M40.温暖化についての Q&A
	著者:近藤純正

	日本のバックグラウンド温暖化量(都市化などの影響を含まない温暖化量)
	と都市化による昇温量、温室効果、温暖化問題についてのQ&Aである。
	これは講義「M41.日本のバックグラウンド温暖化量と都市昇温」において
	出された質問に対する回答である。
	(完成:2008年6月25日)

	目次
	1.温室効果についてのQ&A
	2.日だまり効果の補正についてのQ&A
	3. 気温の経年変化についてのQ&A
	4. 太陽の黒点数と日射量についてのQ&A
	参考書
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1.温室効果についてのQ&A

Q1.1 ビニールハウスのビニールは、赤外線を反射するのではないか?  ビニールシートは薄いのに、赤外放射を吸収し、同時に赤外放射を放射する だろうか?(Y.S.)


A1.1 講義では長波放射(波長3μm以上)のことを”赤外放射”と 呼んだかもしれません。学問分野によっては呼び名が多少違っており、誤解を生む ので最近、私は誤解を生まないように”長波放射”と呼ぶことにしています。

気象学では、可視光を含む太陽放射(波長0.15~3μmの範囲に99%のエネル ギーが含まれる。μm=0.001mm)を短波放射または日射と呼ぶ。 一方、地球・大気の温度は絶対温度300 K 前後(摂氏の常温の 15℃前後)であり、大気や地物が出す放射は波長10μm付近を中心とし、 大部分のエネルギーは3~100μmの範囲に含まれる。これを長波放射、赤外 放射、または大気放射と呼ぶ。一般的には、”赤外放射”は赤色より波長の 長い(波長0.78μm以上の)放射のことであり、気象学でいう赤外放射との 間で誤解を生むので、3μm以上の放射を”長波放射”と呼ぶことにしている。

話を本論にもどします。温室のガラスやビニールは長波放射をほとんど透過しま せん。ビニールについての詳しいデータが手元にないのですが、ガラス (フリントガラス、クラウンガラスなど)は0.3~2μmの波長を透過しますが、 3μm以上ではほとんど透過しません。水の薄膜(10μm=0.01mm)は波長 3μm以上の長波放射を30%程度透過しますが、水の厚さが50μm(0.05mm)に なると透過率は1%以下となります(水環境の気象学、図7.1)。

長波放射を透過するポリエチレン薄膜について実験したことがあります。 正確な数値は忘れましたが、厚さ10μm程度の薄膜では長波放射の透過率は 90%程度あり、これを放射温度計の風防用に利用したことがあります。この ようにポリエチレン薄膜は長波放射を透過するので、大気放射計の風防用の カバーとして利用されています。

温室に用いる風防用材は日射(短波放射)を透過し、長波放射(大気放射) を透過しない部材が必要なので、ビニール薄膜が用いられています。ビニール の替わりにポリエチレン薄膜を用いると温室効果はあまりなくなります。 ただし、外の冷気を入れず、内側の暖気を逃し難いという風防効果はあるので、 温室には少しは役立つでしょう。

2.日だまり効果の補正についてのQ&A

Q2.1 岡山県内陸の津山観測所が桜並木の影響下で観測した気温について、 補正すれば有効データとして使用できるのでしょうか? 補正方法は決められて いるのでしょうか。(T.A.)


A2.1 はい、気温の補正をすれば、有効データとして利用できますので、 補正して日本のバックグラウンド温暖化量の評価地点の1つとして用いました。 つまり、桜並木の成長によって、津山は周辺の6アメダスと比較して0.4℃ ほど年平均気温が上昇しているので、これを補正しました。他の地点について も同様に、日だまり効果(一部に都市化の影響も含む)による気温上昇が 補正できた地点の気温データを平均して日本のバックグラウンド温暖化量が もとまったわけです。もちろん34地点の中には補正量ゼロの数地点も含みます。

日だまり効果の補正方法は決められているわけではなく、各地点ごとに周辺に ある複数の観測所における平均気温との差から日だまり効果による昇温量を 求めました。この際、年平均風速の経年変化、その他の情報を参考にしました。

3. 気温の経年変化についてのQ&A

Q3.1 日本のバックグラウンド温暖化量の経年変化の図において、 各気温の値はアメダスの年平均値でしょうか?(T.A.)


