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第130回  工房の 白い闇を抜けて

「ホイっ、一面クリアっと。」
「・・・、・・・。」
「それにしても、液晶テレビとはねぇ。
 テレビが観られないのには、笑っちゃったけどさ。」
「そうだな。」


  輝豸雄が工房に帰って来てから、1週間が過ぎた。
  麝弐猪はくま女王のお供で親類の法事に出かけていたし、
  くま旦那は、町内の寄合いで、出かけていた。
  今、工房にいるのは、輝豸雄達二人だけだった。


「で、どうだったんだ。」
「ん?  何が?」
「何がじゃねぇよ。」
「・・・・・、・・・・・。」
「お前の本当は、見つかったのか?」
「・・・・、・・・・・・。」
「そうか、、、、、。」


   


二人の間に、穏やかな静寂があらわれた。
優しく、暖かい静寂だった。


  輝豸雄は、甘栗を見た。
  甘栗もまた、輝豸雄を見ていた。
  沈黙が訪れた訳ではない。 言葉が必要無かったのだ。






「そっか、見つからなかったか。」

  甘栗がそう呟いた時、輝豸雄が口を開いた。

「あの先に、
 あの壁の先に、あると思ったんだ。」

  輝豸雄の瞳は、甘栗を観ていなかった。

「あの先に、僕の 本当 が、あると思ったんだ。
 白い光の中に、きっと、、、、。 本当 が、、、。」



「輝豸雄、、、。 お前、、、。」

  甘栗は、輝豸雄を観た。
  輝豸雄の瞳は、やはり甘栗を見つけてはいなかったが、彷徨っているわけではなかった。
  甘栗は、黙って、輝豸雄を見ていた。


やがて、その瞳は、甘栗を見つけ出し、
輝豸雄は、こんな言葉と共に、甘栗の処に帰って来た。

  「ありがとう。」


                                                   第131回に続く