平成16年指定文化財

更新日 2013-03-03 | 作成日 2007-10-08

H16title.png

双水執流柔術

sousui.jpg
無形文化財・武術
福岡市博多区 個人

概要

 古代・中世には徒手による練武の方法として相撲が行われました。平安時代後期から室町時代ころまでは、武士の重要な戦闘法としての組討の修練に相撲が重んじられました。室町時代後期に兵法の一部として鎧組討の術が発達し、さらに小具足・腰廻(こしのまわり)・捕手(とりて)などという護身・組討・捕縛を主とする武術が現われます。これは相撲とは異なり、帯刀あるいは抜刀した相手に対しても、主として素手または小具足(脇差などの短い得物)を持って取り抑える術であり、その根本は「柔よく剛を制す」るところの体術にあり、江戸期には和(やわら)、柔術などと称されました。
 福岡藩においても剣術、槍術、鎗術、長刀、柔術、和術、剛術、躰術、體術、砲術、弓術、射術、馬術など諸種の武術が行われましたが、柔術(和術、剛術、躰術、體術)に関しては笠原流、扱心流、良以心当流、双水執流、自剛天真流、為勢自得天真流などの流派があったことが知られています。

伝系

 双水執流は、豊後竹田藩士二神半之助正聴が体術の一流である二神流を興した後、大和吉野川の流れを見て悟り、刀術も取り入れてそれを双水執流と称したことに始まる。二神氏は承応年間(1625-1655)、舌間氏の斡旋により黒田家に仕えその後高弟舌間氏に継承され現在に至っている。
系譜は以下の通りである。
 流祖二神半之助正聴(豊後竹田藩士)-二代田代清次郎則忠(寛文6年・1666)免許-三代舌間新次郎宗督(天和3年・1683)免許-四代舌間喜兵衛宗一(宗督長男)(元禄10年・1697)免許-五代大野弥兵衛宗勝(享保3年・1718)免許-六代舌間作五郎宗廉(宗督次男)(享保10年・1725)免許-七代榎本久右衛門忠直(享保15年・1730)免許-八代舌間七郎宗益(元文4年・1739)免許-九代臼木九十郎宗直(宗益三男)(安永3年・1774)免許-十代舌間直次郎宗章(宗直子、双水執流中興の祖)(文化15年・1181)免許-十一代舌間弥五郎宗綱(天保4年・1833)免許-十二代舌間慎吾宗継(宗綱養子、明治10年西南の役戦死)(文久元年・1861)免許-十三代舌間忘多宗綱(宗継戦死で再継承)-十四代青柳喜平正聰(大日本武徳会柔道範士)(明治28年・1895)免許-十五代舌間修三宗聴(昭和2年・1927)免許-十六代舌間萬三宗利(現宗家)

伝来の技 合計五百余技

 組討(くみうち、所謂柔術)及び腰之廻(こしのまわり、所謂居合・抜刀術)
 組討 計四十八本
  居取  松風返(まつかぜかえし)・胸搦(むねがらみ)・引伏(ひきふせ)・
      引廻(ひきまわし)・白刃取(はくじんどり)・小手返(こてがえし)・
      乱勝(みだれかつ)・逆殺(ぎゃくさつ)
  対徒手 胸取(むなどり)・諸手打(もろてうち)・行違(いきちがい)・道連(みちづれ)
      追掛(おっかけ)・山颪(やまおろし)・水車(みずぐるま)・翼〆(はがいじめ)
  四ツ組 込腰(こめごし)・大浪(おおなみ)・大返(おおがえし)・
      草摺返(くさずりかえし)・車返(くるまがえし)・小手搦(こてがらみ) 
      腹帯返(はらおびかえし)・腰返(こしがえし)
  対小太刀 篝(しがらみ)・折枝だ(おりえだ)・抜打(ぬきうち)・替身(かわしみ)
       取入(とりいれ)・刎腰(はねごし)・浪返(なみがえし)・
       菊座返(きくざかえし)・
  其他  延勝(のべかつ)・錣引(しころびき)・押勝(おしかつ)・襟返(えりがえし)・
      天理勝(てんりかつ)・柄留(つかどめ)・柄返(つかがえし)
 
 腰之廻 計二十四本
  表   向二刀(むこうにとう)=移水刀(いすいとう)・金光刀(こんこうとう)
      脇二刀(わきにとう)=発車刀(はっしゃとう)・雷光剣(らいこうけん)
      後一刀(うしろいっとう)=火車刀(かしゃとう)・
  中段  真向碎(まっこうくだき)・突留(つきどめ)・篭手落(こておとし)・
      風波之釼(ふうはのけん)・逆手抜(さかてぬき)・龍勢釼(りゅうせいけん)・
      虎勢刀(こせいとう)・稲妻(いなづま)・鎧通(よろいどおし)・
      二方詰(にほうづめ)
  立会  行会(いきあい)・行違(いきちがい)・道連(みちづれ)・呼掛(よびかけ)
  奥   戸入(といり) 

指定理由

 武器を持たず、あるいは小武器を利用し、突く・当てる・打つ・蹴る・投げる・固める・締る・抑える等々の技で相手を負かし、また相手の攻撃を回避する武術です。
 福岡藩時代にはこうした体術に本流派の他、笠原流、扱心流、良以心当流等があしましたが、現在ではそのほとんどが失伝しています。流祖二神半之助から数えて十六代目になる舌間萬三氏(昭和22年12月3日生)は組討と腰之廻からなる福岡藩伝来の当流柔術の継承者であり、後進の指導に努めるとともに、自らも研鑽に勉め、江戸藩邸を通して伝承した江戸伝の双水執流の研究にも余念なく本流派の継承・相伝にその使命を果たして居られます。