M14.境界層の日変化(Q&A)
著者:近藤純正
	● 気温・水温の日較差についてのQ&A(5題)
	● 大気安定度についてのQ&A(4題)
	● 地中温度の日変化・年変化についてのQ&A(4題)
	● 乱流による鉛直輸送についてのQ&A(4題)
	参考文献
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テキストの本文「M11.入門2:境界層の日変化」で学んだおもな内容は、
・日射量と気温日較差との関係、
・地表面の種類による地表面温度の日変化、
・海面水温の日変化と風速の関係、
・大気・地中温度の時間変化と熱輸送量との関係、
・地温の日変化は深さによって振幅と位相がかわる、
・大気の安定度を判断する方法、
であった。 この章は「入門2:境界層の日変化」の講義 で出た質問に対する Q&A である。 (完成:2005年10月13日、加筆:10月18日)


● 気温・水温の日較差についてのQ&A

Q11.1 以下に掲げた図11.1に示す関係からわかることは、次の通りでしょうか?
(1) 平均的にみると気温日較差と日射量は比例関係にある。
(2) 日射量がゼロの日でも日較差がゼロでないのは、地面からの赤外 放射や人間の排出する熱エネルギーも関係しているからでしょうか?

前橋の気温日較差
図14.1(図11.1に同じ) 前橋における1日の日射量(全天日射量)と気温 日較差(=最高気温ー最低気温)の関係。

A11.1 (1)は正解。(2)は次のように考えてはどうでしょうか。 人工熱排出量が日変化することの影響も僅かあるでしょう。それよりも 大きな影響として、前橋で日射量がゼロの日でもその周辺では晴れ間もあり、 そこで温められた空気が日中前橋に流れてくることがありそうです。

風速が10m/sの場合、空気は1日に100km弱も移動するので、前橋周辺 100km程度の範囲内では空間的に気温差もあり、その空気が流れてきて 気温変動が生じたとも考えられます。

なお、気温日較差=(最高気温ー最低気温)の値について、最高気温は日中 に起きたとは限らないし、最低気温は朝方に起きたとも限りません。

(3)として、プロットにばらつきがあるのは、日によって風速や風向、 地面の湿り具合などが違うこと、さらに前線の通過などが影響している のでしょう。


Q11.2 内陸よりも沿岸で気温日較差が小さいのは、海陸風の海風の影響と いうことでしょうか?

A11.2 はい、その通りです。そのほかに、海陸風が吹かない日でも気圧 配置によって海からの風が吹く日もあり、気温日変化の少ない海上の空気 が流れてくるので沿岸では気温日較差は小さくなります。なお、図11.1と 図11.2は3~5月のデータであり、この関係は季節によって多少変わると 思います。いろいろな地点についての気象庁データがインターネットで 公開されているので、調べると面白い結果がわかるでしょう。


Q11.3 海風は陸地のどこまで吹くのですか? 例えば関東地方ではどこまで 海風が及ぶのですか?

A11.3 海風は通常、海岸線から20~50km程度まで吹くといわれています。 しかし、内陸に平地~台地がありその地域で平地・台地風と呼ばれる循環流 が発生したり、内陸平地~斜面域で谷風循環が発生するような場合、最初に 沿岸域で発生した海風が時間の経過とともにそれら循環流と結合し、大規模 循環流となることがあります。

関東平野の例では、こうして生れた大規模循環 流は碓氷峠を越えて佐久盆地まで及ぶことがあります。京浜地区で発生した 汚染物質がこの大規模循環流に乗って内陸深くまで運ばれることがあります。 本ホームページ「研究の指針」の 「基礎2:気温・地温と局地循環」の 2.8節「循環流の役割り」と図2.12を参照してください。


Q11.4 陸地に比べて海面の温度日較差が小さいのは、蒸発による気化熱の 影響ですか?

