1.地球温暖化と都市気候
著者:近藤純正
	1.1 地球の温度は何によって決まるか?
	1.2 温室効果とは?
	1.3 地球の気候を変える要因は?
	1.4 都市気候を変える要因は?
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二酸化炭素の増加によって地球の気候が温暖化するといわれている。 その原理について考えてみよう。 また、都市気候を変える要因は何だろうか?

1.1 地球の温度は何によって決まるか?

地球の温度は太陽と地球間の距離、及び地球の反射率によって決まっている。 図1.1 はその関係を示したものである。
太陽エネルギーと地球放射の関係
図1.1 太陽放射と地球から出す赤外放射の釣り合い

地球の面積1m2当りに注がれている太陽からの エネルギーは1,360W(Wはワット)である。これを太陽定数という。 地球全体が受ける太陽エネルギーの総量は図に示した地球の 断面積に入る量に等しい。このエネルギーによって地球の温度は 上昇するわけだが、地球からも目に見えない赤外放射が宇宙に向かって 放出されている。

1m2当り1,360Wのすべてが地球に取り込まれるわけではなく、 地球の表面・大気・雲によって30%は反射され、残りの70%が地球に 取り込まれている。これを地球の全表面積で平均すると、球の表面積は 断面積の4倍であるので、1m2当り238Wとなる。

地球の大気・雲・地表面を平均した温度(地球の有効温度) が-18.7℃、すなわち絶対温度で254.5Kであれば赤外放射量は 1m2当り238Wとなり、この温度でバランスすることになる。 こうして地球の温度が決まっている。

地球の表面付近では平均15℃程度であるが、上空では低温であるので、 平均すると-18.7℃になる。この温度は「放射温度計」を用いて、 宇宙から地球を観測したときの温度に等しい。人工衛星から、毎日、 地球の温度が観測されている。

太陽から地球へ、そして地球から宇宙空間への熱の流れ(熱収支)によって、 地球の温度(-18.7℃)が決まっているわけである。この地球の平均 温度は、大気中における熱の流れがわずかでも変われば違った値になる。 このことは、のちほどまた考えることにしよう。

1.2 温室効果とは?

うえでは地球の平均温度は-18.7℃と計算されたが、地球の表面付近では この温度よりも高いのはなぜだろう。それは「温室効果」によるのである。 地球大気には水蒸気、二酸化炭素、オゾンなど赤外放射 を吸収し、同時に放射を放出する気体が含まれている。これらは 温室効果気体と呼ばれている。温室効果気体があれば、地表面温度 は高温になることを図1.2で説明しよう。

温室効果、黒体度0.5の場合
図1.2 大気の黒体度が0.5の場合の大気と地表面の熱収支 (温度以外の数値の単位はW/m2

計算を単純化するために、可視光線を含む太陽からの日射量は 大気をそのまま透過すると仮定すれば、反射量30%を除いた正味入射量 の地球平均値は1m2当り237.9W である。 以下では、エネルギーの単位は1m2当りで表わすことにする。

大気はその温度に対する黒体放射量の50%の赤外放射を出す 場合を想定する。この場合、大気の黒体度は0.5という。大気中に 温室効果気体がまったくないときの黒体度はゼロであるが、 非常に多くなると黒体度は1に近くなる。黒体度が 0.5のとき、地表面から出た赤外放射量は50%が吸収され、 残りの50%は透過して宇宙へ出て行く。

黒体度=0.5の場合、仮に大気の温度=230K(=-43.2℃)、 地表面の温度=273.5K(=0.3℃)であれば、熱収支はちょうどバランス することになる。 この場合、大気の温度230Kに対する黒体放射量=158.6Wであるが、 黒体度=0.5の仮定により、大気は79.3Wの赤外放射量を出している。

以上をまとめると、
(1)大気の上端では、大気自身が出す上向きの赤外放射79.3Wと、 地表面から大気を透過して宇宙へ向う赤外放射量158.6W の和
   79.3+158.6=237.9
は、太陽からの正味入射量237.9W に等しくなる。

(2)地表面では、太陽からの正味入射量と大気からの下向きの 赤外放射量の和
   237.9+79.3=317.2
は、地表面が出す赤外放射量317.2W に等しくなりバランスする。

この結果は地表面温度(x)と大気温度(y)を未知数とする連立方程式 を解いて得たものである。この結果から分かることは、大気中に水蒸気 や二酸化炭素などの温室効果気体があると、地表面温度は「地球の有効温度」 (254.5K=-18.7℃)よりも高温になり、大気温度は低温になるのである。 つまり、地表面温度が高くなると宇宙に放出される赤外放射が増えるので、 そのぶん大気から放出される赤外放射が少なくならなければ、バランスが とれない。

こんどは、温室効果気体が多くなると地表面温度はどうなるだろうか? 黒体度=0.9の場合を図1.3に示した。

大気の黒体度が大きくなると、大気によって吸収される赤外放射量と、 大気自身が出す赤外放射量がともに増加する。このことを考慮して 計算すると、大気温度=248.5K(=-24.7℃)、 地表面温度=295.5K(=22.3℃)と、高温になることがわかる。

