K169. 最低気温、凍霜害の予測(3)トウモロコシ露地栽培


著者:近藤純正
作物体の最低温度の予測を目指す研究である。この第3報では、つくば市柳橋に おける露地栽培のトウモロコシが凍霜害を受ける確率について、過去20年間の 館野高層気象台の最低気温を用いて概算した。

つくば市地域では、春の彼岸を境に降霜のリスクが低くなるので、多くの農家は 一斉にトウモロコシの苗を植えはじめる。この時期よりも10日ほど早く苗植え (定植)する早生トウモロコシは消費者の需要はあるが凍霜害のリスクが高い。

凍霜害を受ける確率は、3月10日までに定植する場合は35%、15日までに定植する 場合でも20%、彼岸過ぎ数日後なら0%となる。この確率は気象台から西方に 約4km離れた畑における概算値であり、今後、現地観測によって確認する 必要がある。

早期栽培では、週間天気・10日間天気の最低気温予報値をじょうずに利用すれば、 凍霜害は軽減できる。 (完成:2018年8月1日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2018年7月25日:素案の作成
2018年7月27日:ビニールシートを外す日を訂正
2018年7月29日:備考1を追記

    目次
        169.1 はじめに
        169.2 対象とする畑      
        169.3 凍霜害を受ける温度(仮定)
        169.4 気象台データによる3日間以上降霜ナシの確率
        169.5  週間天気・最低気温予報の利用
        まとめ
        参考文献
                  


研究協力者(敬称略)
柳橋成一
村上史郎
市村典子

169.1 はじめに

茨城県つくば市地域では、トウモロコシの栽培としてビニールハウス内の 「ハウス栽培」、プラスチックフィルムや稲わらなどで土壌の表面を二重被覆 する(べたがけ+浮きがけ)「二重被覆のマルチ栽培」や「露地栽培」などあり、 高い糖度、早い出荷など、農家ごとに工夫した生産が行われている。

春の彼岸を境に降霜のリスクが低くなるので、露地栽培農家では一斉に トウモロコシの苗を植えはじめる。それよりも10日ほど早く苗植え(定植) する早生トウモロコシは消費者の需要はあるが凍霜害のリスクが高い。

本シリーズ研究の第1報と第2報では翌朝の最低気温の予測を目指した基礎 観測・解析を行った(「K166.最低気温、凍霜害の予測 (1)秦野市千村」「K168.最低気温、凍霜害の予測 (2)夏の住宅街」)。

この第3報では、3月上旬に定植する露地栽培の早生トウモロコシ畑の温度予測の ための基礎となる気温・葉面温度の観測を行う前に、その準備として、館野高層 気象台における過去20年間の最低気温を用いて凍霜害を受ける確率を概算する ことである。


169.2 対象とする畑

つくば市柳橋の畑を対象とする。この畑は、つくばエクスプレス線の万博記念駅 の東約2km、館野高層気象台の西約4kmにある。畑の南側には首都圏中央連絡 自動車道が東西方向に延び、この付近は高架構造で、その下側は風が通り抜ける ようになっている。

トウモロコシ苗の植え付け前の2月から畑には厚さ0.75mmの薄いビニール シートのトンネル(高さ約0.7m、幅1.3~1.4m)が作られる。3月上旬~中旬に 苗を植え付けたあと3日ほどで根付き(活着)、ビニールシートは雄穂が出穂し 始めに、まだ頂上の本葉から飛び出る前、開花前の7~10日前に取り除く。

苗が3日間ほどで活着すれば、凍霜害は受け難くなる。それゆえ、 3日間連続して低温に遭わない ように植え付け日を決めなければならない。

備考1(トンネルのビニールシートの取り外し日)
一般的なトウモロコシのトンネル栽培では、2月14日播き後75日で雄花が開花する。 その頃までにトンネルは外す。つくば市では通常、4月20日を過ぎたころ外す。 つくば市付近では二十四節季の穀雨(太陽の黄経が30度、4月20日または19日) を過ぎると遅霜がおりなくなると言われている。

図169.1は畑の写真である。図169.2はトウモロコシ苗を定植する3月上旬の 苗の大きさを示す写真である。

柳橋の畑
図169.1 つくば市柳橋の畑(2018年7月18日撮影)

苗の大きさ
図169.2 トウモロコシの苗を植えるときの苗の大きさ(2018年7月18日撮影)。  畑に実が落ちて自然に生えていたトウモロコシを撮影。


169.3 凍霜害を受ける温度(仮定)

