いままでの言葉: 2006年
書名横にamazon.co.jp とbk1 へのリンクがあります。散財に御協力いただければ幸いです。
12月の言葉 : 「つらいことやら,楽しいことは, いつの世にもあることさ。 そとの世の中は争いばかり, それでもわしらは死にはせぬ」 from バラージュ・ベーラ「青ひげ公の城」吟遊詩人の前口上
バラージュ・ベーラ他 ; 徳永康元編訳『青ひげ公の城:ハンガリー短編集』(恒文社, 1998.2) 4-7704-0962-1
[amazon | bk1 ]
ネタ切れで抜き書き帳をひっくり返したら出てきました。バラージュ・ベーラはバラジュデーラとして最初に記憶に刻んで(野阿梓「花狩人」『銀河赤道祭』),後から著作を読むという逆転を,まあ基礎教養が無いのでよくあることです(^^;;
色々あるけど,とりあえず死なないほうがいいって子どもには教えないと。
11月の言葉 :「僕はあの人の飽くまで穏健な、目前に提供せられる受用を、程好く享受していると云う風の生活を、今でも羨ましく思っている。」from 森鴎外「百物語」
東雅夫編『文豪怪談傑作選 森鴎外集 鼠坂』(筑摩書房, 2006.8)
[amazon | bk1 ]
こういうおっとりした感じというのは真似して真似できるものではないだけに憧れます。別に上を見るなとか,清貧とかいう話じゃないですよ。話題になっているのは明治時代に「写真を道楽」にできた「いつも身ぎれいにしていて」服や持ち物の流行もきっちり押さえている「下町の若旦那」なんですから。
とはいえ,大鴎外が「羨ましく」なんていっててもその通りにとっちゃいけません。自分の創作をわかっちゃいない,「つまり捩じれた、時代を超絶したような考は持ってもいず、解せようともしなかった」のが彼の特色,なんて書いた上での羨ましいなんですから。本人に読まれても良かったんだろうか。てか,そんなことは気にしなかったんでしょう,明治の文豪は。
ファンから送られた年表と地図のお礼状に「ご使用になった資料の不備を考慮するときは,あまりの正確さに驚嘆しないではいられません」(『新訂版コナン全集1 黒い海岸の女王』(東京創元社, 2006.10)[amazon | bk1 ]とのりのりで書いちゃうハワードの方が,共有できるものがあるという意味で幸せだったろうなぁ。
10月の言葉 :「戦争と機械文明からの逃走,禁欲主義,絶え間ない放浪,官能的な理想郷への憧れ,私的な妄想への引きこもり,大きく騒がしいものから小さく静かなものへの移行。」from ブルース・チャトウィン『どうして僕はこんなところに』
池央耿・神保睦訳(角川書店, 1999.8)
[amazon | bk1 ])
ずいぶん前に書評で見たこの途方に暮れた迷子みたいなタイトルが頭に残っていて,でもMoleskinの帯やらWebサイトやらにゴッホやヘミングウェイと並べて書いてある紀行作家とは一致していませんでした。
この一節は,「ドナルド・エヴァンズ」から60年代の最高の夢についての部分。訳書には初出が書いてないのでググったところ,ウィリー・アイゼンハート『ドナルド・エヴァンズの世界』(The world of Donald Evans / Willy Eisenhart . (New York : Harlin Quist, 1980) )の書評 ("New York Review of Books" (May 14, 1981) 掲載。第1段落は無料で,全文は$3で読めます )。
ドナルド・エヴァンズは架空の国の切手(Achterdijk, 1972.) を描きつづけたアメリカ人画家 。まるでスティーブン・ミルハウザーの描く人物のようでしょう?チャトウィンの文章もミルハウザー同様,どんな状況どんな人物を描いても熱くなく,風景のよう。
