1996年8月1日、長岡京市保育料決定処分異議申立ての口頭意見陳述(1996年7月30日)について、行政不服審査法の趣旨に反する陳述制限などがあったとして、やり直しを求める別紙の公開要望書を長岡京市役所に送付しました。
 現在、保育料のあり方について審議をしている、「長岡京市児童対策審議会」についても、市は徹底して公開をしない態度をとり続けており、傍聴を認めず、議事録を公開しないだけでなく、誰が審議会の委員か(委員の氏名や肩書き)さえ、公開しておりません。 (これについては、5月30日付「請願書」参照)
 結局、前述の異議申立ての口頭意見陳述が、残された唯一の市民としての意思表示の手段です。しかし、それさえ、陳述時間の制限(5分間)や陳述内容の制限の結果、事実上奪われてしまうことになっています。

       公開要望書

                              1996年8月1日
 長岡京市長 今井民雄殿

                              長岡京市(以下、略)
                                脇田 滋
                              (異議申立て補佐人)

保育料決定処分異議申立ての口頭意見陳述やり直しについて

要望の趣旨

 以下について、行政不服審査法の趣旨に反する点があったと考え、至急に、次の3点について要望する。

  1.7月30日の口頭意見陳述では、陳述に対する違法・不当な制限があったので、行政不服審査法の趣旨に適した方法で、口頭意見陳述をやり直すこと

  2.意見陳述聴取を代理人ではなく、貴職(市長)自身が担当するか、代理人とするときには、7月30日の聴取者であった松村尚洋総務部長は、資格を欠くと考えられるので、意見陳述聴取を公正に行える他の市職員に差し替えて、改めて口頭意見陳述の機会を設けること

  3.上記2点について、文書で回答すること

要望の理由

 (1)国民の権利利益の救済を図る不服申立て制度の趣旨に反する不公正な運営

 貴職の本年4月の保育料決定処分について、20名を超える異議申立てが行われ、1996年7月30日午後6時半より8時過ぎまで、市役所大会議室で、申立て人合同の口頭意見陳述が行われた。私は、4名の申立人の補佐人として出席した。
 行政不服審査法は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使にあたる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」と定めている(同法第1条1項)。つまり、「簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る」ことが不服申立て制度の目的とされている。
 ところが、長岡京市では、保育所保護者の権利利益が、保育行政によって侵害されていると保護者が考えて不服申立てをしているにもかかわらず、その保育行政の推進者であった人物が聴取者になるなど、下記に述べるように、「権利利益」の救済を目的とする行政不服申立て制度の趣旨に反した、運営がなされている。

  (2)松村尚洋総務部長による違法・不当な陳述の制限

 冒頭、聴取者である松村総務部長は、1 意見陳述は5分に限ること、2 申立ての対象となる保育料に関連のない保育内容等については触れないこと、という趣旨の発言をした。その後も、この2点を繰返し、申立人等の陳述を制限しようとした。

  (3)法的な根拠のない陳述の制限

 このような制限は、行政不服審査法に何らの法的な根拠をもたないものであり、また、過去5年間の口頭意見陳述のなかでも行われなかったもので、違法かつ不当な意見陳述の制限である。
 行政不服審査法第25条1項但書は、「審査請求人又は参加人の申立てがあったときは、審査庁は、申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない」と規定し(異議申立てについては、第48条が準用)、これは、第30条の審査庁による審尋とは区別され、申立人の意見を十分に聴取するものと解するのが一般的である(相良浩一郎・渡邉司編著『地方行政不服審査ハンドブック』ぎょうせい等参照)。
 したがって、前記のように、意見陳述聴取者である松村総務部長が、口頭意見陳述を5分間に制限したのは、法的な根拠に基づかないものである。
 本来、本件異議申立ては、合同で行われたものではなく、個別の申立てであるから、口頭意見陳述も個別に開催するべきである。個別方式をとれば、時間もゆっくりとれるはずであるが、合同陳述の方式をとり、7月30日の日程を指定したのは、市の一方的な都合によるものである。この点でも、合同方式をとったことを理由に、5分間の時間制限を加えることは、いかにも身勝手であり、合理的理由はまったくない。
 実際にも、陳述者は補佐人を含めて、約10名であり、とくに5分間に時間制限をする合理的な理由は存在しない。また、松村総務部長は、陳述を午後8時までに終えたいことも発言した。市役所が主催して、夕方から開催する各種催しも午後9時を過ぎることがほとんどであり、時期的にも午後8時に陳述を終えるべき公務上の特別な理由は一切ない。
 当日、私が質したところ、松村総務部長は、5分間に陳述を制限する法的な根拠を示すことができなかった。

