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第121回 工房の アスカ という 女の子
もう、教室に生徒は殆んど残っていなかった。
午後の授業は「音楽」だったので、
皆、すでに音楽室に移動していたのだ。
社会科の授業で使った世界地図を社会科資料室に返しに行った帰りに、
輝豸雄は担任のみずほ先生から頼まれ事を言い付かって、
教室に帰ってくるのが遅れたのだ。
” 早く、食事を摂らないと ” 輝豸雄は机の中から、
今朝、コンビニで買ってきた弁当を取り出した。
「なによ〜、輝豸雄。
あんた、コンビニのお弁当なんて食べてるの?
だっさ〜っい!」
その声に、輝豸雄は顔を上げた。
「ア、アスカ、、、か。」
アスカは、机の上に腰掛けて、輝豸雄を見ていた。
「アスカか、は ないでしょ! 輝豸雄。」
「何だよ。」
何事に付け、輝豸雄に突っかかってくるこのアスカという少女が、
輝豸雄は苦手だった。
「何だとはなによ、輝豸雄。
この私が声をかけているのよ、ちょっとは嬉しそうな顔しなさいよ。」
輝豸雄は、話し掛けてくるアスカを無視して、コンビニの弁当に手をかけた。
「ちょっと、無視しないでよ。」
「飯食ってる時は、話さない事にしてるんだ、すまんね。」
「何よっ、輝豸雄、、。」
心を決めて、輝豸雄は弁当を食べ続けた。
まもなく、昼休みも終わる。
”音楽室に行かなくては。”
暫く黙って輝豸雄を見ていたアスカが、口を開いた。
「そいうえば、アンタ 昨日もコンビニのお弁当だったわね。
お弁当はどうしたのよ。」
「お袋、先週から入院してるんだ。
仕方ないだろっ。」
「・ ・ ・ ・ 。 そっか、ごめん 。」
二人の間に、沈黙が漂っていた。
最初に、口を開いたのは、アスカだった。
「あ、あのね、輝豸雄。」
「う? 何だい。」
「あ、アンタさえ良かったら、、、。」
「 ? 」
「明日から、アンタのお弁当、わたしが作ってあげてもいいよ。」
「 えっ、 なにっ? 」
輝豸雄から、目を逸らしながら、アスカが話し続ける。
気のせいか、頬が染まっているように見える。
「アンタさえ、、、うん、 もう、 何度も言わせないでよっ!
あたしの隣に座っているアンタがコンビニの弁当なんて食べてると、
あたしが恥かしいのよっ!
明日から、そんな物、買って来なくていいからねっ!
解かった! 輝豸雄っ!」
そう叫ぶと、アスカは教室を出て行ってしまった。
一人残された輝豸雄は、机の上の弁当に目を遣ると、
「そんなに恥かしいかなぁ、、。」
と、 呟いた。
午後の授業を知らせる鐘が鳴り始めていた。
第122回に続く