エヴァンズは1945-1977,チャトウィンは1940-1989。
そしてこの夢は,いまどきのLOHASってのと異なって,よっぽど純粋で,生活感が無く,故に儚い。この夭折の創造者たちと同様に。
9月の言葉 :「本 livre: どんな本にしろ,かならず長すぎる」by G.フローベール
from 山田爵訳『紋切型辞典』(平凡社, 1998.11)
[amazon | bk1 ])
京極堂や『カズム・シティ』みたいなサイコロ本に限らず,「この内容に比して」と前ふりすればOKってことです。
19世紀にすぽっと収まっているギュスターヴ・フローベール(1821-1880)のフランス版悪魔の辞典。当時はサロンや新聞紙上で,いまで例えるならブログやニュース番組のコメンテーターの台詞で聞いたことのあるような言葉を集めたもの。
いわく「外国語は習うより慣れろだ」「天気: 永遠の話題。あらゆる病気の原因。年がら年中不平を言われる」「夏: 毎年「今年は特別」」「義務: 他人にはその遂行を強要し,自らはその束縛を免るべし」「新聞:なくては困るが,つねにその非を鳴らすべし」。
いまとなっては訳注なしには理解できないものもあるわけですが,たとえば「ベートーヴェン: その作品のひとつが演奏されるときには,ともかくも恍惚たるべし。「アンサンブルのすばらしさ!」「楽句の連なりの妙!」」という文章は(ベートーヴェンの楽曲はどこがいいのかわからないんだけど)何をいっているのか,わかる。一方,TV Bros.今週号掲載の青木優「1年10ヶ月ぶりの新作はメジャー・コード,もしくははじけるビートで統一されていて,強いロック感,さらにソウル・フィーリングともどもUKよりの味わいが増進している」(スガシカオ『PARADE』のレビュー)は何を言っているのか全然わからない。
別に後者が悪いんじゃなくて,完全に読み手の責任。アニソン以外聞かないから,形容する言葉が意味をなしてくれない。で,この先ますますGoogle先生がさくっと「欲しい情報」をくれるようになると,「だれでも当然読んで知っていることになっている(古典)」なんてものはなくなり(19世紀の人だって読んでなかったわけだし),かくて無関心なものどうし言葉は通じなくなっていくのでしょう。
誤解のないように書いておくと,いまのアニソンはクラシックからジャズ,ヒップホップ,テクノ,民族音楽てなぐあいにiTunesのジャンルは網羅してます。どうしたって“商品”である以上エッジな部分とは言いませんが。
要はベートーヴェンは第九の人,スガシカオはlainの人,それ以上求めない姿勢の結果がこの意味不明,それで別に(社会生活に)困らないわけで。
基本的には「色々知っていた方が楽しいよね」と思ってるんだけど,きっかけもないしどうやら聞くべきものが膨大にあるらしいので敬して遠ざけているというのがほんとのところ。もし第2帝政時代の人だったらそうは問屋が卸しません。
8月の言葉 :「ここで憑き物に逆襲されるとは!」by 水木大先生
from 荒俣宏「ミズキ幸福探検隊が決行した最後のニューギニア探検」(「怪」vol.0021, 2006年7月)
[amazon ])
水木しげる大先生のお言葉を引用したりして,その方が祟られそうですが……。
仕事で細々したトラブルが続いて,これはお祓いでもしれもらうか,お札を貰ってくるかという話に。全然,信心なんかしてなくてもそういう方向にいくのがこの国で育った人なのかも。まあ,そのレベルのあちゃーだってことですが。で,このあたりだと,今号の「日本トンデモ祭めぐり」にガマ祭りが紹介された筑波山?にんにく祭りの八坂神社?別雷神社のお札なら雷よけ兼用で一石二鳥?そんなのあり?
