K143. 神奈川県秦野の湧水の水温季節変化(1)


著者:近藤純正・内藤玄一
秦野市内にある湧水8か所について水温の季節変化の観測を開始した。本報告は 約半年間の観測結果の速報である。
千村の日立ITエコ実験村の湧水、平沢の兵庫の泉の水源、白笹稲荷神社下の湧水、 秦野駅近くの弘法の清水、尾尻取水場の湧水温度の季節変化幅は0.1℃程度 またはそれ以下で小さく、地中水の平均的な深さ「平均的深度」は10m程度 またはそれ以上の深さに相当する。
一方、水源から導水された谷津湧水と、道路端まで導水された兵庫の泉は 水温季節変化幅が0.3~0.7℃ほどになっている。(完成:2017年2月21日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2017年2月10日:素案の作成
2017年2月10日:「まとめ」に備考1を加筆
2017年2月12日:「はじめに」に温暖化と湧水・気温差の解説を加筆
同 : 細部に微小な加筆・削除
2017年2月21日:「まとめ」に備考2を加筆

    目次
        143.1 はじめに
        143.2 観測
        143.3 湧水温度の季節変化
        まとめ
        文献
     備考1 旧本町第2水源
     備考2 8か所の湧水の情報               


研究協力機関・協力者(敬称略)
日立製作所ICT事業総括本部:野口賢次
千村ネイチャ―倶楽部:尾崎文隆
秦野市平沢:和田 大
秦野市環境保全課:谷 芳生
秦野市くずはの広場:高橋孝洋
白笹稲荷神社

湧水地点選定の協力者(敬称略)
吉田嗣郎、小野実佳、小野 薫


143.1 はじめに

地中の深くから湧き出してくる湧水の温度は地表面温度の年平均値にほぼ等しく 季節変化が小さい。地中熱の影響する温泉地や地中100m以深を除けば、地中の 深さ10m~30mの温度は、その地域の地表面温度の年平均値に等しくなる。 ここでいう地域とは、数100m平方~1km平方程度の面積範囲を指す。

地域の地表面温度の年平均値は、その地域の環境によって決まることから、 湧水温度の長期変化から地域の環境変化を知ることができる。環境変化として、 広域にわたる地球温暖化と地域特有の都市温暖化・乾燥化がある。

しかし、湧水の地中深度が数m程度の浅い場合は水温の季節変化が大きく、 地域の環境変化を求めるのは難しくなる。この場合の水温は、湧水地点の ごく近傍数m平方~数10m平方のごく局所的環境に依存する。

日本の気候条件では、湧水温度は年平均気温より高く、湧水・気温差は1℃前後 である。湧水・気温差は、気温の低い北日本でわずかに大きく、気温の高い 南日本で小さい。これは地表面における熱収支・水収支の理論的考察から 推定されることである。

気温の上昇つまり地球温暖化が進むと蒸発・蒸散(=蒸発散)が盛んになる。 つまり地表面から大気へ放出する蒸発の潜熱輸送量が大きくがなる。そのぶん 顕熱輸送量が減って熱収支がバランスする。地表面としては顕熱輸送量を 少なくするには、地表面温度と気温の差が小さくならねばならない。

それゆえ、湧水温度は気温ほど上昇せず、湧水・気温差は時代とともに小さくなる。

いっぽう、森林や畑地が開発され都市化されると、蒸発散量が減り高温・乾燥化 する。その結果、湧水・気温差は逆に大きくなる (「K130.東京の都市化と湧水温度―熱収支解析」「K132.東京の都市化と湧水温度―熱収支解析(2)」)。

このように、湧水温度は地域の環境(地球温暖化、都市化による高温・乾燥化) を表す重要なパラメータである。

ここで必要とする年平均湧水温度の観測精度は0.1℃以内であるので、 本研究では0.01℃の高精度の水温計を用いる。

神奈川県秦野市は湧水の多い所である。それら湧水のうち、地域の環境を 求めるのに適当とみなされる8か所の湧水を選び、水温の季節変化を観測する。 本報告は、観測開始から約半年間の速報である。

