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第138回  工房の 輝豸雄の秘密    〜 決 意 〜

「へぇ〜 これが輝豸雄自慢の貯金箱かぁ。」
「かっこいいなぁ〜。 欲しいなぁ。」
「だ、ダメだよ。 これは、大事なお金なんだから。」

  
  

輝豸雄の腕の中には、小さな熊の貯金箱があった。

「なぁ、ちょっと見せてみろよ。」

甘栗がその貯金箱に手を伸ばした時、輝豸雄が大きな声を上げた。

「だ、だめっ! だめったら、だめ。
 こ、これは、大事な大事なお金なんだ。」
「な、何だよ。 そんなに大きな声をだすなよ。
 俺が悪かったよ。  なんだ、、その、、ごめん。」
「う、ううん。  
 僕こそ、大きな声を出してごめんね。
 でも、本当に大事な大事なお金なんだ。」
「そっか。 ほんとにごめんな。」

麝弐猪は、そんな二人のやりとりをじっと観ていた。



やがて、甘栗が口を開いた。

「なぁ、輝豸雄。
 そんなに一生懸命お金を貯めてどうするんだよ?
 勿論、お前の給料だから、俺がとやかく言う事じゃないとは思うけどさ。
 もしかしてお前、女でも出来たのか?」
「莫迦言うない(笑)。」



輝豸雄は、甘栗と麝弐猪を観た。
その顔は、笑っているようにも、泣いているようにも見えた。

  何故だか麝弐猪は、嫌な気持ちがした。
  甘栗は、取り留めの無い不安に苛まれていた。



そんな二人の気持ちを察してか、輝豸雄がゆっくりと話し始めた。



「実は、俺、
 工房を出ようと思うんだ。」


                                                   第139回に続く