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第128回 工房の 帰ってきた ア イ ツ
「ねぇねぇ〜。 大変だよ〜。
大変なんだよ〜。」
「うるさいなぁ、少しは静かにしろよ。」
「あっ、甘栗くん! 大変なんだよ。
テレビに映ったんだよ。 凄いんだよ。」
「何がTVに映ったって?
また、くま旦那が行列でもしてたのか?」
「ち、違うよ、甘栗くん!
て、輝豸雄くんが映ったんだよ。」
よ〜きゅ〜ごしゃできんきゅ〜でこくさいくじょたいで、
みんなしんぱいでいきをのんでかたずけてさいごはかさいなんだって。」
「 ?!
なに言ってんだ、麝弐猪。 いいから、落ち着いて話せよ。」
「だから、きゅじょできんきゅうでみんなでかさいでだいせいこうなんだよ。」
「訳わかんね〜?。」
「いいから、テレビを観に行こうよ!。」
甘栗は麝弐猪に言われるまま、後をついて部屋を出た。
リビングのTVをつけると、
ニュースがその事件を報道していた。
そのニュースを観ながら、甘栗は、
どこかの国で、誰かが塀の間に閉じ込められたらしいこと、
その、閉じ込められた人は、もう何週間もそこに閉じ込められていたこと、
奇跡的に無事で、今でも生きていること、
地元のレスキューではどうしても救助できなくて、国際救助隊を呼んだこと、
その作業が終わって、その人は今は、病院に運ばれたこと、
を、知った。
TVが、その様子を放送し始めた。
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アナウンサー 発見から既に36時間が経過していますが、 大丈夫でしょうか? 隊員 我々が到着した時には元気に 応対してくれて いましたから、 大丈夫だと思います。 本当のことを言えば、もう少し早く 呼んでもらえれば 良かったんですが。 アナウンサー 後どれくらいかかるでしょうか? 隊員 今、最新装備の”ジェットモグラ”を発進 させました。 10分以内に救助できますよ。 アナウンサー 放送を御覧の皆様、 後10分程で、救助できるそうです。 今しばらく、お待ちください。 それにしても、どうしてあんな所に 入っちゃったんでしょうね(笑)。 隊員 さぁ、それは、彼に聞いてください(笑)。 |
「な、なんだ? こりゃ?」
「ね、ね、すごい事件でしょ。
くじょたいがいきをのんでかさいなんだよ、みんな。」
「 ? 」
「輝豸雄くんが出てきたのは、もうちょっと後だったよ。」
「本当に、出てたのか?麝弐猪。」
「うん、みんな、大きなこえでさわいでかんせいでがっしょうしてたよ。」
「解からんなぁ。」
「あっ、ほら、輝豸雄くんだよ。」
アナウンサー
い、今、隊員に抱かれて、出てきました〜!
か、可愛い”こぐまちゃん”の様です。
「あ、輝豸雄、、、、。」
そのまま、甘栗は、言葉を失った。
彼の目は、TVを観てはいたが、観えてはいなかった。
「ね〜、輝豸雄くんでしょ。
帰って来ないと思ったら、塀の間にはさまってたんだねぇ。」
「・・・・・・・・・。」
「どうしたの、甘栗くん?
さっき、病院でも元気だってテレビで言ってたから、きっともうすぐ帰ってくるね、輝豸雄くんさ。」
「・・・・・・・・。」
「うん? どしたの?」
はしゃぎまわる麝弐猪の前で、甘栗は言葉を失ったままだった。
”て、輝豸雄のやつ!
ジェットモグラに乗ったんだなっ!
あ、あの野郎、俺もまだ乗った事無いのにっ!”
甘栗の怒りは、深く静かに燃える炎となっていた。
第129回に続く