143.2 観測

湧水温度の観測地点
図143.1の下段に示す赤丸印は今回選んだ湧水の8地点である。

各湧水地点の標高は地理院地図の電子国土Webにより、地点の標高が自動表示 される方法による。

秦野の地図
図143.1 湧水地点の地図。
上:神奈川県の地図、大四角印はアメダス、小四角印は気温観測地点
下:秦野市内の湧水地点、丸印は湧水温度の観測地点
「K139.神奈川県秦野盆地の気温(7~12月)」 の図139.1に同じ)(Google マップをもとに作成)。


千村の湧水は日立製作所のITエコ実験村の水源である。エコ実験村の気温観測 地点(標高187m)の上流の林内に湧水点がある(標高200m)。この湧水の 涵養域の平均標高は250m前後と考えられる(「小さな旅」の 「151.日立ITエコ実験村」の写真⑤)。

谷津湧水は「ふれあいの里」にある(「小さな旅」の 「151.日立ITエコ実験村」の写真⑥)。
水源は標高190mにあり、そこから太い塩ビ管で標高176mまで導水されている。 その水温を観測する。水源から水温観測点までの距離は約100mあるが、 湧水量が多いことと太い塩ビ管がおもに日陰にあって途中の温度変化は小さく、 月1回の観測から年平均水温を必要な精度で求めることができると考えた。

平沢の「兵庫の泉」の水源は和田大氏宅の裏庭にある(標高=112m)。 図143.3の写真では水が澄み水体部分は識別できないが、セメント製の大円筒の 下から大量の水が湧き出でいる。この水は水道管で方々に給水、利用されている。

兵庫の泉の水源
図143.2 平沢の「兵庫の泉」の水源。セメント製の円筒下端にある穴から 湧き出る水温を測る。


白笹稲荷神社の湧水は神社の下の池、標高約104mにある。この池の中から湧き 出る水と、隣のポンプ場で汲み上げられ水路に放流される水の温度を測る。

白笹稲荷神社湧水
図143.3 白笹稲荷神社の下の池にある湧水口。石で囲んだ中央の穴から湧き出ており、 水温計を穴に入れて湧水温度を測る。

白笹稲荷神社ポンプ
図143.4 白笹稲荷神社の下のポンプ場から汲み上げられた水。水路の左壁の穴から 水路に放流されている水、穴の出口の水温を測る。


ホタル公園向原湧水は「小さな旅」の 「156.今泉ほたる公園(秦野市)」の写真③に示されている。 標高96mにある。ホタル公園の池の水源から湧き出る水の温度を測る。

「弘法の清水」は「小さな旅」の「155.弘法の 清水(秦野市)」の写真③に掲載してある。標高=87mである。 この湧水量は多い。

尾尻取水場は「小さな旅」の「155.弘法の清水 (秦野市)」の写真⑤に掲載してある。標高=84mにある。 石垣の間から出る大量の水と、その上段にある旧水道施設の平坦地から湧き出る 水の温度を測る。

くずはの広場のホタルの里は秦野市立の自然観察施設「くずはの広場」の中を 流れる葛葉川の飛び石を渡った崖下にあり、水道施設の水源跡である (「小さな旅」の「157.くずはの広場(秦野市)」 の写真⑤⑥)。湧水地点の標高=123mである。

くずはの家ホタルの里湧水
図143.5 くずはの家のホタルの里の湧水。コンクリート造りの下から流れ出して いる水の温度を測る。


水温の観測方法
必要な水温の観測精度は0.1℃ないし、これよりも高精度が望ましいことから、 表示単位と精度がともに0.01℃の「高精度温度ロガープレシィK320」(立山科学 工業製)を用いる。月に1回の頻度で水温を測る。水温が数10秒程度の時間で 変化する湧水もあるので、そのことを意識して観測する (「K137.湧水温度の数分間の短時間変動」)。