民俗学〜神道系はとんでも知識しかないから役に立ちません。お盆に実家に帰ったら氏神様で破魔矢でも……ってこのへんでもうめちゃくちゃです(^^;
7月の言葉 :「その人間は幻想的なものへ進むべく運命づけられているということである」by トーマス・オーウェン
『黒い玉』序
[amazon | bk1 ])
ワールドカップが終わりました。チェコ代表は残念だったけど,ドイツ代表はとにかく3位だし(優勝できるほど強いチームじゃないことは周知の通り),カーン様は株を上げたし。
で,どうして日本代表とかJリーグではなく欧州サッカーなのかとつらつら考えるに,この人たち,サッカーに出会わなかったらどうなってたんだろう,と思わせる選手たちの面構えが理由なんじゃないかと。特にイングランド代表を見ていただくと,言っていることがわかっていただけるのではないかと思います。リオ・ファーディナントのチンピラ顔,ルーニーも同様,ランパードは真面目な工員,ベッカムなんてサッカーやってなかったら絶対でぶでぶの肉屋の親父<物を投げないでくださいっ
そうそう,ドイツ代表で東部戦線ものっていうの思いついたんだけど,きっと来月の夏祭りで同案多数でしょうね<だからどうしてそういう方向に……。
さて,今月の言葉は文庫落ちを機にやっと読めた,表の職業は法律顧問,表の趣味?は美術評論家,しかしてその実体は幻想小説家,というベルギー幻想派の怖いというか気味の悪い短編集からです。一見,幻想的ではない話も実は幻想的。読んだ後に残る種類の話です。ご一読あれ。
6月の言葉 :
「サッカーの国の人は,それで一年のうちどれくらいを棒にふってるんでしょうか」by 水玉螢之丞
SFマガジン2006年7月号「今月の執筆者紹介」から[amazon | bk1 ])
というわけで,ドイツワールドカップです。4年前からのにわかファン としては見ない訳にはいかないんですが,夜中だからたいへんだ。ブンデスリーガの試合も生中継だと深夜12時からとかで,週末だからいいようなもののだっていうのに毎日だし。
カーンが正キーパーの座を奪われた,なんてドラマが既にでてますし。ドイツ代表は幸運を一次リーグ組み合わせ抽選で使い果たしたんじゃないかとか。ええ,余計な心配です。で,応援するのはなんだか素敵に悲劇が似合うチェコ代表なんだけど,ピークは2年前のユーロ2004って下馬評にうなずけるものもあり。
というわけで今月は寝不足決定かも。え,日本代表?別にそーゆー愛国心はないんで,いいです。
5月の言葉 :
「納期遅れは必ず返品になっていたので」by 浅倉久志 (SFセミナー2006 「超SF翻訳家対談」における発言)
浅倉先生は締め切りの遥か以前に翻訳を終わらせるんだそうです。元編集者の大森高橋コンビが言うんだからまちがいないでしょう。先生の訳業には遠く及ばないあれやこれや,締め切りだけは守らなきゃね。
ご尊顔を初めて拝ませていただきました。含羞,という言葉が似合いそうな素敵な方でした。柴野先生にちょっと感じが似ているかも。それにしても浅倉先生なかりせば,翻訳SFの世界はどんなことになっていたことか。「昔の人はすごかった」(色んな意味で)だそうですから。小尾扶佐さんや深町真理子さんとかもそうなんだけど,色々なジャンルを訳されているので「訳者の名前で買い」はできないませんが,ちゃんとした日本語だってことは誰も否定しないと思う。それに語彙の豊富さ。もちろん,『ぼくがカンガルーに出会ったころ』(国書刊行会,近刊)は絶対買いだ。
実は「◯◯さんは聖域だから」という「みんななんとなく納得,でも我が身に引き寄せちゃうと切実」,みたいなお言葉もあったんですが,差し障りがありそうなので,こちらにしました(^^;
4月の言葉 :
「読者は描かれたアクシデントを楽しみながら,しかし,決して不安になったり脅かされたりすることなく安心していることができる。」by 穂村弘
from 「「薬」としての本」(11) 現実の荒々しさから心を守るために(5)
「月刊百科」no.522(2006年4月号)
故に,『動物のお医者さん』は「途方もない願望を叶えてくれる強烈なファンタジー」なんだそうです。星雲賞候補に『動物のお医者さん』がノミネートされたSF大会の疑似ディベート企画のお題で「『動物のお医者さん』はハードSFかスペオペか」があったんだけど,そうか,ファンタジーだったのか(^^;*
というように目を見開かされることがあるから,ジャンル外の論評って面白い(ちょっと違うか)
とはいえ,穂村氏はこういっているけれど,娯楽としての創作物によって心揺さぶられ,現実を知ることもあるわけだし,優れたファンタジー,素晴らしいSFってそういうものだと思うのです。なんか,予定調和なアニメなぞ見ていると。
