞれ1000万ドル支払うよう命じられた。医療過誤に関する議会公聴会における証言で、その臨床検査施設の経営者は当該HMOの理事を務めており、HMOからの検査依頼の上で便宜を受けていたことも判明した。この臨床検査所は糾弾事実に反論出来なかった。
(No Contest in Pap Smear Misreadings," Washington Post, Dec. 7, 1995.)

(9) 母親が息子をHMO指定医のもとにつれていき、足が骨折したようだと医師に話した。その医師は足のX線検査もせずに骨折はしていないと、二度も念をおすように言った。母親は不安の余り息子を救急治療室に連れて行き、そこでようやくX線検査を受けられることになった。その検査で骨折が認められ、整復処置を受けた。
(Rass, David, "Geting to the nitty-gritty,"Richmond Times-Dispatch, Mar. 18, 1996.)

(10)膝に重度のけがをした15才の少女が両親に連れられてPPO(HMOより拘束度の低い中間型のmanaged care組織、「割引診療契約組織」)の整形外科医のところにやってきた。その医師は、この種の外傷の場合、従来のメスによる手術と最新のレーザー療法があるが 、後者の方が効果的であろうと告げた。しかし保険者側は費用のかかるレーザー療法の費用を支払わようとしなかった。その保険会社のクレーム担当責任者がのべた言葉:「当社は契約上、”キャデラック”治療を提供する義務はありません。普通の治療で充分でしょう。」
(Tomczak, Garrett, "Ignorance isn't bliss on HMOs," Minneapolis Star Tribune, Mar. 23, 1996.)

(11)多忙な医師がHMOの患者を診察する際のコツとして、ハーバード大学医学部は総合検査の時間節減法に関する講座を設けている。そこで教えられている一つの方法。「本当に問題がありそうな部位が耳以外の患者の場合は、これまで念のためにしてきた耳の中を覗く検査は省略したらいい」。
(Uhlman, Marian and Susan FitzGerald, "Is your doctor looking out for you? Or you insurer?" Philadelphia Inquirer, Mar. 24, 1996.)

(12)ニューヨークの男性が原因不明の胃痛のため、自分の所属するHMOから2度も許可を得た上で自宅に最も近い救急治療センターを訪れた。退院後、その男性は、治療費3、220ドルは支払えないとの連絡をHMOから受けた。その理由は、彼が実際に受けた治療がHMOの承認外のものでるいうことであった。その男性の訴えにより、ニューヨーク消費者問題対策室はそのHMOに治療費を支払うよう指導した。
(Sherman, William, "Play By The Rules, "New York Post, Sep. 19, 1995.)

(13)1991年2月1日、高熱と寝汗に悩む男性がHMOの一次ケア担当医師を訪れた。その医師は5分も診察しないうちに普通のかぜと診断した。男性はその後も体調が悪く体重も減少したためHMO非指定の医師を訪れた。その医師は血液検査を行い、患者を病院に紹介した。その男性は結局肝炎の診断を受け1ヶ月間入院した。その費用6、300ドルの支払いをHMOは拒否した。理由は、この男性がHMOの規則に背き、指定病院以外で治療(それは適切な治療なのだが)を受けたから、というものであった。
(Rubinowitz, Susan, "Council panel told very sick have a lot to $weat about," New York Post, Apr. 2, 1996.)

(14)オクラホマの脳神経科医は頭痛を訴える患者にCT検査をおこない、脳に異常を見出した。その医師は患者に更にMR脳動脈造影を受けることを勧めた。この検査を受けるには一日の入院が必要であった。患者のHMOはその費用の支払いを拒否した。それがあくまで検査目的であるというのが拒否の理由であった。その医師は患者への手紙で次のように述べた。「あなたの場合、MR脳動脈造影はやはり医学的に必要であります。」そのことを知ったHMOの医療部長はその医師にあてた書簡の中で次のように警告した。「私どもの会員に対するあなたの手紙は甚だ刺激的であります。HMOとその会員との間に不協和音を生むようなこの種の行為を続けられますとHMOと貴殿との関係に支障が生じることになりかねないことをご承知下さい」
(Trafford, Abigail, "For Some Doctors Today, Mum's the Word," Washington Post Health, Mar. 12, 1996.)

(15)12才の少女は重度の脊柱側彎を矯正する手術を受けるのに半年も待たねばならなかった。遅れた理由は、専門医の手術を受けたいという両親の希望に対し、HMOはその傘下の外科医に執刀させると言い張ったからである。しかし、HMOの中にはこの種の手術が出来る外科医がいないという結論に6ヶ月間かかってようやく達し、HMOは両親の希望を受け入れざるを得なかった。
(Sherman, William, "Girl waited 6 months for spine surgery," New York Post, Sept. 19, 1995.)

(16)ニューヨーク保健局は、数回の心電図で異常を示し、心発作を起こす前に既にひどい胸痛を訴えていた男性の入院を認めなかったHMOとその医師たちを批判した。この患者が苦しんでいる時、医師たちはTylenolを処方しただけで帰宅させていた。
(Sherman, William, "Pity These Poor Patients," New York Post, Sept. 20, 1995.)