  (4)従来の口頭意見陳述では行われなかった不当な時間制限

 長岡京市では、本年度で9年連続の保育料引上げが行われ、これに対して、1991年度、1992年度、1993年度、1994年度、1995年度と5年続けて多くの保護者が不服申立てを提起し、各年度とも、口頭意見陳述を行った。また、参加人として、口頭意見陳述を行った方もある。
 この過去の5年間の意見陳述では、5分間などの時間制限をすることはなかったし、申立人の都合に合わせて、1993年度には、意見陳述を2日に分けて行うなど、申立人の陳述を十分に聴取するという、行政不服審査法の趣旨に相応しい運営が行われた。
 前記の時間制限は、今年度の聴取者となった松村総務部長の独断であり、従来の長岡京市による対応を、法的根拠も、合理的根拠もなく、一方的に変更する不当なものである。

  (5)聴取者としての資格を欠く松村総務部長

 異議申立ての口頭意見陳述は、本来、最終的な決定を行う市長が、直接聴取すべきである。仮に代理の意見聴取者を市職員から選任するとすれば、行政不服審査法の趣旨を十分に理解している人物で、かつ、申立人の陳述を、誠実に聴取し、予断や偏見なく、もっとも公正かつ正確に市長に伝えることができる人物でなければならない。少なくとも、申立人が、その点について、強い疑問を有する人物が聴取者であってはならないはずである。
 ところが、7月30日の口頭意見陳述の聴取者である松村総務部長は、この聴取者としての最低限の要件を満たしていない。
 まず、松村総務部長は、現実に、行政不服審査法の趣旨に反する口頭意見陳述の制限を行った。この点で、同氏は、聴取者として適任でなかった(この点は、(2)以下で述べた通り)。
 また、松村総務部長は、「申立ての趣旨である保育料決定に直接関連しないことは述べないように」という趣旨の発言を冒頭に行い、口頭意見陳述について内容的な制限を加えようとした。行政不服審査法の意見陳述は、裁判とはことなり、そのような制限を厳しく定めていない。
 保育行政についても、その関連する範囲は広く、保育料に限ってしか意見陳述をしないように指示する必要はないし、また、過去5年間の意見陳述でも、内容的な制限はとくになかった。実際の過去の陳述でも、保育行政や保育所運営と保育料引上げのかかわりを問題にしたものが多く、上記の陳述内容の制限は、申立人の陳述を不当に圧迫するものである。
 第2に、松村総務部長は、以下に述べる理由により、口頭意見陳述聴取者として、市の職員のなかで、もっとも相応しくない職員であると考えられる。とくに、多くの申立人や補佐人が、同部長を聴取者として公正さを欠く人物であると考えてもやむをえない。

 (ア)松村総務部長は、本件異議申立ての対象である保育料引上げ決定に、深くかかわってきた。長岡京市では、保育料引上げが本年度で9年連続となるが、この連続引上げが開始されたのは、松村総務部長が福祉課長として、保育料決定の直接の担当者であった時代からである。

 (イ)保育料決定処分にかかわる異議申立てが行われるようになったのは、松村福祉課長時代以降、保護者会との話合いや市民・保護者への説明会が行われなくなったことが一つの要因である。保育料引上げについて、保護者との話合いや事前の説明会がおこなわれなくなったために、保護者としては、保育料引上げに対して反対の意思表示をする方法として、行政不服申立ての手段しか残されなくなったのである。

 (ウ)保育料決定処分に関連して、保護者は長岡京市立保育所での異常な保育所運営や保育体制について不服をもっている。
 とくに、長岡京市立保育所では、児童福祉法や最低基準に反する保育が問題となり、京都弁護士会人権擁護委員会が、2回にわたって人権侵害の改善を貴職に要望した(1992年2月25日、保母職員の生理休暇取得をめぐる人権侵害改善等の要望書、1995年3月17日、保育体制と保護者会活動妨害など人権侵害の改善を要望書)。
 このような人権侵害の問題を引き起こす保育行政の一方で、保育料が引上げられることが、不服申立ての理由となっている。保護者が、保育料引上げについて、不服を申立てた理由の主なものは、第1に、長岡京市が一方的に話合いや説明会ぬきに一方的に9年連続引上げたこと、第2に、保育内容が低下していること、第3に、保護者や保護者会と協力をしようとしない長岡京市立保育所の運営が不当であるということである。