この観測と同時に、千村と平沢では自記記録の水温計で連続観測も行う。 自記記録の水温計は表示単位が0.1℃のデータロガー「おんどとりTR-55i-Pt」 (T&D社製)にPt1000防水型センサMODS112-02—PT-01(立山科学工業製)を 接続した水温計である。1時間の時間間隔で記録し、平均値を求めるので、 平均水温の精度は0.02℃程度である。

いずれの水温計も精密検定してあり、その校正表にしたがって観測水温を補正する。

143.3 湧水温度の年変化

湧水温度の年平均値は地表面温度の年平均値に等しくなる。地中水の経路が 深いほど、水温の位相遅れが大きくなり年変化幅(振幅の2倍)は指数関数的 に小さくなる。

図143.5は水戸地方気象台において観測された1931年から1949~52年までの 19~22年間平均の地中温度の年変化である。図143.6は年変化幅と深さとの 関係である。

地温年変化
図143.6 地中温度の年変化(水戸)(近藤、2000、図4.11より転載)。 (「K142.東京の5湧水の水温季節変化(1)」 の図142.6に同じ)

地温変化幅
図143.7 地中温度の年変化幅と深さの関係(農林水産省・気象庁、1982、 のデータに基づき作成)。縦軸(地中温度の年変化幅=振幅の2倍)は対数目盛 で表してある。 (「K142.東京の5湧水の水温季節変化(1)」 の図142.6に同じ)

年変化幅(=振幅の2倍)と位相の遅れは地中の温度拡散係数a (=熱伝導係数λ / 体積熱容量cρ)と関係する。a が大きいほど(土壌水分が 多いほど)位相の遅れは小さく、振幅の深さによる減衰率は小さくなる (近藤、2000、のp.122)。

地域ごとに地中の温度拡散係数 a は多少異なるが、説明の簡単化のために 以下では a は水戸の値とした場合について、湧水温度の季節変化から湧水の 地中経路の平均的な深さ「平均的深度」は概略何mとして説明することにする。

千村ITエコ実験村
秦野市の南西部の千村には数か所の湧水がある。そのうちの観測に適した湧水は、 日立製作所の実験場「日立ITエコ実験村」の水源であり、この水温を観測する。

図143.8は1時間間隔で記録した表示値0.1℃単位の水温について、前後の各12時間 の移動平均値を示してある。これは精度を上げるための操作である。

8月~9月の期間に時々水温が上昇する現象がみられる。たとえば2016年8月22日は 小田原の日降水量=131mm、9月20日は85mmの大雨であった。湧水地点は斜面 に立つ大木の根本にあり、大雨の水が水温記録点に流入したためと考えられる。

また、2017年1月21日~25日は「データなし」としてある。この1月は8日~9日に 24mmの降水があり、その後は無降水、さらに21日~26日は寒波の襲来で夜間は 氷点下(-7℃~-2℃)となり、周辺の凍結により水の流れが弱化し、水温計の 感部が溜まり水の水温(-0.1℃~+9℃)を測ったとみなされる。そのため、 「データなし」とした。

これらの特殊現象を除けば、千村の湧水温度は±0.2℃ほどの変動幅があるものの、 ほとんど一定温度(≒15.0℃)にある。

千村水温自記記録
図143.8 千村の日立ITエコ実験村の湧水水源の水温変化(自記記録)。

千村水温
図143.9 千村の日立ITエコ実験村の湧水水源の水温季節変化(毎月1回の観測)。


図143.9は毎月1回の頻度で観測した水温の季節変化であり、自記記録の図143.8と 一致している。

水温の季節変化幅(振幅の2倍)は概略0.3℃であり、湧水の地中経路の平均的な 深さ「平均的深度」は概略10mに相当する。湧水点の標高200m、湧水の涵養域の 林床の平均標高は250m前後、標高差=50mとなる。