A11.4 はい、蒸発の気化熱の影響もあります。そのほかに、陸地の水田水温 の日較差は海面温度の日較差よりはるかに大きいことを想像してみてくだ さい。水田の水深は0.1m程度であるのに対して、海は数百~数千mの深さが あります。海面に入射した太陽光は海水による吸収や散乱を受けながらも 数mの深さまで進入し、さらに微小ながら100mほどの深さまで太陽光が 入ります。

図14.2を参照すると、透明度のよい海水では水深30mでも、水面における太陽光の 10%が透過します。かなり濁った沿岸水でも水深2~3mまで10%が透過 します。

光の透過
図14.2 水中における日射量の透過率(横軸)と水深(縦軸)の関係。 (Kondo, et al., 1979; 水環境の気象学、p.163, 式7.3、より転載)

そのため、海では数mまでの水温が上昇します。熱量(熱エネルギー)は温度 上昇幅と温度上昇の深さの掛け算です。海では温度上昇の深さが大きいので 温度上昇幅は小さくなります。その結果として海面水温の日較差は1℃以下 でたいへん小さいです。


Q11.5 風が吹くとき、水深何mくらいまで海中がかき混ぜられるので しょうか?

A11.5 海では混合が盛んで、海洋表層内では水温は鉛直方向に ほぼ等温状態になります。これを 海洋混合層と呼んでいます。

海洋混合層の厚さは、弱風で5m程度、強風で30m程度まで発達します。 風速との関係を図14.3に示しました。

海の混合層
図14.3 海洋表層の水中にできる海洋混合層と風速の関係。 (Kondo, et al., 1979; 水環境の気象学、p.176, 図7.9より転載)


● 大気安定度についてのQ&A

Q11.6 地表面温度の日変化が違うことに関して(図11.4)、アスファルト とコンクリートの違いは、それぞれの表面の吸収する放射量と放出する熱量 の違いでしょうか?

A11.6 もっとも影響しているのは日射に対する反射(アルベド)の 違いによると考えてよいでしょう。


Q11.7 アスファルト道路の温度上昇が大きいこと(図11.3)と、不安定状態 は地表面温度が気温より高いとき(図11.14)に関連して、夏の暑い日に アスファルト道路から「かげろう」が見えることがありますが、この現象 は大気の状態が不安定のゆえ、起こるのですか?

A11.7 はい、そうです。アスファルト道路は黒く(アルベドが小さく) 日射をよく吸収します。そのため、晴天日中の路面温度は非常に 高くなります。不安定状態では地面で温められた空気が立ち昇りその上の 空気と激しく入れ替わっています。こうして温度むらのある空気が地面付近 にでき、光の屈折によって「かげろう」に見えるわけです。


Q11.8 海上では一日中、大気は安定状態になるのですか?

A11.8 通常、海上では気温の日変化は小さく、日較差も水温と同様 に小さいのが特徴です。また安定度は陸上のように昼夜で大きく変化せず、 安定状態か、あるいは不安定状態が長時間にわたって続く傾向があります。 安定度は水温と気温の差が関係します。たとえば、冬の黒潮流域や日本海 では何日間にもわたって水温が気温より高く、不安定状態となっています。

一方、初夏の北海道・三陸沖や瀬戸内海では海水温度が気温より低く、 何日にもわたって安定状態がつづきます。 このようなとき、海面近くの空気が海面によって冷やされることによって、 海霧が発生することがあります。


Q11.9 気温の逆転層ができる原因として、陸上夜間に放射冷却によって できる「接地逆転層」、高温空気と低温空気が接する前線面にできる 「移流逆転層」のほか、「沈降逆転層」の呼び名があるそうですが、 沈降逆転層のできかたについて、イメージ しずらいのでメカニズムについて説明してください。

A11.9 沈降逆転層は高気圧圏内にできるように、下降流によって地表面 から離れた高度で見られます。下降流があると断熱圧縮の昇温により気温 は上がります。したがって、この逆転層の上での大気の温度減率はほぼ 乾燥断熱減率になっており、空気は乾燥してきます。

冬の日本海や東シナ海 に大陸からの寒気の吹き出しがあるとき、高気圧圏内の沈降流により、 上空に沈降逆転層ができることがあります。この場合、下層では水温が高く 不安定で混合層ができ、海面からの蒸発が盛んで湿ってきて逆転層付近に 雲ができることがあります。上空の飛行機から眺めると、雲頂はほぼ平らに なっています。


● 地中温度の日変化・年変化についてのQ&A

Q11.10 地中温度の変化は地表面近くで激しいが深部ではゆるかかになる ことを知りました。日変化だと深さ30cmくらいまでなのに(図11.7)、 1年周期の変化だと数mまで変化が及ぶ(図11.8)のはなぜですか?   また、どうしてある深度より下層では地中温度は一定になるのですか?