温室効果、黒体度0.9の場合
図1.3 大気の黒体度が0.9の場合の大気と地表面の熱収支 (温度以外の数値の単位はW/m2

図1.2、図1.3では大気を1層として、地表面と大気の温度がそれぞれ何度に なるかを計算した。もっと詳細に大気温度の高度分布を知るには、 大気を多数の層に分割して計算することになる。

さらに、放射(日射と赤外放射)以外の熱輸送(対流などによる 顕熱や潜熱輸送)の効果を考慮すれば、現実的な地表面温度と 気温の高度分布を知ることができる。

大気組成
図1.4 大気の成分の割合。主に窒素と酸素であり少量の温室効果気体を含む

大気の成分は、場所と時刻で大きく変化する水蒸気を除けば、 窒素と酸素とアルゴンの3気体で99.9%を占めている。 大気中には少量しか含まれていない水蒸気、二酸化炭素、メタン、 フロン、亜酸化窒素、その他の温室効果気体によって地球表面近く の下層大気は高温に保たれ、動植物の生存にとって快適な、現実の気候が つくられている。ここで注意すべきは、温室効果に もっとも寄与しているのは水蒸気である。

ところが、近年の人間活動によって大気中の二酸化炭素などが 増加し、温室効果がより強く作用するようになり、気候が変わる ことが心配されている。これが地球の温暖化問題である。

過去数十万年間、二酸化炭素は180~290ppmv(0.018~0.029%) の範囲で変化してきたと考えられているが、現在350ppmvを超え、 このままの状態が続くと、今世紀末には600~700ppmvにも達する と予想されている。

1.3 地球の気候を変える要因は?

前節では地球の温度の決まり方について基本的なことがらを学んだ。 そして温室効果気体が増加すると、地表面付近の温度が高くなる ことがわかった。

温室効果以外に、地球の気候を変える要因についても考えてみよう。

図1.1~図1.3では、現在の地球の反射率(地球のアルベド)=0.3として 熱バランスを考え、地球の温度が計算された。図1の計算で 地球のアルベドが1%多くなったとする、すなわちアルベド=0.31 としてみると、地球の平均温度(有効温度)は0.6Kだけ低温になる。 つまり地球が取り込む太陽エネルギーが少なくなるぶん、地球は低温化 するわけだ。0.6Kは地球全体の平均的な温度変化量であり、 地域によっては、これより何倍もの温度変化が生じうると 考えられる。

アルベドが大きくなる要因:
(1)雲が多くなる
(2)雪氷域の面積が拡大する
(3)海面が汚染される
(4)陸地の森林面積が減少、沙漠化する
(5)大気が汚染される

(1)と(2)は主に、気候変化にともなって起きるのに対し、 (3)~(5)は主に人為的な原因による。

これまでは地球全体の気候を変える要因についてみてきた。 そのほか長い時間スケールでは、太陽からのエネルギー(太陽定数) の変化、地軸の傾き、海陸の分布、植物生態系の変化なども 気候を変える要因である。

1.4 都市気候を変える要因は?

東京の年平均気温の変化
図1.5 東京の年平均気温の長期変化

図1.5を見ると、東京における年平均気温の上昇は顕著であり、 最近は1800年代に比べて約3℃も高温になった。

3℃がいかに大きな変化であるか、気候表(例えば、「理科年表」) から調べてみよう。年平均気温3℃の違いは函館と長野、甲府と潮岬、 富山と高知における値の違いに相当している。

東京など大都市では、この数十年間、気温が急激に上昇しているところが 多い。
都市の気温に及ぼす影響として次のことが考えられる。

(1)地表面の改変(植生地が人工構造物に変化)による蒸発散量の減少
(2)エネルギー消費量の増加
(3)地上風速の低下による顕熱・潜熱輸送量の減少
(4)建物による夜間の放射冷却の減少
(5)大気汚染による赤外放射量の吸収・射出
(6)乱流の強化による接地逆転層の解消

これらは主に気温を上げる効果がある。 (1)の効果は非常に大きいので、都市の温度上昇を緩和するには、 小規模でもよいので緑化公園を多地点・地域に作ることが望まれる。

(7)アルベドの増加(植生地からコンクリート化)による反射量の増加
(8)建物による日射の遮蔽
(9)大気汚染による日射量の減少
これらは主に気温を下げる効果がある。

(10)舗装道路、建物、河川・池による蓄熱効果
これは気温変化の振幅を小さくする効果がある。 水辺を多く作ると蒸発の効果により平均気温は下がるが、水深が深いと 気温日変化の振幅が小さくなり、夜間の気温が下がりにくくなる。

注意 二酸化炭素の増加による地球温暖化と、 都市改変による都市気候の変化(ヒートアイランド現象など)、 またオゾン層の破壊による生物の生存への影響などは、いずれも 人為的な原因によるものであるが、それぞれの物理過程は異なるものである。

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