したがって、この湧水の地中経路は林床斜面の傾斜に沿うような形状にあると 想像できる。東京都内の湧水5か所では「平均的深度」が崖地形の標高差と一致 した(「K142.東京の5湧水の水温季節変化(1)」)。

千村ではこれと異なる結果である。東京の湧水(明治神宮を除外)がほぼ平坦な 河岸段丘の下にあるのに対し、秦野市千村の湧水は傾斜山地に存在しているから だと考えられる。

谷津湧水
谷津湧水は千村の東方の約500mにあり、似た山林の条件である。水源から太い 塩ビパイプで導水された地点(水汲み場)で水温を測ると、水温季節 変化幅は0.7℃程度(見込み)である(図143.10)。

谷津水温
図143.10 「ふれあいの里」の谷津湧水の水温季節変化。


平沢 兵庫の泉
秦野市南公民館の西、約250mに兵庫の泉の水源がある。この周辺は、川の部分 などを除けば、ほぼ平坦な畑地の混ざる住宅地である。水源の水量は多く、 水温は年間を通して変動幅は0.1℃以下、ほとんど一定温度の16.6℃である (図143.11)。それゆえ、地中の平均的な経路の深さ「平均的深度」は図143.7 から15mないしそれ以上と考えられる。

水源の標高=112mであり、112m+15m以上=標高127m以上の範囲は西北西 600m以遠である。その周辺も畑地の混ざる住宅地である。この緩慢な傾斜勾配 15m/600mは西北西の方向へ続いている。

これら緩慢な傾斜地、西北西の距離1000m程度までの面積範囲が兵庫の泉の 涵養域と考えられる。それゆえ、この地域の環境変化(地球温暖化も含む) が水温の長期変化として今後の数十年間にわたって現れるであろう。

平沢水温自記記録
図143.11 平沢の兵庫の泉の水源の水温季節変化(自記記録)。


図143.12は水源から幹線道路沿いまで導水されて、「杜の豆腐工房三河屋」脇 に造られた「兵庫の泉」の水温季節変化である。水温の季節変化幅は0.3℃程度 と推定される、ただし、1年間の水温観測が終われば確定する見込みである。

平沢水温
図143.12 兵庫の泉と、その水源の水温季節変化(毎月1回の観測)。


白笹稲荷神社
白笹稲荷神社は南西に向かって平均的に標高が高くなる地形にある。神社の南側が 急峻な狭い谷地形となり低地の浅池に湧水がある。その近くにポンプ場があり、水を 汲み上げ水路に放水している。この2か所の水温を測る。

図143.13は湧水と、ポンプから放水されている水温の季節変化である。 ポンプの水温がいつも0.1℃ほど低温であるが、水温の季節変化は認められない。 兵庫の泉の水源と同様に、水温=16.6℃の一定、地中水の経路の「平均的深度」 は15mまたはそれ以上と考えられる。

湧水点の標高=104mであり、南西200mの標高=130m、さらに南西200mの 標高=160mである。南西200mまでは住宅地、それ以遠の南西は主に山林である。

白笹稲荷神社水温
図143.13 白笹稲荷神社下の湧水の水温季節変化。


ホタル公園向原湧水
図143.14はホタル公園の向原湧水の水温季節変化である。変化幅は0.3℃ほどで 位相の遅れは約半年である。それゆえ、地中水の「平均的深度」は10m程度に 相当する。

しかし、ホタル公園の周辺地形は最近大改変されたようで、幅広の道路ができ、 住宅が新築されているため、湧水の水温がまだ準定常的変化に落ち着いていない 可能性がある。