A11.10 地中温度が上昇・下降するのは地中伝導熱によって生じます。 地中伝導熱は温度の鉛直勾配に比例します。ここで日変化を考えてみま しょう。日中まず地表面温度が上がり、表面近くで温度勾配ができて 伝導熱は下向きに伝わり、下層の温度を上昇させます。下層の温度が 上昇すると、さらに下層へ伝導熱が伝わり、しだいに下層の温度も上昇して いきます。この際、地温を上げるにはそれ相応の熱エネルギーが必要であり、 時間をかけて伝導しなければなりません。

ところが、数時間も経つと日射量が減少してくるので地表面温度は昇温から 冷却へと変化します。時間が少し遅れて、この影響は下層へ及びます。 そのため、温度上昇は数時間後に止まり、温度下降となります。 日変化のように周期が短いと、深部まで熱を伝えている時間はすぐ終って しまい、深部ほど温度変化は小さくなります。

1年周期だと、春から夏にかけて何日間も温度上昇が続くので、深い層 まで温度上昇が及びます。夏を過ぎてから地表面温度の下降がはじまる まで下層の温度上昇は続きます。こうして、周期が長い変動は深い層まで 温度変化を起こすことになります。

なお、温度変化の図(図11.8)では各深さの線が重なってわかり難いの ですが、深さによる変化の振幅は単調にしだいに小さくなっており、 深さ10mでほとんどゼロに近づいています。


Q11.11 地中温度の極大(極小)となる時間が深さによって遅れる (位相差ができる)のはなぜですか?

A11.11 一つ前の質問の回答でも述べたように、地中伝導熱は温度 の鉛直勾配に比例します。温度の鉛直勾配は、まず地表面温度が高温になり、 その直下で生じます。その勾配に比例して地中伝導熱が伝わりはじめ、 下層の温度が上がってきます。熱量は単位時間当たりの熱輸送量 (地中伝導熱などはワットで表し、ワットは単位時間当たりに運ばれる エネルギー)と時間の掛け算であり、時間が経たなければ温度は上がり ません。

それゆえ、下層での温度勾配ができるまでには時間がかかるので、下層 ほど時間が遅れてきます。こうして下層ほど温度の極大も極小も遅れる ことになります。


Q11.12 地中温度の周期的変化において、表面の影響が及ぶ深さは 周期の平方根に関係する(1年周期では365の 平方根=19)ことを簡単に説明してください。

A11.12 365の平方根19は複雑な数値なので、その替わりに、簡単な 1日周期と4日周期と16日周期の場合について比較してみよう。

土壌内など物質内の単位時間単位面積当たりの伝導熱(熱エネルギー)は、 温度勾配と熱伝導率の積で計算でき、温度勾配=(温度差) / (深さ) で 与えられます。

1日周期と16日周期で地温が変化する場合について模式的に比較してみよう。 図14.4(左)を参照しながら考える。実際の地中温度は直線的な分布では なく、温度勾配は深さとともに変化しているが、考えやすくするために 直線分布を仮定しよう。

地温勾配と熱の説明図
図14.4 地中温度の勾配と地中温度上昇の関係を説明する模式図。 (左)地中に貯えられた熱量が4倍になったときの温度分布(そのときの 温度勾配は1/4)、それまでに16倍の時間が必要である。 (右)地中に貯えられた熱量が2倍になったときの温度分布(そのときの 温度勾配は1/2)、それまでに4倍の時間が必要となる。

地表から深さ0.1mまで地温が上昇している青色範囲を1日周期の場合と しよう。それまでに1時間を要したとする。 この時の温度勾配を「1」、地表~0.1m層の温度を上昇させるに要した 熱エネルギー(青色範囲の面積)を「1」とする。

こんどは周期16日の変動によって4倍の深さ0.4mまで昇温したとする。 この昇温に要した熱エネルギー(青色+薄緑色範囲の面積)は4倍の 「4」である。このときの温度勾配は 1/4 であるので、熱を伝えるのに 16時間を要したことになる。

