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第139回  工房の 輝豸雄の秘密    〜男達の旅路〜

「お、お前、、、。 ど、どうして、、、。」
「え〜っ、輝豸雄くん居なくなっちゃうのぉ?」



二人は、驚きの声を上げ、そして、輝豸雄を見つめた。



「今すぐって訳じゃないさ。 お金もないし。
 でも、、、、。
 でも、何時までも此処に居ちゃいけない様な気がするんだ、、、、。」
「輝豸雄、、、お前、まだ、あの娘のことを、、、。」
「・・・・・・・・・。」
「て で お く 〜 ん 、、、、、。」
「・・・・・・・・・。」
「お、お前、、。」
「い、今すぐって訳じゃないよ。 本当にお金だってつい最近貯め始めたばっかりだし。
 いつかは出なくっちゃ ってことさ。」
「そうか、、、。
 もう、くま旦那には話したのか?」
「ううん、まだ。」
「そうか、きっと寂しがるな。」
「もうちょっとお金が貯まって、出て行ける目処が立ったら話そうと思って。」
「・・・・・・・、そうだな。」



      



「なぁ、輝豸雄。」

甘栗が話し出した。

「今、一体いくらぐらい貯まったんだ?」
「そうだな。
 だいたい、80円くらいかな。
 ここ半年くらい殆んど無駄使いもしなかったし、結構貯まったと思うよ。」
「は、はちじゅうえん
〜ん???!!!」
「うん、80円。」
「80万円の間違いだよな。」
「何、その万円って?
 やだなぁ、日本の通貨は ” 円 ” だよ。 ” 万円 ”って何処の国の通貨なの?」
「お前、一人暮らしって、いったいどれ位お金がかかるか知ってるのかっ!」
「よくわかんないけど、300円くらい?かなぁ。
 このペースで行くと、あと一年くらいで貯まると思うよ。







甘栗は、輝豸雄の肩を掴み、じっと輝豸雄の顔を見て、そして部屋を出て行った。
麝弐猪は、黙って出て行く甘栗の後をついていった。

輝豸雄は、一人残されて、ちょっとだけ寂しかったが、
急にこんな話をしたので、あの二人は怒って出て行ったのだと思って、その日は寝てしまった。






翌日、輝豸雄が目を覚ますと、部屋の外に、手紙と一冊の本が置いてあった
手紙は、甘栗の物で、本は、「 週刊住宅情報 」 という本だった。


その手紙と、本を読み終えたとき、
輝豸雄は自分が此処を出て行くのと、地球が太陽に飲み込まれるのと
どっちが早く訪れるだろうか? と考えて、ちょっとだけ笑った。


                                                   第140回に続く