118. 室戸市の吉良

著者=近藤 純正
室戸の近くには、台風による強い風雨を防ぐために造られた「水切り瓦」や 「石ぐろ」があり、よい景観を保っている。昭和の始めまで使われていた遊山箱など が保存されていて、懐かしく思った。 (完成:2013年7月14日)

トップページへ 小さな旅の目次



高知県東部の室戸付近は台風銀座と呼ばれ、風雨の強い地域である。そうした気候に 合わせて家や町並みが作られている。

国立室戸青少年自然の家に一泊した翌朝の2013年4月23日、石川昇所長に奈半利駅まで 送っていただく途中、吉良川の町並みを見学した。ここは国選定重要伝統的建造物群 保存地区となっている。

吉良川の濱田竹央さんに案内していただく。パンフレット「土佐東方見聞録散策 マップ」=白壁と水切瓦の町・吉良川編=には次の説明がある。

吉良川・町並みの特徴
吉良川町の集落は、海岸に近い下町地区と、山側の上町地区で構成されています。 下町地区には旧土佐街道の両側に切妻造りの町家が建ち並び、強い風雨から土佐漆喰 (しっくい)の壁面を守る水切り瓦が美しい伝統的建築の町並みがみられます。 上町地区では、江戸時代中期頃の方形に近い農家型の地割りで、周囲に「石ぐろ」 を巡らせ、上町地区の景観を特徴あるものにしています。

まず、下町地区を見学する。昔の土佐街道には商家が並び、玄関の横につくられた 上下開きの「ぶっちょう」がある。閉じれば、雨戸になり、開けば広縁になる (写真118.1)。

雨水から蔵を守るために作られた水切り瓦は、土佐漆喰の白壁にひさしのように四重 になり、縁飾りのように美しい(写真118.2)。

ぶっちょう
写真118.1 「ぶっちょう」のある旧商家。

水切り瓦
写真118.2 水切り瓦のある蔵。

レンガの家
写真118.3 レンガの家。

少し風変わりのレンガの家があった。これは商人が京阪神からのあきないの帰りに 船底に積んで持ち帰り、吉良川の家に使ったもので、建築物に近代の風を吹かせたと いう(写真118.3)。

石ぐろ
写真118.4 「石ぐろ」のある通り(左)と「石ぐろ」の部分的拡大(右)。

次いで上町地区の「石ぐろ」のある通りに入る(写真118.4)。形の揃った小石を河原 や浜から拾ってきて、ほどよく割って積み重ねて塀を作り、強風から家を守る構えで ある。まさに芸術作品である。時間をかけて作ったものだ。昔は現代と違い、時間の 流れがゆっくりとしていたことを感じさせる。

携帯用の酒燗器と遊山箱
濱田武央さん宅に上がらせていただくと、昔の道具の数々がある。「これは何で しょうか?」と、金属製の珍しい品を見せていただく(写真118.5の右)。携帯用の 酒燗器である。昔あった風呂桶のミニ構造である。写真で示す円筒に炭を入れて、 右のタンクの湯を温め酒燗する構造である。また、小引き出しが沢山ついた携帯用 御馳走入れもある(写真118.5の左)。

昔は、現代に比べれば、物質的に貧しい時代であったが、余裕があった。それは、 優雅で裕福な暮しである。

私は子どものころを思い出した。ご馳走入れは遊山箱である。節句などの祝い事の日に 野山や海や河原へ「ゆさん」に行って時を過ごしたものだ。今でいう弁当箱として 持っていく風習があった。

優雅な暮らしは、現代でいう経済的豊かさではできなくなってきている。私たちは、 どんな社会を目指しているだろうか、考えさせられる昔の生活の品々である。

酒燗と遊山箱
写真118.5 携帯用の酒燗器を前にした濱田竹央さん(右)と、小箱のご馳走入れを 重ねた遊山箱(左)。

トップページへ 小さな旅の目次