もどる
第152回  工房の 思わぬ落とし穴

「どうしたんですか、くま旦那さん。
 大きな溜息なんてついて。」

とある冬の日の夜、
一人で作業を続けていた僕に傍らに、何時の間にか輝豸雄が立っていた。

「おぅ、輝豸雄か。
 いやな、なんというか、此処のところ
 仕事でも、遊びでも、失敗続きで、ちょっと落ち込んでいたんだよ。」
「そうなんですか。」
「そうなんだよ、、、。  はぁ、、、。」
「一体どうしたんでしょうね?」
「そうなんだよなぁ、、、。一体どうしたんだろう、最近の俺は。」
「ねぇ。 不思議ですね。」
「う〜ん、もしかしたら、あれかも?」
「なんですか? あれって?」
「いやね、気にはしてないんだが、
 今年の初詣で引いた御神籤が 「 凶 」 だったんだよ。
 あれが、いけなかったのかなぁ?」
「え〜っ! 御神籤が 「 凶 」 だったんんですか!! 
 其れは良くないですよ、くま旦那さん。
 ちょ、ちょっと待ってて下さいね。」

そう言うと、輝豸雄は慌てた様に、部屋を出て行った。

そして、、、
やがて、満面の笑みを浮かべながら、彼は帰ってきた。


        

「く、くま旦那さん、
 そんな時には、こ、これ。
 脅威の御神籤石ですよ。
 僕も先週行商の小父さんから無理言って分けて貰ったんですけど、
 それ以来、なんかこう、随分と調子がいいんですよ。
 また、来週来るって言ってましたから、一緒に買いませんか?」

輝豸雄の手には、大きく ” おみくじ石 ” と書かれた 正体不明の包みがあった。

「て、、輝豸雄、、く、、ん。
 そ、、それ何処で買ったの?
 それに、 一緒にって、もう一個持ってるじゃない。  まだ買うの?」
「いやぁ、その小路さんが言うには、こういうのは一人で何個持っていてもいいんですって。
 先週は、ほら、お給料日の前でぼく、お金が無かったし。」
「て、、、輝豸雄、、、く、、、ん。」
「何ですか、くま旦那さん。」
「ち、、、ちなみに、、、その、、、 ありがた〜い”石”は、御幾らだったの?」
「聞いてくださいよ〜、くま旦那さんっ!!
 普段は1個38万円もするのに、先週は、新春特別御利益決算御買得大商談セール中だったんで、
 なんとっ! 9,800円だったんですよ。
 凄いでしょぅ〜。 くま旦那さんの好きな、 ” 超御買得 ” ですよ〜。」
「て、輝豸雄ぉ〜。」



嬉しそうにはしゃぐ輝豸雄を見ながら、
僕は、
 ” 人生って、何処に落とし穴が或るのかなんて、きっと、神様にだって判りっこないんだ。 ” と思った。


                                                   第153回に続く