静かなる脱出計画

原因不明の高熱が僕を苦しめ---ない

 手術から2週間、僕は少しずつ歩けるようになった。水や食事はまだだけど、中心静脈の栄養点滴だけで生きていた。もうこのときは「食欲」といったらいいのか、「食べたい」という欲求はほぼ無くなっていることは前にも書いた通り。今まで何であんな煩わしいことに悩んでいたんだろう、とさえ感じられる。一生点滴でもいいな、とも思う。
 しかし、そんな僕を高熱が襲う。常に39度から40度も熱がある。といってもほとんど実感していない。ただでさえふらふらしているところに、ちょっと熱が出た、くらいじゃ自分で分からないのだ。僕は飄々として院内を歩き回る。でも先生は眉をしかめて思案する。このままじゃあ当然、僕はどんどん体力が低下し、体重が落ち、ついにはムンクの叫びと化してしまう。原因もよく分からない。C先生は決断した。
 「よし、栄養点滴をやめよう」と言って、ぶちっと点滴管を引き抜く。ありゃっ?
半日ほどで瞬く間に下降する僕の体温。鎖骨の入り口から、なんらかの菌に感染していたようだ。
実は、他にも何人か原因不明の発熱を起こしている患者がいた。いわゆる『院内…』というやつ。ここんとこ、あんまし書くとまずいので、勘弁しといてあげる。誰も死ななかった(はず)だし。
 まあ、ともかく、めでたしめでたし。
 しかし、まだ点滴はしなければいけない。それから一週間ほど、両腕と両足から、だましだまし点滴を続けた 。
これが痛いのなんの。手足は腫れ上がり、注射痕だらけ。色はブス色(これ、北海道弁かな)。
このときもし新宿をほっつき歩いてたら、必ず連行されていたはずだ。ヤク中と思われて。

食べることが大きなチャレンジ

点滴棒にすがって歩く  さて、そろそろお食事タイム。と言っても口からじゃない。腸から。
 僕の右下腹部には、手術の際にあらかじめ、管が挿入されていた。これは胃の縫合部を通過せずに、その下から栄養物を流し込むための管。気持ちワル〜。何を入れるかというと、「液体のカロリーメイト」 と思えばいい。あの黄色がかったドロドロしたやつ。つまり、人間が一日に必要な栄養素を全部ドロドロに溶かしたやつだ。これをいきなり腸に流し込む。
 でも本当にいきなりじゃあ、腸がまいってしまう。そこで必要になるのが、少しずつコンスタントに液体を送り込む「ポンプ」。「レギュレーター」と言うらしい。それから、液体が冷たいと下痢をするので、腸に入れる前に暖める、「ヒーター」 。
 歩けるようになったと言っても僕はまだいろんな付帯物を引きずっていたわけで、そんな僕を見て友人達は、「恐いから歩かんでくれー」と懇願したものだ。

続く。絶対に続く。すんません尻切れで。絶対に続く。