(17)82才の女性はそれまで何年にもわたり商品名による薬の処方をうけていたが、メデイケイド(低所得者向け政府管掌健康保険制度)に基づくmanaged careが適用されるにあたり、一般名による薬の処方を受けるよう指示された。この女性はアレルギー反応になやんでおり、一般名で処方された薬を飲んだところ意識を失ってしまった。彼女が運ばれた救急治療室の医師は、もう一度この薬を服用していたら、致命的なアレルギー発作をおこしていたであろう、と述べた。
(Jouzaitis, Carol, "Medicaid is no issue in Tennessee -- It's dead," Chicago Tribune, Feb. 8, 1996.)

(18)2才の男児が重度のひきつけをおこし、40度の高熱も示して入院した。この男児は一晩入院して治療を受けたが、HMOはその費用1、124ドルの支払いを拒んだ。州の機関が仲裁にのりだし、治療費の支払いを命じたことでようやくHMOは支払いに応じた。
(Sherman, William, "Pity These Poor Patients," New York Post, Sept. 20, 1995.)

(19)元気だった2歳の男児が転落事故をおこし、上唇と歯肉の間に棒が突き刺さった状態で近くの病院に連れてこられた。その病院の治療スタッフは男児の状態を診断する上でいくつもミスを犯し、またHMOのコスト重視の方針を配慮するあまり、800ドルかかるCT検査もおこわなかった。CT検査をしていれば男児に脳膿瘍が生じつつあることが確認できたと考えられた。こうした不十分な対応のため、この男児は視力をうしない、脳に障害も残った。
(Anagnos Liapakis Pamela, "The Malpractice Epidemic: Don't Let the Industry Get Away with It," Trial, February 1996.)

(20)ある女性が道路を通行中に転倒し、両側の顎の骨を折ってしまった。口腔外科医は外傷の治療と痛みを和らげるため手術を受けることを女性に勧めた。他の4名の専門医も同意見であった。しかし、女性の加盟しているHMOは彼女の顎のうち半分については外科治療の費用を払おうとしなかった。その理由の説明もなかった。
(Sherman, William, "Managed-care firm wants half-measure," New York Post, Sept. 21, 1995.)

(21)30才の女性が脊髄腫瘍の手術を受けることになった時、HMOは経験豊富な脳神経外科医の執刀を拒み、HMO傘下の経験が比較的乏しい医師に執刀させようとした。最初の経験豊富な外科医は、この患者の腫瘍が生死に関わる重大なものであるから、自分が通常受け取る技術料12、000ドルはいらない、HMOは入院費用だけ負担すればよいとまでいって彼女の手術を担当しようとした。しかし、HMOはその申し出すら拒否した。
(Burke, Cathy, "Dying woman denied doc she needs," New York Post, Sept. 21, 1995.)

(22)ある女性が内耳手術を受けた。その手術では、耳付近の骨を削ることも必要であった。術後、執刀医たちは排液に問題があるのに気づき、患者に一晩入院することを指示した。しかし、彼女の加盟するHMOは、この治療は一切を外来のみで行うべきであるとして、入院費用の支払いを拒んだ。
(Sherman, William, "Casualties of the System," New York Post, Sept. 21, 1995.)

(23)ある女性が卵巣癌の探査手術を受けることになり、彼女の属するHMOは一旦はその手術に同意したが、いざ手術の準備が整った段階でなぜか同意を撤回してしまった。その後の交渉により、30日後になってようやくHMOの最終的同意を取り付けられることになったが、執刀した医師は案の定、卵巣に悪性新生物を見つけ摘出した。
(Hiltzik, Michael A. and David R. Olmos, "A Mixed Diagnosis for HMOs," Los Angeles Times, Aug. 27, 1995.)

(24)23才の糖尿病に悩む女性が自分の所属するカりフォルニアのHMOに尋ねた。「なぜHMOは血糖値検査キットの費用を支払ってくれないのですか?」この件について新聞取材を受けたHMOの役員は次のように答えたという。「当社は州政府の定めたすべての便宜を会員の皆様に提供しております」これはつまるところ、「会員がHMOから今以上の給付を望むなら、それを強制する法律を制定するよう働きかけたらよいではないか」という意味なのであろう。
(Marsh, Barbara, "A Diabetic's Dilemma," Los Angeles Times, Aug. 27, 1995.)

(25)48才のアリゾナの女性が多発性硬化症と診断され、一次ケア担当医師から専門治療センターに紹介された。彼女はそのセンターを3度訪れ治療を受けた。しかし、HMOはそこでの治療費の支払いを拒んだ。彼女に要したカテーテルの費用の支払いさえ拒んだ。その理由:「この女性の一次ケア担当医師は専門治療センターへの紹介に際して正しい手順を踏んでいない」
(Madrid, David, "Woman 'punished' for having chronic disease." The Tucson Citizen, Jan. 9, 1996.)

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