M30.大規模林野火災と異常強風
	著者:近藤純正

		要旨
		備考(地上風の特徴、突風率)
		参考書
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2008年3~4月開催の市民講座「緑の家学校」連続講座の第3回 後半の要旨と質問・回答である。

1983年4月27日の昼前後に、東北地方で突風状強風が吹き、各地でほとんど 一斉に山火事が発生し、大規模化した。この火災をもたらした強風は地上風 の特徴が顕著に現れたものである。地上風は、その地域の地表面のでこぼこ 度(粗度)と、気温の上下の差(大気の安定度)に大きく支配される。 (要旨の完成:2007年12月25日)


要旨

東北地方の山々から残雪が消え、桜の花前線が北上するころ、樹木は新芽 そして新緑への準備がはじまる。この季節は好天で異常乾燥のことが多い。 山の地表は乾いた落ち葉、枯れ枝や草で覆われている。そして、山作業 や山菜採りの人々が山野に入る。

こうした季節の1983年4月27日、東北地方の各地で山火事がほとんど一斉に 発生した。この火災による焼失面積は、全国で1年間に焼ける山火事の総 面積に匹敵した。

この日は数日前から連日、異常乾燥注意報がでていた。そのため、夜の放射 冷却で内陸は冷え込みが激しく、朝方地面付近には冷気層が形成された。

上空は前日の夕方から強風になっていたが、この冷気層が上空の強風を阻んだ ために、地上は微風または無風になった。これが火災当日の朝方の状況で あり、一般の人々はもちろんのこと、予報・消防関係者にも油断があった。

ところが夜が明けて、太陽熱で地面が熱せられ、冷気層が消えると、それまで 阻まれていた上空の強風が一気に降りてきて、地上で突風状強風がはじまった。 これが昼ころであり、山作業の焚き火が燃え広がり手の施しようがない 火事へと広がっていった。

このときの大気は、下層からは太陽熱で加熱され、上空には寒気の流入が 重なり、下層は高温、上層は低温という不安定状態になっていた。 不安定状態では、風向・風速の時間的変動が激しく、火災現場では飛び火が 盛んに起き、山火事は大規模化した。

備考

(1)地上風の特徴
地表面近くの風は、地表面の粗度(風に対する地表面のでこぼこ)と、大気の 安定度(上下の気温差の大きさ)によって、風速変動の大きさ(風の 息)が変わる。海面や平坦地では平均風速は大きいが、高さによる違いは少なく、 時間的な変動も小さい。一方、森林や都市など地物によるでこぼこが大きいところ では、上空の風が同じであっても地面近くでは風は摩擦によって弱められ るが、風向・風速の変動(風の息)は激しくなる。

風速の特徴に大きく影響する大気安定度について、 「大気安定度(要点)」に詳しい説明がある。

(2)突風率
平均風速は通常、10分間の平均値をいう。最大瞬間風速と平均風速の比を 突風率と呼ぶ。上述のとおり、突風率は地表面の種類と大気の安定度に依存する。 大まかな目安は次の通りである。

海面など地表面が比較的平坦で滑らかな場所で、突風率=1.5程度
畑地・林地や住宅地・都市などで、突風率=2~3程度
したがって、地形・地物が複雑なところでは風が弱くても、瞬間風速が 強くなることがあるので注意が必要である。

これは、風速の観測高度(田舎で10~20m程度、大都市で30~60m)に おける値である。突風率は下層ほど大きく、上空へ行くにしたがって、 小さくなる。つまり上空ほど平均風速は大きいが風の息は小さくなる。

参考書

近藤純正、1987:身近な気象の科学(東京大学出版会):
6章「大規模林野火災と異常強風」、15章「山と風」.

近藤純正ホームページ:
「身近な気象」の「M10.入門:境界層と風」
「研究の指針」の「基礎1:地表近くの風」

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