つまり、4(熱エネルギー)=1/4(温度勾配)×16(時間)

次に図(右)を参照しながら考えよう。1日周期の変動で 1時間を要して深さ0.1mまで温度上昇したとする。土壌がそれまでに 獲得した熱エネルギーは「1」(青色範囲)であり、温度勾配は「1」で ある。

こんどは周期4日の変動によって4時間かけて深さ0.2mまで昇温したとき を考えれば、温度勾配は 1/2 であり、それまでに土壌が獲得した 熱エネルギーは2倍の「2」(青色+薄緑色範囲の面積)である。

2(熱エネルギー)=1/2(温度勾配)×4(時間)で矛盾はない。

以上の試行実験により、周期4日の変動では2倍の深さまで、周期16日の 変動では4倍の深さまで、つまり影響の及ぶ深さは 周期の平方根に比例することになる。

そのほか位相のずれも同様に周期の平方根と関係する。


Q11.13 地中温度の深さによる振幅の減衰率、位相のずれは周期の平方根 に関係するのは、理論式ではどのように表されますか?

A11.13 理論式では、地中温度の深さによる位相の遅れ ε と振幅の減衰 A/A0 は、それぞれ次のように表されます。A を深さ z における振幅、 A0 は地表面における振幅、

ω=0.727×10-4-1(日変化)
ω=1.992×10-7-1(年変化)
ω=2π/τ (τ:周期)、a=λ/cρ(λ:熱伝導率、c:比熱、ρ:密度)
とすれば、

位相の遅れ:ε=z×(ω/2a)1/2
振幅の減衰:A/A0=exp[-z(ω/2a)1/2]

となる。したがって周期の平方根が式の中に含まれ、1日の現象は365日 周期では19倍した深さ z での現象と同等になります(水環境の気象学、 p.150、参照)。


● 乱流による鉛直輸送についてのQ&A

Q11.14 潜熱と顕熱の違いがよくわかりません。潜熱は水蒸気が 関係しており、潜熱と気化熱(蒸発熱)は同じと考えてよいのでしょうか?

A11.14 ほぼその通りですが、厳密に説明しましょう。潜熱、顕熱は略称 であり厳密には潜熱輸送量、顕熱輸送量(共にエネルギー)のことです。 輸送量ですので、 動いて運ばれている量(単位時間に単位面積を鉛直方向に流れている量) のことです。顕熱輸送量は乱流によって運ばれる熱エネルギーです。蒸発 しているということは水蒸気量が上に向かって運ばれていることです。 これを潜熱が上に向かって運ばれていると言い換えているにすぎません。

地面で蒸発するとき気化の潜熱が消費されるので、単位時間単位面積当たりの 蒸発量に気化の潜熱を掛け算した値を潜熱輸送量と呼んでいます。熱収支を 考えるとき、放射量や顕熱輸送量をW/m2 で表すので、単位時間単位面積 当たりの蒸発量に気化の潜熱を掛け算して単位をW/m2 にそろえている わけです。単位を揃えなくてよいときは、たとえば「顕熱輸送量と蒸発量が ある」などと表現します。


Q11.15 追従性のよい測器を用いて、陸面上で気温と風速の鉛直成分の 記録をとった場合、日中なら両者の間には相関関係があるが、夜間には 両者は逆相関関係になるとのことだが、「冷たい空気が上昇して、温かい 空気が下降する」ことが理解し難い。温かい空気の下降流が強いという ことですか?