ホタル公園水温
図143.14 ホタル公園向原湧水の水温季節変化。


弘法の清水
小田急線の秦野駅の東、100m余の距離にあり、湧水量が多いこともあって、 遠方から水を汲みにくる人たちが多い。

この湧水温度は、ときに数十秒間の水温変化を生じることがあり、その変動幅は 0.05℃である(「K137.湧水温度の数分間の短時間変動」 )。それゆえ、0.1℃目盛りの温度計では、0.1℃の温度差を記録すること がある。

尾尻取水場
尾尻取水場は旧水道施設の跡地であり、弘法の清水の南東150mにある。 図143.15には弘法の清水と尾尻取水場の湧水、合計3湧水の水温季節変化を示した。

弘法と尾尻の水温
図143.15 弘法の泉と尾尻取水場の湧水の水温季節変化。


これら3湧水とも、水温変化幅は0.1~0.2℃で小さい。それゆえ、地中水の 「平均的深度」は10m以上に相当する。これらの湧水点の標高=87m(弘法の清水)、 標高=84m(尾尻取水場)であり、湧水の涵養域と見なされる周辺の標高は93m (寿徳寺)、99m(秦野駅南口広場)、110m(秦野駅南口の西500m)であり、 西方ほど標高が高くなっている。

なお、尾尻取水場平坦地(旧建物跡、現在は砂利地)から出る小規模湧水の 水温が0.1℃ほど低温のことが多い。


くずはの広場 ホタルの里
くずはの広場のホタルの里の湧水地点の標高=123mである。その西側は急峻な 断崖であり、断崖上の狭い半島状地形の平坦地(標高=130~140m)は住宅地 である。湧水は断崖の下端にある水道の水源施設跡のコンクリート造りの 下から出ている。

くずはの広場水温
図143.16 くずはの広場ホタルの里の湧水の水温季節変化。


図143.16は湧水の水温季節変化であり、変化幅は大きく1℃ほどもある。目で 観察した断崖の標高差は約10mで大きいにも関わらず、水温の季節変化幅が大きい。 その原因として次のことが想像される。

(1)コンクリート造りの周辺に崖上表層から下・水平の複雑な水流?
(2)コンクリート造りから半島状地形の下を西に抜けるトンネル水路の存在?

湧水口と見なしている写真(図143.5)によれば、コンクリート造りの奥に鉄扉 が崖面に見える。もしかして、これは水道のトンネル水路の跡ではないか? 

もし、そうだとすれば、水温観測している水は本来の湧水ではないのかも 知れない。今後の水温観測の結果およびその他から確認したい。

葛葉川周辺地図
図143.17 くずはの広場ホタルの里の周辺地図、Google マップから引用、加筆。
標高130m~140mの半島状の高台が北東から南西に延びており、その両側を葛葉川 が蛇行している。左(西)方が上流、右(東)が下流である。赤丸印はホタルの里 (標高=123m)、その東側の葛葉川標高=121m。上流に向かって南西-西―北東 -北西に蛇行している。赤丸印の西50m地点の葛葉川の標高=128mである。


まとめ

神奈川県の秦野市の湧水8か所について水温の季節変化の観測を開始した。 本報告では、その約半年間の結果を示した。

(1)千村の日立ITエコ実験村の湧水、兵庫の泉の水源、白笹稲荷神社下の湧水、 秦野駅近くの弘法の清水、尾尻取水場の湧水温度の季節変化幅は0.1℃程度、 またはそれ以下で小さく、地中水の平均的な深さ「平均的深度」は10m程度、 またはそれ以上に相当する。

とくに、兵庫の泉の水源の水温は季節変化が認められず、16.6℃の一定である。

弘法の清水は、ときに約0.05℃の変動幅で短時間変動を起こすことがあるが、 年間を通して水温はほぼ一定の約16.8℃である。

(2)一方、水源から導水された谷津湧水、道路端まで導水された兵庫の泉は 水温季節変化幅が0.3~0.7℃ほどになる。

(3)くずはの広場のホタルの里の湧水は、標高差約10mの断崖の下にあるにも かかわらず、水温の季節変化幅は大きめの1℃ほどもある。この原因は、 現時点では不明である。