 (エ)こうした現状が生まれたのは、まさに、松村氏が福祉課長の時代であり、それ以降、異常な長岡京市立保育所の管理運営体制が維持されている。ところが、松村総務部長は、本人が福祉課長の時代にこのような異常な保育行政を開始したこと、保護者がそれについて強い不満を有していることを熟知しており、公正な聴取者の立場には立てないと考えられる。

 (オ)7月30日の陳述についても、松村総務部長は、申立人の陳述を最後まで聞かずに再三、陳述の途中で、陳述内容に勝手にコメントを加えたり、訂正をするなど、聴取者として不適切な態度をとった。これが不当であることは、補佐人である私が、繰返し指摘したが、同部長は、この態度を改めなかった。陳述をした申立人の一人(女性)は、「人のはなしを聞くときは、キョロキョロしたり、足を何度も組みかえたりせずに、しっかりと聞いて下さい」と松村総務部長に対して抗議を表明した。

 (カ)松村総務部長の一方的な陳述制限の結果、口頭意見陳述の場は、落ち着いた雰囲気が一挙に失われ、緊張した異様な雰囲気となってしまった。一般の市民にとって、口頭意見陳述は、非日常の場である。その場で、高圧的な陳述制限、とくに5分間という、予想外の時間制限がされれば、自由な発言はきわめて困難となってしまう。高い保育料を支払いながら、「日頃の子育てにかかわる不満を述べたい」と準備して参加した多くの申立人が、「胃が痛くなってしまった」と異口同音に話していたことに、当日の雰囲気がよく表れている。感情がたかぶり、声を詰らせ、ゆっくりと自由に自分の思いを発言をすることができなかった申立人が少なくなかった。

 この点では、聴取者松村総務部長が、不当にも、口頭意見陳述を5分間に制限し、陳述内容についても制限を加えたのは、まさに、同氏自身が、福祉課長時代から進めたきた保育行政に対する不満が、保護者から次々に陳述されるのを嫌ったからであると考えられる。同部長が、「権利利益の救済」という制度の趣旨をまったく理解していないことも明らかになった。
 裁判制度においては、当該事件に過去に直接当事者や関係者となった裁判官は、その事件の担当をせず「回避」することが予定されている。行政不服申立てについては、明文の規定はないが、同様な法理が適用されるべきであるし、裁判制度とは違って、より柔軟な運用が可能であるのであるから、市長はより公正さを担保できる市職員を聴取者とするべきであった。同部長が「権利利益の救済」という行政不服審査制度の趣旨を理解していないことも、7月30日の口頭意見陳述の進め方から明らかになった。

 また、口頭意見陳述については、録取して文書化することになっている。この録取書は、貴職の異議申立についての決定のために、少なくとも、公正に意見陳述内容が伝わると申立人が思えるものでなければならない。ところが、松村総務部長の7月30日の聴取ぶりからは、この録取書作成について、陳述内容や抗議内容が「関係ないものとして」恣意的に削除され、その結果、公正な録取書が作成さないのではないかと強く危惧される。

 貴職は、口頭意見陳述にあたって、上記の疑念や問題が生ずることのないように、すくなくとも、聴取者として松村氏の選任を回避すべきであった。7月30日の口頭意見陳述は、行政不服申立て制度そのものの公正さや客観性に疑問を生じさせる点で、行政不服審査法の趣旨に反したものであり、改めて法の趣旨に即した適切な方法で行われるべきである。


 付記

 この要望書のコピーは、京都行政監察事務所、厚生大臣、京都弁護士会をはじめとする関係諸機関、報道各社などに送付し、また、保護者・市民をはじめ、インターネットなどを通じても、広く一般に公開する予定であることを付言する。


保育料訴訟関連リンク先

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長岡京市児童対策審議会公開についての請願書
長岡京市長あて人権侵害改善要望書全文
長岡京市保育料訴訟の主な争点
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