A11.15 いえ、そうではないのです。「冷たい空気が上昇して、 温かい空気が下降する」ことは起こりにくいのですが安定状態の大気中では 弱いながらも生じます。その起き方を考えてみよう。

鉛直流と気温の乱れ
図14.5 夜間に陸面上の接地層で観測される風速鉛直流と気温変動の記録 模式図。

陸上で夜間の気温鉛直分布は下層で低温、上層で高温に なっています。高温空気塊は自然には下降し難いですが、乱流があると 下降流のときは上空の温かい空気塊を下へ運び、上昇流のときは 下層の冷たい空気塊を上へ運ぶことをしています。大気は安定成層をして いるので、こうした上下運動は強くなれないが、弱いながらも生じます。 非常に安定になってくると、こうした上下運動で運ばれる顕熱輸送は ほとんどゼロとなります。その典型的な状態をテキストの本文(図11.18) に示しました。

無風に近い状態のときには、温かい空気塊は自然に上昇し、その穴埋めに 冷たい空気塊が下降してきます。これを自然対流 と呼んでいます。これとは違って、上空の温かい空気塊を下へ運び、 下層の冷たい空気塊を強制的に上へ運ぶことは強制対流 によってなされるのです。「強制対流」は風速の鉛直勾配 (鉛直シアー)があるときに生じ、通常これは乱流による顕熱輸送と 呼んでいます。

強制対流は風のシアーによって生じるもので、風が吹くときは大気が不安定、 中立、安定時に関わらず起こります。地表面に近いところでは、いつでも 強制対流によって物理量(顕熱・潜熱、汚染物質など)が運ばれています。

不安定条件では高度が増すにつれて浮力によって生じる自然対流が卓越する ようになります。よく発達した混合層の中層以上では、ほとんど自然対流 の状態になっていると考えてよいでしょう(水環境の気象学、p.114~p.116 を参照)。


Q11.16 日中に観測された地面付近の乱流記録(図14.6)によれば、 上昇流が起こると水平方向の風速が弱まる傾向があるのはなぜですか?

A11.16 よく気づきましたね、その傾向があります。通常、平均風速の 鉛直分布は上空ほど強くなっていることは 「M10.入門1:境界層と風」 で学びました。そのため、下降風のときは上空から吹き下ろしてくる風 なので強風速の空気塊を運んでくる確率が高いのです。逆に上昇風のときは 下層から弱風速の空気塊を運んでくる確率が高いのです。

乱流変動記録例
図14.6(研究の指針の図1.2に同じ)日中の平坦地の地表面近くで観測された 風の平均流方向の成分 u と鉛直成分 w(+が上昇流,-が下降流), および気温 T の乱流変動記録の例、平均風向の成分 u, 鉛直上下成分 w, 気温変動 T、横軸は時間(秒)である。 (Ibbetson, 1978; 近藤, 2000, 地表面に近い大気の科学、図3.2、より転載)

実は、この「上空から強風気塊を下へ、下層から弱風気塊を上へ運ぶ」 ということは、差引き「風の塊」が上から下向きに運ばれていることであり、 運ばれてきた下層では風速が弱いのでその「風の塊」の速度を弱めることに なります。この作用が摩擦の働きをしています。

水平風速を伴なう「風の塊」が下方へ運ばれていることを、専門的には 下向きの「運動量の輸送」と言います。「運動量の輸送」は摩擦が作用して いることと同じ意味です。運動量=(密度×速度)で定義され、風の場合の 速度は平均流方向の風速のことです。


Q11.17 摩擦力とは、地表面による直接的な力だけでなく、乱流による 影響もあるのですか?

A11.17 地表面そのものは、直接的な摩擦力として働きます。ほんの少し 離れた場所から上では乱流が摩擦の作用をしています。上記の回答で述べた ことと関係しますが、風が吹くと、まず地表面の摩擦で、その直上で風速の 鉛直勾配(シアー)が大きくなり、風は渦を巻くかのようにして乱流を発生 します。大気境界層内では、この乱流が上で説明したように摩擦の働きを します。

粗度が大きい地表面ほど乱流が激しく摩擦も大きくなります。 なお、地表面が鏡面のように「滑らかな面」であっても風に対して摩擦は 作用し、シアーができて乱流が発生します。地面に砂や草、あるいは森林が ある場合、「粗な面」と呼びます。

A11.15で述べた「強制対流」はシアーによって生じた乱流による作用であり、 「自然対流」は空間的に空気密度が違うことで浮力によって生じた対流 (乱流を伴なう)です。

参考文献

Kondo, J., Y.Sasano and T.Ishii, 1979: On wind-driven current and temperature profiles with diurnal period in the oceanic planetary boundary layer. J. Phys. Oceanogr., 9, 360-372.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支ー. 朝倉書店、pp.350.

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