M33.水蒸気(要点)
	著者:近藤純正

	大気中に含まれる水蒸気量の全量、水蒸気が凝結する際に解放する
	潜熱、その潜熱による周辺大気の温度上昇、水蒸気含有量の表し方
	と飽和水蒸気量など、基本的なことがらについて説明する。
	(完成:2008年1月10日)

    目次
	1.可降水量
	2.潜熱と潜熱輸送量
	3.水蒸気量の表し方
	4.飽和水蒸気量
	5.雲中に含まれる液体水の量
	参考書
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1.可降水量

大気中に含まれる水蒸気量を液体水に換算した量を可降水量という。つまり 可降水量とは、大気中の水蒸気をすべて降水として降らせたとき、降水量が 何mmになるかを表すものである。降水量は通常 mm の深さで表すが、 正式には、1mの面積当たりに何 kg が降ったかの 単位(kg m-2)で表す。

可降水量の目安は、
世界平均:30mm(=30 kg m-2)程度
極域~熱帯:5~50mm(=5~50 kg/m)程度
である。

2.潜熱と潜熱輸送量

水蒸気が凝結し水になるとき潜熱が解放され、逆に水が蒸発するときは 潜熱を必要とする。水が氷結するとき潜熱が解放され、逆に氷を融解 させるには潜熱を必要とする。

したがって、エネルギーの高さは水蒸気、液体の水、氷の順序である。つまり、 大気中に水蒸気が含まれていれば、その分だけエネルギーが潜んでいること であり、水蒸気の移動(水蒸気輸送)のことを潜熱輸送ともいう。

単位質量当たりの潜熱の大きさは温度によってわずか異なるので、 ここでは0℃のときの値を示す。
水の蒸発の潜熱(0℃)=2.50×10 J kg-1=600 cal g-1
氷の融解の潜熱(0℃)=0.334×10 J kg-1=80 cal g-1
氷の昇華の潜熱(0℃)=(2.50+0.334)×10 J kg-1
J:ジュール、cal:カロリー

これらの温度依存性は「水環境の気象学」の表2.3及び p.130を参照のこと。

たとえば、1日(=0.864×10 s)当たり水1mm(=1 kg m-2) を蒸発させるに必要な潜熱は、

蒸発速度×潜熱
=(蒸発量÷時間)×潜熱
=(1 kg m-2 / 0.864×10s) ×2.50×10 J kg-1
=(1.16×kg s-1m-2)×2.50×10 J kg-1
=28.9 J s-1m-2
=28.9 W m-2
J:ジュール、W:ワット

したがって、1日当たり1mm/d (=1.16×kg s-1m-2) の蒸発速度は、地表面から大気へ向かう水蒸気輸送量 (=1.15×10-5kg s-1m-2) であり、それは28.9 W m-2の潜熱輸送量に相当する。

次のように記憶しておくこともできる。
潜熱輸送量 100 W m-2は、蒸発速度で3.53mmd-1 =1287mm y-1

注意:正しくは「蒸発量」と単位時間当たりの「蒸発速度」の意味は異なる のだが、蒸発速度のことを蒸発量と呼ぶこともあるので注意すること。

3.水蒸気量の表し方

水蒸気量は相対湿度や、単位体積(1m)の 空気に含まれる水蒸気の質量つまり水蒸気密度(絶対湿度ともいう) (g m-3、またはkg m-3)、あるいは水蒸気 が及ぼす圧力つまり水蒸気圧(hPa:ヘクトパスカル)で表すことが多い。 ほかに露点、混合比、比湿などで表すこともある。

1)水蒸気圧、e(hPa)
2)水蒸気密度、a(kg m-3、g m-3
3)相対湿度、e / eSAT (%で表す場合もある)
4)露点、 0℃以下で氷の面に対して飽和のときを霜点という
5)混合比=水蒸気の質量÷乾燥空気
6)比湿=水蒸気の質量÷湿潤空気

eSAT:飽和水蒸気圧(温度による、次項の表を参照)
乾燥空気:空気から水蒸気を除いた窒素、酸素、などの量
湿潤空気:水蒸気を含む全気体の量
混合比と比湿はともに、g kg-1または kg kg-1で表す。
気圧の高い下層大気では、混合比≒比湿の関係が成り立つ。

4.飽和水蒸気量

空気が水蒸気で飽和したときの水蒸気圧を飽和水蒸気圧、水蒸気密度(絶対湿度) を飽和水蒸気密度(飽和絶対湿度)という。これらは温度だけの関数である。 比湿は温度のほか気圧の関数である。

表33.1 温度 T と飽和水蒸気圧 eSAT(hPa)、 飽和水蒸気密度 aSAT(g m-3)、
飽和比湿 qSAT(g kg-1) の関係。いずれも水面上に対する値で、
0℃以下では過冷却の状態、比湿は大気圧=1013.25 hPa の場合。
「水環境の気象学」表2.3、「地表面に近い大気の科学」表1.1と付録 A の 抜粋


                     T(℃)   eSAT         aSAT         qSAT

                   -20    1.2540       1.0732       1.7701
                      0        6.1078       4.8447       3.7579
                     10       12.27         9.39         7.57 
                     20       23.37        17.27        14.47
                     30       42.43        30.33        26.47
                     40       73.78        51.05        46.57

                    100     1013.25       588.35      1000.00


この表は水面上(0℃以下のときは過冷却水面上)における飽和水蒸気量で あるが、氷の面に対する値はこれよりも小さい。

その差( eSAT-e ) が 0.2 hPa 以上になる温度は-5~-25℃ 付近にあり、氷点下の雲内で過冷却水滴から氷粒子に向かって水蒸気が 流れ、氷粒子の表面に昇華して雪結晶として急速に成長する。雪結晶が 成長すると、落下速度の違いにより集合し、雪片を形成する。

雪片が下層の0℃より高温の気層にきて、とけて地上に降るのが雨である。 多くの降雨は、この過程によるものである。

例題:部屋の中の水の量は?
気温30℃で部屋(3m×4m×8m=96 m)が相対湿度100%で 飽和になった。乾燥機を用いて湿度50%にしたい。その際、いくらの水が 出るか?

解答: 上の表33.1より、30℃の飽和水蒸気密度=30.33 g/m の50%が液体水になる。ゆえに、(30.33g/m×0.5)×96m =1,456g

5.雲中に含まれる液体水の量

雲は水蒸気が凝結してできた微水滴からなる。単位体積の空気 (1m)中に含まれる微水滴の量を雲水量という。 雲水量の目安は次の通りである(「地表面に近い大気の科学」表2.3より抜粋)。

層雲・・・・・・0.1~0.2 g m-3
積雲・・・・・・1 g m-3
積乱雲・・・・・2~3 g m-3
人工霧・・・・・0.1~10 g m-3
釧路の霧・・・・0.02~0.35 g m-3

雲の層の大気温度にもよるが、雲層内の大気中の水分は微水滴と水蒸気 から成るが、激しい上昇気流で水滴や大きな氷粒子(ひょう、あられ)が 浮遊している場合を除けば、大気の下層部では水蒸気が多いとみなしてよい。

参考書

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学.朝倉書店、pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学.東京大学出版会、pp.324.

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