平成四年度指定

木造阿弥陀如来立像 1躯

福岡市博多区中呉服町9−21 宗教法人 選擇寺

 木像は、旧那珂郡と福岡l城下博多部を結ぶ石堂橋西側、旧称石堂口に所在する浄土宗鎮西派の選擇寺の本尊として祀られるものです。選擇寺の開創は16世紀中頃であり、17世紀には黒田如水の妹妙圓の開いた妙圓寺末寺となっています。

 同寺過去帳に引かれた慶長11年(1606)の五大力菩薩の縁起中に木像は行基の作と伝えられ、当時から古仏とみられていたことがうかがわれます。

品質 檜材 寄木造 彫 眼
肉身部漆箔 頭髪・法衣部彩色
白毫・肉に水晶嵌入
法量(糎) 像高 119.4 髪際下 112.1
頭頂〜顎 21.2 髪際〜顎 12.5
画幅 12.8 面奥 15.8
耳張 12.9 地髪張 14.1
肉髻張 10.1 胸厚 16.0
腹厚 19.9 肩張 25.8
臂張 40.5 袖張 35.9
裾張 27.8 足開(外) 15.3
足開(内) 7.0 台座総高 45.9
台座総幅 65.0 台座奥行 44.7
光背総高 159.4 光背総幅 68.8
切付螺髪数(髪際線) 35粒
切付螺髪数(正中線) 15段
形状  像高119.4cmの槍材の寄木造りで、肉身部に漆箔を施し、頭髪・法衣部を彩色しています。頭部は螺髪を整然と切り付け、髪際は水平に表されています。眼は彫眼で、下顎はふくよかで、首には丸味のある同幅の三道を刻んでいます。頭体部通して前後割矧で、頭部は三道下で装着しています。打診によると内刳りは深いです。体躯を包む法衣の衣文の彫りは浅く、正面・側面・背面ともにあまり省略されていません。上腿は薄いですが、衣文線は腰部からY字形に集束しながら垂下し、微妙な量感があります。側面観は前傾があまりなく直立しています。
 なお、鼻・右頬に打痕があり、また右手第三指を欠失しています。

 本像の由来については、行基作とした寺伝以外に他に徴するものはありませんが、明治の神仏分離で住吉神社の神官寺圓福寺から東光院に移された木造薬師如来坐像が元来昌林寺(後の妙圓寺)に安置されていたことから推察すると、木像もまた江戸初期に妙圓寺から末寺選擇寺へもたらされた可能性も考えられます。
 広めの瞼に前方下方をみつめる彫眼の伏目、円満な顔立ちと頬のふくよかなふくらみ、浅い彫りで流れるような美しい衣文線、腰部から垂下した衣文で量感のある上腿を表わす点など、木像の優美な像容は平安時代後期の作風と秀れた彫技を示しています。奈良や京都の中央仏師の手になるものと考えられます。
 以上のようにこの阿弥陀如来像は、本市には数少ない平安時代の仏像彫刻の優品として本市にとって貴重な文化財です。