福島県農業振興課(2018)がまとめた技術対策資料によれば、果樹・野菜・花き・ 水稲・麦類・桑・飼料作物が凍霜害を受けるおそれのある温度、果樹については 「安全限界温度」(花芽の温度がこの温度以下に1時間おかれた場合、花芽が障害 を受けるおそれがある温度)、野菜などについては「霜害発生限界温度」は、 作物種類と生育ステージによって異なるが、-2℃~-3℃が目安である。

前報「K168.最低気温、凍霜害の予測(2)夏の住宅街」 で示したように、微風晴天夜の葉面温度は1.5m高度の気温より2℃前後の低温 (夏:有効放射量=-50W/m2の条件)、あるいは4℃前後の低温 (秋~春の乾燥期:有効放射量=-100W/m2の条件)となる。

トウモロコシ苗の定植日前後は薄いビニールシートで覆われているので、 定植後の葉面温度が凍霜害を受けるのは、気温が0℃以下のときと仮定すること ができる。

2017年3月の定植は6日と10日と14日に行い、6日の定植の苗が凍霜害を受けた。 17日に植え直した苗は凍霜害を受けなかった。 しかし2016年、2018年は凍霜害を受けなかった。次の節で示す最低気温の表169.1 からもこのことは裏付けされるので、上記の仮定は近似的に正しいとみなして よいだろう。


169.4 気象台データによる3日間以上降霜ナシの確率

前記のように、定植後に最低気温が0℃以下になればトウモロコシは凍霜害を受け、 定植3日後までに活着すれば凍霜害は受けないと仮定する。

表169.1は館野高層気象台の過去20年間(1999年~2018年)の3月の日ごとの 最低気温である。赤数値は最低気温が0℃以下の日、緑塗潰しは0℃以上の日が 3日間以上連続する期間を表している。

3月10日までに定植を終える場合、2001年、2003年、2004年、2008年、2011年、 2014年と2017年の7年間は凍霜害から避けられないが残りの13年間は避けられる。 すなわち、35%の確率で被害を受ける。つまり、3年に1回の割合で被害を 受けて、植え直しすることになる。

同様に、3月15日までに定植を終えれば5年間(25%)は凍霜害を避けられず、 3月24日以後に定植すれば凍霜害は受けず確率は 0 %となる。

ただし、これらの確率は適切に定植日を選んだ場合であるが、参考とすべき目安 である。

表169.1 館野高層気象台における1999年~2018年まで20年間の3月の日ごとの 最低気温の表。
赤文字は氷点下の日、緑塗潰しは3日間以上氷点下にならなかった日
最低気温の表


169.5 週間天気・最低気温予報の利用

天気予報の気温は、翌日までなら誤差は小さいが、3日先までとなれば、誤差が 大きくなる。1日ほど前後にずれることなどある。これらを考慮して、週間天気・ 10日間天気の最低気温予報値をうまく利用して被害を軽減させよう。

新聞やテレビでは主な地点について3日先あるいは1週間先まで日ごとの最低・ 最高気温予報値を報道している。インターネットでも週間天気・10日間天気の 最低・最高気温予報値を見ることができる。

たとえば、日本気象協会では市町村ごとに10日先までの予報値を発表している。 ウエザーニュースでは都道府県の主な地点の1週間先までの予報値を、気象庁 ホームページの週間予報では各都道府県の南部・北部、あるいは東部・西部・ 中部ごとに予報値とともにずれの幅も掲載されている。

予報を必要とする対象地点が予報地点から多少離れていても、経験をつめば 予報値と現地のずれもわかってくるので利用価値はある。


まとめ

この第3報では、つくば市柳橋における露地栽培のトウモロコシが凍霜害を受ける 確率について、過去20年間の館野高層気象台の最低気温を用いて概算した。

トウモロコシ苗の定植日前後は薄いビニールシートで覆われており、定植後に 凍霜害を受けるのは、気温が0℃以下のときであると仮定した。

凍霜害を受ける確率は、3月10日までに定植する場合は35%、つまり3年に1回の 割合で植え直しすることになる。

同様に、15日までに定植する場合の被害確率は20%、彼岸過ぎ数日後なら0%と なる。この確率は気象台から西方に約4km離れた畑における概算値であり、 今後、現地観測によって確認したい。

早期栽培では、週間天気・10日間天気の最低気温予報値をじょうずに利用すれば、 凍霜害は軽減できる。

保温性の高い材料・設備を用いれば凍霜害が軽減できるが、経費・労力 と儲けの兼ね合いで、各農家は工夫・選択している。こうした努力によって 農業は進歩・発展している。


参考文献

福島県農業振興課、2018:作物別凍霜害及びひょう害技術対策(平成30年3月12日)。 12pp.

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