※「ひよちゃんが出てくるからハードSF」説と「北海道が出てくるからスペオペ」説が出ていたのは覚えていますが,軍配がどちらに上がったかは記憶の彼方。
3月の言葉:
「この時は来ない」
from エドマンド・スペンサー『妖精の女王』 第6巻「サー・キャリドアの礼節の物語」第5篇第2連の脚注
和田勇一, 福田昇八訳『妖精の女王』4 (筑摩書房, 2005.7)[amazon | bk1 ]
リン・カーターが「英語で書かれた二番目に長く,二番目に退屈な詩」(『ファンタジーの歴史』p.22 (東京創元社, 2004)[amazon | bk1 ]) と断言しているので,恐いもの見たさで挑戦したらけっこう面白かった大長編。昔の人だけにキャラたちまくり,行動無茶ありすぎ,って感じで。まあ,睡眠導入剤にちびちび読んだのが良かったのかもしれません。
時間がかかっても読破できたのは,簡潔かつ的確な脚注が完全フォローのおかげっていうのも大。
引用したのはアーサー王子たちを助ける野人について「むごい運命のためにこんなところに来てはいたが/実は高貴な血筋を引いていたのであって,/このことは,いずれ時が来たら語るとしよう」と歌った部分への注。果たして完結していたら「この時」は来ていたのかどうか。
脚注や解説がどんなにその後の展開を割っていても,1590-1596年刊行ならば,誰もネタばらし,なんて文句はつけません。これが新刊小説の後書きだったりすると書評で「後書きは絶対に読み終わってから」と書かれちゃうんし,地上波アニメだったりした日にはネットニュース,掲示板,最近ならコメント?トラックバック?が炎上しちゃう。だからか妙にネタバレを怖れる人がいます。
個人的にはどんなに落ちやネタを割っていても別にいいじゃん,と思います。後書きを先に読むような邪道にそれる(よくやるけど)のは自己責任。書く方は,読んだ人にどう行動して欲しいのか(作品に接して欲しいのか,知ったかぶりをしてほしいのか)を明確に自覚した上で,色々な考えの人がいると覚悟すればいいだけのこと。世の中には「次回予告は見ない」なんて極端な人までいるわけで。
2月の言葉 :
「……とか言って/僕ら四十あたりまで/このまんまだったら/どうしましょうね」by 猪八戒@『最遊記RELOAD』
峰倉かずや『最遊記RELOAD』6 (一迅社, 2006.2)[amazon | bk1 ]
安心しなさい,なるようにしかならないから(^^;
八戒まだ22歳だし(絵柄は変わっているけど,作中時間は大して進んでないから)。別にねぇ,年齢の上昇とともに性格や趣味が変わる訳でもなし。あ,でも食べ物の好みは変わるかも。
RELOADになってますますダメな最遊記です。完結しないんじゃないかなぁ,と思いつつ,ひたすら猪八戒のためだけに買ってます。ダメダメな『最遊記外伝』も天蓬元帥のためだけに買ってます(同じことだ)。この作者,世界とか社会体制とか大状況をぜんぜん説明できない(しないんじゃなくて。作れてないのかも)から読んでいていらいらするんだけど,そこはほら,惚れた弱みでね。
1月の言葉 :
「どこか遠い,有限の世界で進化したとき,トランスミューターは生きのびるためになによりもいちばん価値のある特質を受け継いでいた」from グレッグ・イーガン『ディアスポラ』
グレッグ・イーガン ; 山岸真訳『ディアスポラ』(早川書房, 2005)[amazon | bk1 ]
すなわち,自制 。
この最終段階まで読んで,「うわぁぁっ,これってバカSFだったのかっ」と気づいたなんてまだまだまだまだ修行が足りません。おまけに,頭がうにうにしたので解毒にわかりやすい『銀河遊撃隊』[amazon | bk1 ]を読んじゃったし。
もちろん,この真相はヤチマの探求とリンクして小説としての完成度は素晴らしいし,イーガンで一番(わけわかんないなりに)読みやすうございました。
そして,この言葉はたしかに真理。新年の抱負って奴で(つまり続かないであろうけれど),キレやすく易きに流れる我が身の自戒としたいと思います。
今年の年賀状(犬尽くし)の引用もとです。
『世界大博物図鑑』第5巻 哺乳類/いろはカルタの1枚目/「農夫ジャイルズの冒険」(『トールキン小品集』所収)/花咲か爺さん/フランダースの犬/ハーラン・エリスン「少年と犬」(『世界の中心で愛を叫んだけもの』所収)/名犬ジョリイ/慣用句/『シルマリルの物語』/『世界大博物図鑑』第5巻 哺乳類(ご存知,『八犬伝』)/オランダの電波望遠鏡で行われているプロジェクト/ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』/『指輪物語』/ジョン・ボガート 1845−1920 アメリカのジャーナリスト/ことわざ
rh7r-oosw@asahi-net.or.jp