A3.1 最初から無人のアメダスの観測値は図40.1には 含まれていません。 アメダスのうち、旧測候所(特別地域気象観測所)や気象台・測候所34地点の 年平均気温の平均値が図40.1にプロットされています。 青色四角印が年々の値、薄い緑四角印が5年移動平均値です。

全34地点の気温変動
図40.1 筆者が選定した気候変動観測所の全34地点平均の気温(日だまり 効果、都市化による影響、観測法の変更による補正済み)の経年変化、 各プロットは毎年の値、緑四角印は5年移動平均値、赤線はわかり易く入れた 長期的な変動傾向、薄オレンジ直線は1881-2007年間の直線近似である。 赤矢印は気温ジャンプの年、薄い青色の縦帯は東北地方で冷夏による大凶作が 頻発した時代を示す(「研究の指針」の 「K40.基準34地点による日本の温暖化量」の図40.3、または「身近な気象」の 「M41.日本のバックグラウンド温暖化量と都市昇温」 の図41.5に同じ)。

4. 太陽の黒点数と日射量についてのQ&A

Q4.1 太陽黒点の変動による太陽からの放射量は何%変わるので しょうか?(T.A.)


A4.1 少しまえおきが必要です。日射量など熱流量(熱フラックス: 単位時間単位面積を流れる熱)の測定は、長さや時間や重さなどの物理量に 比べて精度が悪く、物理実験でもっとも難しい要素です。そのため、地上での 日射量の観測精度は悪い場合は50ワット(以下、単位面積1平方メートル 当たりの単位で表記することにします)、よい場合でも通常5~10ワット程度 の精度です。

太陽定数(太陽地球間が平均距離にあるとき、放射の減衰がない大気の上端に おいて太陽光線に垂直な面積1平方メートルに入る太陽放射量: 1365ワット)の1%つまり14ワットの精度で観測することは、普通には困難 です。

1960年代に気球を数十kmの上空に揚げて太陽放射量を観測し、それを 大気上端に外そうして太陽定数を求める古典的な方法がありました。この方法 だと、太陽定数には1%(約10ワット)程度の変動がありました。

最近でも観測は難しいのですが、人工衛星による観測では太陽定数の 変動は1~2ワット程度です。太陽放射量は相対黒点数(ウォルフ黒点数: 黒点群と黒点数の両方を考慮した値)が増えれば多くなり、減れば少なく なります。

地球に入射する太陽放射量が仮に1.4ワット(0.1%)増えると、地球・大気系 の有効温度(地球表面と大気全層を平均したような温度)が何度上昇するかを 計算してみます。地球全体の反射率(アルベド)その他が変わらないとすると、 有効温度は0.05℃程度、地上付近は0.08℃程度の上昇となる(「身近な気象の 科学」のp.8を参照、ただしp.8では太陽定数が1%変化した場合の例が 示されている)。

この温度上昇は、黒点数の変動にともなう北日本における気温の上昇量 (0.5℃程度)より1桁も小さい。 したがって、太陽放射量の変動が気温に直接的に影響するのではないことが わかる。これは、世界的な大規模火山噴火と東方地方における気温下降の関係 に似ている。

図40.2は宮城県金華山における夏3ヶ月平均気温の経年変化である。大規模 噴火の直後の年は黒印でプロットしてあるように、平均気温が1~3℃も 低下している。

金華山の気温偏差
図40.2 近年165年間の6~8月の気温偏差の年々変動。ただし、天保年間 は「天候日記」の資料に基づき推定、1882~1991年は金華山灯台の資料、 1992年以降は石巻測候所の資料に基づく(「3.気候変動と人々の暮らしー 歴史資料に学ぶー」の図3.6、「M41.日本のバックグラウンド温暖化量と都市 昇温」の図41.8に同じ)。 (「地表面に近い大気の科学」 (東京大学出版会)、図9.3 より転載)

大規模火山噴火によって地球・大気の全体が受ける太陽放射量は0.8%減少する。 この場合、地球が放射のやりとりで平衡する温度は約0.5℃低下することに なるが、実際には、さまざまな複雑な過程が働き、気温が下がるところと 上がるところがまだら模様にできてしまう。このように、気候変動はとても 複雑である(「身近な気象の科学」、p.84を参照)。


参考書

近藤純正、1987:身近な気象の科学.東京大学出版会、pp.189.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学.朝倉書店、pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学.東京大学出版会、pp.324.

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