備考1:旧本町第2水源
秦野市環境保全課の谷 芳生氏によれば、ホタルの里の水源は、大正8年(1919年) に開削された、水道の旧本町第2水源である。この水源は、葛葉川が浸食した 峡谷の断崖を利用し、地下水の帯水層となっている礫層を横に掘り進めた 横井戸である。素掘りの横井戸の空間および入り口の扉の壊れている状態など から、水温は外気の影響を受けている可能性がある。

備考2:8か所の湧水の情報
秦野市環境保全課の谷 芳生氏から次の情報が寄せられ。
今回選定された8つの秦野盆地の湧水の特徴として、扇状地地形による 扇端の湧出域の湧水や自噴井戸、断層による湧水、水道水源として掘削 された井戸、谷戸地形の湧水があると思われる。これらの特徴が、 水温にも影響を与えていることも考えられる。

各湧水の情報
① 千村日立ITエコ実験村ー湧水、渋沢断層
   この付近は、約4万年前に隆起したとされる大磯丘陵の一部である 渋沢丘陵にあたる。地下水の由来は、この丘陵にかん養された雨水が中心だと 考えられる。谷戸に湧き出した地下水を集めて農業用水に使用しているほか、 横井戸を掘り、人工的に地下水を採取して農業用水に利用している。
ただし、今回の調査湧水は横井戸からの水ではなく、林内の大木根本から の湧水である。

② 谷津湧水ー湧水、旧水道水源、渋沢断層
   谷戸の湧水を堰き止めて水道の水源としたもの。現在は水道水源 としては使用されていない。

③ 兵庫の泉ー地下水、自噴井戸、扇端
   扇状地の先端にある湧水域にある和田さん宅の自噴井戸から引水 しているもの。井戸の深さ34m。被圧された地下水が自噴している。

④ 白笹神社(一貫田湧水)ー地下水、旧水道水源、浅井戸、渋沢断層
   古くは、白笹神社の南西側に一貫田湧水があり、その湧水を利用して 水田があったといわれる。今回の調査地点は、平成24年3月まで水道水源 として使用されていた旧一貫田取水場である。写真にある水路に放流されて いる水は、集水桝からあふれた水で、ポンプアップされてはいないと思う。

⑤ いまいずみほたる公園(向原湧水)ー地下水・湧水、渋沢断層
   区画整理事業によって整備された親水公園で、水路を利用してホタルが 自然繁殖している。区画整理事業前は、水田及び湿地が一帯を占めていたが、 宅地整備により埋め立てが行われ、現在の水源は、道路を挟んだ公園の西側 に地下水の集水桝が埋けられ、公園まで送水されている。また、もともと 湿地であったので、公園内にも自然の湧水が染み出ている。

⑥ 弘法の清水ー湧水、渋沢断層
   浅層の被圧地下水が礫層を通じて、地表近くに湧き上ってきているもの。 (名水を訪ねて-秦野盆地湧水群-弘法の清水、1992.11、 長瀬和雄著)

⑦ 尾尻取水場(寿徳寺湧水)ー地下水、旧水道水源、浅井戸、渋沢断層
   直径3.6m、高さ3.3mの土管が集水桝として埋けられている。 平成17年まで水道水源として使用されていた。

⑧ ほたるの里(旧本町第2水源)ー地下水、旧水道水源、横井戸、秦野断層
   旧本町第1水源・紀伊ノ守水源(大正8年)と同時期に開削された 取水横井戸で、接合井で紀伊ノ守水源からの水と合流している。


文献

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学-理解と応用―.東京大学出版会、 pp. 324.

農林水産省・気象庁、1982:地中温度等に関する資料.農業気象資料、 第3号、pp.273.


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