平成7年度指定

田隈の盆押し・盆綱引き


 8月15日、福岡市早良区野芥二丁目・三丁目の町内が中心になって氏神地禄神社に奉納する伝統行事です。
 8月13日早朝5時、地禄神社前に保存会の面々が集合、脊振山の山中に盆綱の材料にする茅を取りに出発します。午前中に約5トンの茅を刈り取り、地禄神社境内に運び込みます。
 13・14日の二日をかけて約3トンの茅を使って盆綱を綯います。数名づつ3組に分かれ、一握りの茅の根本を藁で縛って膨大な数の茅束を作ります。
 最初に、麻紐を芯にして茅束を差し継ぎながら盆綱の頭(かしら)が作られます。この頭を境内の二本の木の枝に差し渡した長さ5m程の丸太に掛け、更に茅束を頭に差し継ぎながら直径10cm程の3本の茅縄を綯っていきます。頭に継がれた縄が3m程になるとこの3本を綯って直径30cm程の1本の縄にします。綯い方は左綯いです。
 縄の長さは神社の建物を一周するのを目安として、大体50m程の長さになります。縄の最後の方は段々細く作られ、頭に対する尾のようです。また、引き手となる枝綱が多数取り付けられます。
 出来上がった盆綱は頭部分を直立させ、左巻きに七巻して境内に置きます。とぐろを巻いた蛇が鎌首を持ち上げた形に似ています。
 15日夜、精霊送りが済んだ8時頃、約2トンの茅を敷きつめた神社前の空き地で東西南北に分かれた数十名の褌姿の青年たちが肩車をして盆押しと言う押合いを行います。東西南北に分かれるのは、かつて4ヵ所にあった若者宿(頭の自宅が当てられた)、月星(現東龍)、若千鳥(現西龍)、南龍(現南龍)、若波(現北龍)の名残りです。
 神社前での盆押しが済むと、我れ先に境内に駆け込み、七巻にされた盆綱の上で再び盆押しを行います。盆綱の上での盆押しが済むと、青年たちは盆綱を境内から神社前の道路に引き出し、盆綱引きが始まります。
  綱引きは一方に青年たち、一方に町内の老若男女に分かれて引き合います。綱が切れると青年たちは盆押しを行い、その間に綱が結び直されます。綱引きと盆押しが綱が切れる度に交互に何度も繰り返されます。

 本行事は茅で綱を綯う点で本市草場の藤葛や西浦のくず葛とも違った特徴があり、龍蛇の姿を思わせる盆綱を左綯いに綯う点、また精霊送りを済ました後に、氏神である地禄神社に奉納される点で、盆綱引きという呼称にも拘わらず、九州南部に見られる畠作の収穫を水神に感謝する十五夜綱引きに近似するものです。盆行事に取り込まれる以前の古い形態をよく伝えているものと考えらます。
 また盆押しは、「おす」行為が「神が土地の精霊を圧し鎮めて、その年の農作などを約束させる一種の呪術的行動」(『年中行事辞典』東京堂出版)とされる点から極めて神事的であり、盆綱の上で押合った後に綱引きが始まる点から盆押しと盆綱引きは一体の行事であると考えられます。
 本行事は綱引きや押合いが盆行事に取り込まれる以前の古い形態をよく伝えるものと考えられます。
福岡県内での盆綱引き・盆押し・かずら引き分布