==== 1996年2月のお話し ====


 天文学者にはなれなかった!
 ・・・ので、詳しいことはわからないのですけど、今回は閏年(4年に一回くる、"うるうどし"ですね) についての考察をば。
 今年の春分の日は3月の20日で、当然祝日。ですが、昨年の3月20日は、かの「地下鉄サリン事件」が怒ったもとい起こった日で祝日ではなかったのですね(休みの日であればあんな大惨事にはならなかったに違いない)。カレンダーを見返すと昨年の春分の日は21日で、1日ずれているのです。国民の祝日は毎年同じ日と思い込んでいる人も多かろうと察しますが、"春分の日"を広辞苑第四版で調べると(といいつつデータディスクマンで電子ブックのそれを検索し始める)3月21日頃と"ごろ"と書いてあるのですね。ちなみに「春分にあたり、自然をたたえ生物をいつくしむ日」(・・・そうだったのか)と続けて書いてあって、では、と"春分"を調べますと、「二十四節気の一。太陽の中心が春分点を上に来た時の称。春分を含む日を春分の日という。春の彼岸の中日にあたる昼夜の長さがほぼ等しくなる」とありまして、そういえばじいさんばあさんのお墓参りもサボりがちだなあと別のことも思いながらも、う〜む"春分点"の定義は、とさらに引くと、「黄道と赤道との交点のうち、太陽が南より北に向かって赤道を通過する点。赤経・赤緯および黄経・黄緯の原点」とありました。
 (当たり前のようであるが)おおっ、これはまさに天文学!
 国民の祝日ひとつを決めるのにも、このような緻密な天体の動きが関与していたとは。
 そういえば、オリンピックの開かれる今年は閏年で、これも絡んでいるんであろう。と、ひとり仰々しく納得して、これはもう少し天体の動きと暦について勉強せねば、申し訳が立たない(誰に対してだ、コペルニクスかガリレオかケプラーか、それとも祝日を定める国会か天皇か、はたまた古代エジプトの太陽神ラーか)と、なんとはなしに感謝しつつ、近所の図書館へ行ったのでありました。
 そもそも、地球が1自転するのに1日で、地空が太陽の周りを1公転するのが1年なんて言っているのが慣例であって、1公転が1自転の倍数になってないから端数が生じて、閏年なるものができるんであろうぐらいにしか理解していなかったから、書物を読んでみてその奥深さには、おっそれ入谷の鬼子母神でした。
 物の本によると、1恒星年とは、太陽が天球上で、同じ星の位置を2度通過するのに要する時間間隔で、365.26536042日であり、1回帰年とは、太陽が春分点を2度通過するのに要する時間間隔で、365.24219879日だそうだ。1回帰年が1恒星年より短めなのは、地球の歳差運動によるものらしい。歳差とは、地軸が傾いて回転する地球が、太陽と月の及ぼす回転モーメントによって引き起こされるコマの軸の変動のことであると書いてありました。
 小生は赤道直下(近くまではあるけど)や北極点に行ったことがないので実感がないのですけど、夏至の太陽位置ですが、緯度0度では正午にど真上の天頂に、緯度90度では時刻に関係なく地平から多少浮いた軌道をぽわーんと回るのですね。いやー、地球は球体なのですね。
 また、この天の赤道が地球の軌道面と23.5度傾いているってところで、四季が発生するのですが、ケプラーの第2法則による地球の軌道運動速度の変化のために、春:92日22時間、夏:93日14時間、秋:89日17時間、冬:89日1時間(以上於北半球)と、正確に4分の1年になっているわけではないそうだ。
 さて、ここで暦の話である。今日用いられているグレゴリオ歴は、1582年ローマ法皇グレゴリー13世の命令による暦の改革に始まるが、これはそれ以前に用いられていたユリウス歴よりもよしとされている。西暦年号の下2桁の数字が4で割り切れる年はすべて366日(閏年)という原則で、その上で100の倍数でしかも400で割り切れない年は365日の普通の年(例えば1700年、1800年、1900年)、さらに400で割り切れる年は366日の閏年(例えば1600年、2000年)と決めたそうな。で、結果、グレゴリオ歴の1年の平均の長さは、365.2425日となり、これは1回帰年の長さより僅かに0.0003日長いだけであり、この誤差は約3000年後にやっと1日になるぐらいの優秀さだそうだ。
 この辺りの暦の話は、月の運動(満ち欠け)を元にした太陰暦の話ややキリスト教が定める1週間に1日のお休み(教会へ行く)の話や近代の暦改革運動の話やいろいろと相まって、興味深いところであります。
 さらに、地球回転の不規則性の話を少し。星の観測から1日の平均時が得られるが、次のような理由で1日は24時間きっかりではないそうな。
 1.経年変化:潮汐摩擦によって、自転は遅くなる。100年間で0.0016秒程長くなる。
 2.ゆらぎ:地球内部の物質(マントル)の移動のため、自転速度の速い遅いが生じる。観測記録中で最大、-0.005秒(1871年)、+0.002秒(1907年)。
 3.年周期変化:季節的な大気の移動や極の氷解によるもので、3月に+0.0010秒、8月に-0.0011秒の最大値を記録する。
 ・・・それにしてもよく観察して、計算したものですな。
 ええっ、でも、じゃあ、暦の基準になるものって何なの、こまっちゃうじゃないの。ということで、1967年の第13回国際度量衡会議において、セシウム原子(原子量132.905)のあるエネルギー状態間の遷移における放射の91億9263万1770周期に要する時間として1秒が定義されたのでありました(原子時計)。暦表時という天体運動理論に依存するのは、ある意味で欠陥ですからね。これで心配なあなたも、セシウム原子を持ち歩いてカウントすれば、時間が計れてOKってところですね。
 でも、もともと経度0度の英国王立であるグリニッジ天文台で観察された恒星時より得られる平均太陽時である「世界時」なるものが存在して、上で述べた国際原子時にある一定の修正を施した「協定世界時」は、既存の世界時に歩度を合わせるべく年を追う毎に段階的に閏秒を挿入してきたそうな。
 なんだかドラマですねえ。と言いつつキーボードを打つ先に見やる壁時計は、1カ月に1分は先に進んでしまうのでありました。
 このページは、
 ・「カラー天文百科第2版」[dtv-Atlas zur Astronomie 原著(ドイツ)、カラー天文百科編集部訳、小平圭一監修、株式会社平凡社発行]
 ・「暦の科学("時"を読む基礎知識)」[山崎昭/久保良雄共著、ブルーバックス、株式会社講談社発行]
を参考にさせていただきました。
 ・・・今回は、写真も絵もないし、リンクもなしじゃ。



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