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第153回  工房の 幸せの音が聴こえる


「ねぇねぇ、お母さん、
 もう、ルーを入れてもいいでしょう? こんなにお鍋がクツクツいってるんだもの。」
「だ〜め。
 もうちょっと煮込んだほうが美味しいのよ。
 それに、」
「それに、、、、なぁに?」
「てでおちゃんの苦手なニンジンもよ〜っく煮込むと小さくなるのよ。」
「ぼ、ぼく、ニンジンなんて苦手じゃないもん。」
「そうね、てでおちゃんは好き嫌いなんて無いものね。」
「う、、うん。
 で、でも、もうちょっとしっかり煮込んだほうが良いかな。」
「そうね。」


     

「でも、ルーを入れるのは、僕だからね。」
「わかってますよ。
 でも、もう少し時間が掛かるから、向こうでテレビでも見てなさい。」
「は〜い。」


「ん? どうしたの、てでおちゃん。
 テレビは見ないの?」
「うん、テレビも好きだけど、、、」
「だけど、、? なぁに?」
「ぼ、ぼく、テレビよりもお母さんの方が好きなんだ。
 ここで、カレーライス作るの見ていてもいいでしょ。」
「うふふ、見ていてもいいけど、危ないからあんまりコンロに近付いちゃだめよ。」


 トントントン サクッサクッサクッ ジャッジャッジャッ
 シュ〜シュ〜シュ〜
 パタパタパタ

「ねぇ、お母さん。」
「なぁに、てでおちゃん?」
「台所って、いろんな音がするんだねぇ〜。」
「そう?
 聞いていて楽しい?」
「うん、楽しいよ。  ぼく、とっても楽しいよ。」


                                                   第154回に続く